相川七瀬が大事にする“静”の表現 「できる限り長く楽しく歌っていきたい」これからに向けた展望も語る
『中今』は私のこれからの10年を支えてくれる
――ではあらためてアルバム『中今』のお話を伺いましょう。資料を見ると、収録される楽曲の制作時期には開きがあるようですね。
相川:はい。基本的には元々、ストックしてあった曲で構成したんですよ。先ほども言いましたけど、去年の7月7日に「むすんでひらいて」ができた段階で、1枚のアルバムとして必要なパーツをあたためていたものから探していった感じで。1番古い曲は「永遠の糸」ですね。これはもう20年くらい前には完成していたんですよ。いつか出したいという思いがようやく叶って、「収まるべき所はここだったのね」っていう感じです。
――元々はラブソングとして書かれていたそうですね。
相川:切ない恋の歌でした。でも春日大社の歌唱奉納を終えてから、そこで感じた張り詰めた空気をイメージしながら歌詞を書き直したんです。元々、かなり完成度の高い詩だったのでそのまま出してもよかったんですけど、新たな歌詞がすっと出てきたんですよね。「ああ、私の書くべきことはこれだ」と自分でも歌詞に疑いがなかった。何事においても「小さな思いからすべては始まっていく」というメッセージを最後の1フレーズに込めることができたのですごく感慨深いです。
――聴きようによってはラブソングと捉える人がいるのかもしれないですね。
相川:そうそう。狭義で見ればラブソングにも捉えられるし、広義で見るともっと大きな愛や時のはかなさみたいなものが見えてくる感じに仕上げられたことにも満足しています。
――「心のバトン」は2012年には完成していたと伺いました。
相川:はい。この曲ができた後にオリジナルアルバムはいくつも作ってはいるんですけど、なんとなくどこにも交わらなかったんですよね。ライブでは1、2回歌ったことがあるけど音源としては未発表だったので、今回歌詞を少し変えて収録しました。あと「Crystal Heart」は元々、Rockstar Steady(相川が2010年に始動させたガールズバンドプロジェクト)として出した曲で。自分としてすごく大事なメッセージを歌った曲でもあるので、相川七瀬名義で歌い直して、しっかり残しておきたいと思ったのが今回セルフカバーした理由です。
――コロナ禍の情勢の影響を感じさせるのは「Pray for the world」です。
相川:まさにコロナ禍に作った曲です。想像もしていなかった世の中になってしまったときに、ミュージシャンである自分にはいったい何ができるのかということをすごく考えたんですよね。そこで感じた思いを残しておくべきだと思ったので曲として形にしました。「光の船」も同じタイミングでデモはできていました。この2曲も含め、今回は気づけば(池田)綾子ちゃんに作ってもらった曲が多くなりました。綾子ちゃんに曲をお願いするときは歌詞が先にあることが多いんだけど、共にしてきた時間がどんどん増えていったことで、私の求めるものをしっかり形にしてくれるんですよね。そういう意味では、納得のいく作品を一緒に作れる大切なパートナーだなっていう思いがあります。
――また、今作の1曲目に収録されている「ことのは」のリアレンジバージョンと、ラストに配置されている「むすんでひらいて」の2曲においては雅楽のアレンジを盛り込むという大きなトライをされていますね。
相川:最初はピアノやバイオリンを使ったオーケストラアレンジのイメージを持っていたんですけど、「世界最古のオーケストラってなんだろう?」ってふと思ったときに、「それって雅楽じゃん!」ということに気づいたんです。そこで、和楽器とポップスとのコラボを沢山経験されている宮本卯之助商店さんにご協力いただいて、今回の形が実現しました。今までまったく知らない世界だったので、本当に勉強になりましたね。当初は「むすんでひらいて」だけ雅楽アレンジにする予定だったんですけど、その仕上がりがあまりに良すぎたので、1曲じゃもったいないということになって。「ことのは」のリアレンジバージョンも雅楽でやることにしました。
――雅楽のレコーディングはどんな感じなんですか?
