安田レイ×Yaffle特別対談 「Circle」で大切にしたライブ感から、洋楽をルーツに持つからこそ感じる日本語の面白さまで

安田レイ×Yaffle特別対談

 今年デビュー10周年を迎える安田レイが、3年ぶりのアルバム『Circle』をリリースした。2021年はJQ from Nulbarich、TENDRE、tofubeats、H ZETTRIOが参加したコラボEP『It’s you』、2022年にはTHE CHARM PARKが「風の中」を提供、と積極的に様々なアーティストと制作を重ねてきた安田。今作『Circle』にもYaffleやVivaOla、熊木幸丸(Lucky Kilimanjaro)が参加している。リアルサウンドでは今回、表題曲をプロデュースしたYaffleと安田の対談を企画。藤井風をはじめ数々のアーティストの楽曲をプロデュースしてきたYaffleが感じた安田の歌声の魅力や、楽曲の制作経緯を語ってもらった。(編集部)

Yaffleとのレコーディングで引き出されたライブ感やひらめき

ーー 「Circle」という曲は、おふたりが初めて会ったその日にスタジオに入り、作ったそうですね。

安田レイ「Circle produced by Yaffle」-Lylic Video-

安田レイ(以下、安田):そうです。Yaffleさんのスタジオで。最初に、フワっとですけど曲の方向性をYaffleさんに伝えて。そこからはすぐに、音を組み立てていく作業に入りました。私、こんな近くで見ていていいのかなというくらい、Yaffleさんの真後ろに座って、制作の秘密を覗き見するようでした(笑)。その日のうちにいくつかトラックを聴かせてくれましたよね。

Yaffle:そう、3パターン、3アイデアね。

安田:こんな短い時間で、どうやってアイデアを出すの? って驚きましたね。Yaffleさんのトラックメイクのスピードは日本で一番だと思います。しかも大変そうなそぶりも見せず、流れるように作っていって。

Yaffle:いやもう、安田さんに言われるまま、命令されるままに(笑)。

安田:そんなに言ってませんよ(笑)。最初に、音楽のスタイル的な話に加えて、私が今年ソロデビュー10周年を迎えるので、デビュー時のように明るくポップなだけではなく、ダークな部分や強さもありながら、前向きなメッセージで終わらせたいということは伝えました。

Yaffle:参考例として挙げてもらった曲も、そういった内容のものでしたね。その場でもいろいろと曲を聴いて、連想ゲームのようにアイデアを出していって。

安田:目の前でトラックができていくのを見ながら、自分なりにメロディを考えて、フレッシュな気持ちのまま録音マイクの前に立つという進め方でした。ただ、レコーディング本番ではガラッと変わりましたよね。

Yaffle:最初の日は、こうなったらいいなという理想形を僕なりに思い描いてはいたけど、内緒にして。サプライズ好きなんで(笑)。

安田:本番でガラッと変わるのがおもしろかったです。これまでのレコーディングはたくさん準備をして、それを完成させる場だったんですけど、Yaffleさんはその場で次々に、「こうしたらどう?」とアイデアを伝えてくれて。

Yaffle:僕が思いつくというよりは、やってみてもらって、それができたらこれもできるんじゃない? って。インタラクティブというか、即興的なものを出してもらった後に、それを僕がデザインするみたいな感じですね。

安田:終わり間際に、少しメロディを崩してみてと言われて。私もR&Bが大好きで、曲の終盤で崩しまくる歌い方にはグッとくるし、自分でもやりたいことなんです。それで試したら、「いいじゃん、もっともっと」とゴリゴリ押されて(笑)。最初はフェイク(メロディを崩す歌唱法)のつもりでやったものが、どんどんコーラスのようになっていって、「すごい、ゴスペルになってきた!」って。私は先ほども言ったように、準備したものをレコーディングすることが多かったので、ライブ感というかひらめきを大事にしている方だなと、改めて思いました。

Yaffle:一緒に作っているんだしね。「こうやって」と指示されたものより、いろいろやってみて「いい歌が録れた、これを使いましょう」という方が結果的に、自分らしい仕上がりになったと思いません?

