クリープハイプ、下北沢DaisyBarで示したより高みを目指す意志 “唯一の居場所”だったライブハウスに贈る感謝の言葉

 ネタバレ厳守のため詳細は語れないが、新旧織り交ぜたセットリストは緩急が激しく、一瞬たりとも気が抜けない。新曲はフロアをハッピーな空気にする求心力に溢れていたし、「ナイトオンザプラネット」では尾崎がハンドマイクを手にし、シンセサイザーの同期が効いたメロディに身体が心地好く揺れる。

 中でも印象に残ったのがキラーチューン「社会の窓と同じ構成」。これまで通りであれば大きな歓声が上がるパートに差し掛かると、久しぶりの声出し解禁のせいか、オーディエンスからは遠慮がちな声が上がる。これには堪らずメンバーも笑みを浮かべ、声を“出す”でも“出さない”でもない中途半端な様子に尾崎は「こういう空気がね、“クリープハイプのファン”という感じがして、愛おしいです」と口にし、続けて「でかいフェスまでに練習しといて下さい!」と照れ隠しのようにファンたちを煽った。

長谷川 カオナシ

 今夜のライブについて「久しぶりにここに戻ってきたら、やっぱりいいな……」と話し始めた尾崎。その言葉に「おかえり!」と歓声を送るオーディエンスに対し、「とは思わなかった、って言いたかったんですよ」と笑いながら切り返す。「やっぱりデカい場所の方がいいですね、トイレとかも楽屋の中にあるようなところがいい」「それにデカいところなら、小さいところに入れなかったお客さんにも届けられるし」と早口で続けると観客から笑いが起こる。そして「小さいところに戻りたくない、ここは居場所じゃないって、そう思わせてくれたことに感謝します」と語り、バンドとしてより高みへ向かう意志を改めて示した。インディーズ時代の自身たちの唯一の居場所となっていたライブハウスへの感謝を、愛があるからこそ言えたであろう、彼らしいひねくれた言葉で紡いだ。

小泉 拓

 下北沢DaisyBarのキャパシティは140人ほど。当然だが、今のクリープハイプにとっては手狭と言っていい。ここからスタートしていくライブハウスツアーの後には、2都市4公演でのアリーナツアーも控えている。さらにライブでは3月に新たなEP『だからそれは真実』をリリースすることも発表された。結成当初のメンバーが抜け、尾崎のソロプロジェクトとなった時期を経て、現在の4人のクリープハイプとなるまでの歩みをずっと見届けてきたこの場所から、彼らの新しい旅が始まっていくのだ。演奏が終わり、開演と同じように拍手で送られながらフロアを通って去っていく4人が、少し居心地が悪そうにしていたのがたまらなく愛おしい。

 尾崎自身は“小さくて綺麗じゃないライブハウス”にはあいにくもう戻りたくないようだが、彼らにとってゆかりの深い場所であるということを抜きにしても、やはりライブハウスには彼らのようなロックバンドがよく似合う。たとえ彼ら自身がどう思っていようが、似合ってしまうのだ。

 「原点に立ち返る」という言葉が合っているかはわからないが、バンドをさらに大きいものにしたいという初心の気持ちを胸に、クリープハイプはライブハウスツアーを経て過去最大規模のアリーナツアーへと向かう。ただ願いを少し言ってもいいのであれば、いつでもいいから、また気が向いたなら、“小さなライブハウス”にも時々戻ってきてほしいと思うライブだった。

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