相川:ものすごく大きなレコーディングスタジオを借りてたんですけど、ブースに入りきらないくらい大きな大きな太鼓が運ばれてくるんですよ(笑)。どの音が曲に合うのかがわからないから、何十種類も運び込まれて圧倒されました。いざ音を出してもらうと、普段のドラムのレコーディングとはまったく違った魂が震えるというような興奮があって。お琴の音も素晴らしかったし、最後に録った笛もすごかった。フルートの音でそよ風を感じることは今までにもあったんですけど、雅楽の笛は森の中で風に吹かれている感覚になるんですよね。演奏される方が「雅楽の笛は風の歌なんだよ」っておっしゃっていましたけど、本当にその通りだなって思いました。
――雅楽のアレンジだからこそ引き出される歌もありそうですよね。
相川:そうなんですよ。雅楽には指揮者がいるわけでもないし、クリックがあるわけでもないので、基本は演奏者の呼吸でリズムが展開していくんです。だから、その呼吸を自分がちゃんと捕まえていないと歌えない。実は「むすんでひらいて」の歌に関しては、一度完成したものを春日大社での歌唱奉納の後にもう一度録り直したんですよ。春日大社での歌を聴いたディレクターが、「こんな風に歌えるなら絶対録り直すべきだ」って言ってくれて。
――相川さんはこの25年間、ビートが刻まれてる曲を歌うのが基本だったわけで。呼吸を捕まえるっていうのはなかなか難しそうですよね。
相川:そうなんです。だから最初にレコーディングしたものは、ビートを刻むようにカチカチなボーカルになってしまっていたんだと思います。でも春日大社で歌ったときは、自然の中で自分の呼吸を感じながら歌うことができたんです。その違いを指摘されるまであまりわからなかったんだけど、2度目のレコーディングではそこをちゃんと意識化して再現することができました。自分にとって貴重で素晴らしい体験になったなって思います。
――『中今』という作品を完成させたことで、未来への期待も膨らんでいますか?
相川:すごく膨らんでいます。今回、雅楽を取り入れたことで、表現においてものすごい広がりを得たというか。もし雅楽とコラボレーションをしてコンサートができたりすれば、その可能性は限りなく広がっていくと思うし。『中今』は私のこれからの10年を間違いなく支えてくれるものになるので、相川七瀬の“動”を表現するロックと並走しながら、こちら側の世界も大事にしていきたいと思っています。
――キャリアを重ねていくことに対しては、気負いなくナチュラルに向き合えている感じですか?
相川:はい。今はただ純粋に、できる限り長く、楽しく歌っていきたいと思っています。変に焦ったり、計算したりするのではなく、歌えている喜びやありがたさを感じながら歩んでいけたらなって思います。もうじき30周年が見えてきますけど、前を走っている先輩方を見れば、みなさん50周年を迎えたりしているわけで。そこからしたらまだまだ私なんて小娘ですね(笑)。
――逆に若い世代のアーティストについてはどうご覧になっていますか?
相川:子供たちがいろんな曲を家で聴いているので、私自身もいろいろと触れていますよ。かと思えばTikTokで90年代の歌が流行ってて、急に昔のJ-POPを子供が歌い出したりとかもして(笑)。そういう状況を見ると、いい音楽は時代なんて関係なく受け入れられるんだなってことにあらためて気づくし、音楽をやっている身としてはすごくやりがいを感じます。今の若い世代の子は、過去の曲であってもフラットに聴いてくれますから嬉しいですよね。だから私もできるだけ、若い世代の人たちのライブは観に行くようにしてます。そうすることで初心を思い出させてくれたりとか、いろんな刺激をもらいます。
――相川さん的に推しのアーティストは?
相川:本当にいろいろ聴きますけどね。去年はNiziUとかあいみょんとか、たくさんライブにも行きました。そんな中、息子が優里ファンなので、私もめちゃくちゃ好きになっちゃって(笑)。優里くんの新曲はいち早く聴いてます。
――へぇ!
相川:そしたら、この間、優里くんがストーリーズで私の1stアルバム『Red』(1996年)を聴いてくれてるって言ってて、本当に嬉しかったです。いやぁ、本当に常に新しいものに触れていく、自分をアップデートさせることは大切なんだとつくづくと感じています。
――(笑)。ここからどんどん若返っていく相川さんに期待してます。
相川:うん、どんどん若返っていきたいと思います。心はね(笑)。
※1 https://natalie.mu/music/pp/aikawananase
■リリース情報
『中今』
発売:2023年1月25日(水)
価格:¥2,750(税込)
https://nanase.lnk.to/nakaima
■ライブ情報
『相川七瀬 LIVE TOUR 2023 ~Over The Moon~』
愛知公演
2月10日(金) NAGOYA ReNY Limited
大阪公演
2月11日(祝・土) Billboard Live OSAKA
東京公演
Birthday Special
2月16日(木) Shibuya DUO Music Exchange
相川七瀬 オフィシャルサイト
https://www.nanase.jp/