安田:そうですね。自分のルーツであるR&B的な要素を、安田レイというフィルターを通して表現できたのは幸せなことだと思います。聞きたいんですけど、安田レイと楽曲を作ってみて、どうでしたか?

Yaffle:楽しかったですよ。おもしろかったし。インタラクティブなレコーディングは誰とでもできるものじゃなくて、やってみてって言っても、何も出てこない場合もあるんです。安田さんとは、ポンポンっていくつもひらめきがあって、楽しくやれましたね。

安田:ありがとうございます。相手のことを知らないでいきなり曲作りを始めるのと、以前から一緒に作っていた相手とまた曲をつくるのでは、どちらがやりやすいですか?

Yaffle:慣れすぎるとマンネリになりますよね。まあ慣れちゃったら、ハズすことを考えるけど。こう出したら、こう返ってくるだろうと予測できるから、それもまた楽しいというのはある。でも初顔合わせだと邪心がなくて、まずそれが良い。いつもの制作はどういった感じなんですか?

安田:時と場合によりますけど、私がピアノで弾いた3コード、4コードのループを元にアレンジしてもらうとか、トラックが出来上がった状態で、そこに自分でメロディを乗せていくことが多かったですね。ただ今回のニューアルバムは共作者の方と一緒にスタジオに入って、セッションのように作ることが多くて、すごく楽しいなと。プレッシャーを感じたり、ちょっとピリッとした空気感の中で作ることが心地よくて、ハマっちゃいますね。

Yaffle:顔を合わせてつくると、言葉にしなくてもリアクションがわかるから。メールだと「良いです」「違います」としか言えないけど、顔を見ていれば、今のは良さそうだなとか、実際に感じられる。そういった生の反応に、出来上がるものは影響を受けるから。

安田:やっぱり、相手をすごく見てますよね。観察力がすごい。Yaffleさんとはずっと共作したくて、最初の連絡は2021年の夏頃にしていたんです。安田レイを知っていてくれたそうで、嬉しかったです。

ーーYaffleさんは、安田さんの歌をどう評価していますか?

Yaffle:いい声ですよね。パンチのある歌声で。強く歌うからパンチがあるってわけではないし。雰囲気に逃げるのは簡単なんです。トラックによっては、ピッチ(音程)が不安定なぐらいでいい、それがオシャレとされているジャンルもあるから。だけどそんなこと、本当はないんですよ。ボーカルがちゃんと立っていないと、他の、本来なら不要な要素でスカスカのところを埋めることになるから、結局ごちゃごちゃになるんです。ちゃんとボーカルが立っていれば、何もしなくていいわけで。何かしようとすると、結局ボーカルとトラックがぶつかっちゃう。僕の方でボーカルに厚みを出してあげたりするのは、機能的な面で補足しているだけで、本質が上がるわけではないんです。僕の基本的な好みとしては、ばーんと真ん中にボーカルにいてもらって、周りだけちょっと音で支えるのが一番いい。レイさんはまさにそういうシンガーなので、作っていて楽しかったですね。

ーー安田さんのようなパンチのあるシンガーは減ってきていますよね。

Yaffle:雰囲気系のシンガーが増えているのはあると思います。今、ベッドルームミュージック(制作も発信も自室で完結するようなスタイルの音楽)が増えて、ディーバのように歌い上げるのではなく、あえて上手さを出さない方がいいといったスタイルのシンガーが増えていて。

安田:そういう方はすごく引き算で、歌ったり、楽曲制作をしていますよね。

Yaffle:そう、私小説的な曲が多い。スタイルの問題なのか、歌唱力の問題なのかというのは、全く話が違うことで。必ずしもディーバのように歌い上げなきゃいけないってことはないけど、上手くても歌い上げない人が増えている気はしますね。

安田:時代に合わせた歌い方をしようとしているのかな?

Yaffle:時代性と言えば、ビブラートが、今と昔ではけっこう違うのかなって。昔は、アァアァアァアァ〜って、深くて長い。今はそんな歌い方をする人はなかなかいないから。だから時代感って、トラック半分、歌い方半分ですよね。大御所の歌い手が、若い人の曲をカバーする時があるけど、ビブラートが一番違う。

安田:ああ! なるほど。

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