グソクムズ、田中ヤコブ、えんぷてい……最後まで言葉とサウンドに耳を傾けたい、懐かしくも新しい日本語ポップス
音楽を広く届ける手段として楽しい振り付けや短い秒数で切り取ってもわかるキャッチーさが必須要素となりつつある昨今。その一方で、歌詞の表現力や情景描写を強みとした丁寧な日本語ポップスを生み出すバンドやシンガーも着実に注目を集めつつある。普遍的な懐かしさとともに、むしろ新しさすら感じるアーティストたちを本稿では紹介していきたい。
2014年に結成されたグソクムズは温かな詩情が漂う楽曲を得意とするロックバンドだ。2022年12月リリースの2ndアルバム『陽気な休日』ではメンバー全員が作詞作曲に参加し、多彩な表現で日本語ポップスを追求した。どの楽曲もリスナーの記憶をくすぐるような歌詞ばかり。90’s J-POPのフレーバーが漂う「冬のささやき」では〈吐いた息は空に吸い込まれて/広がる辺りは魔法がかかる〉と歌い、フォーキーな切なさが薫る「夢にならないように」では〈夏の終わりは いつでも/生温い感度で 風めく〉と一節目から綴る。日々の景色や季節の匂いを鮮やかに言語化する、見事なソングライターが揃ったバンドだ。
田中ヤコブはバンド・家主のメンバーとしても活動するシンガー。音源ではほぼ全ての楽器演奏を1人で手がけており、2022年12月リリースの3rdアルバム『IN NEUTRAL』ではパーソナルな日々の感情が個性的な日本語表現で歌に乗せられている。詫びしいアコギの音色で〈楽しいことが続いたら 悲しいことが起こってしまいそう〉と嘆く「sadness fanclub」もあれば、家主の楽曲で聴かせるような激しいギターソロが唸るエネルギッシュな「サイクルズ」もある。気分が昂る日もあれば、妙に不安な時もある、そんな気分の揺れをユーモラスな言葉で綴っており、じんわり心に効く歌をくれるシンガーだ。