TOOBOE×野田クリスタル特別対談 「チリソース」MVでの共演を経て惹かれ合う二人の共通点とは?

 「なぜこの二人が?」と多くの人が思ったに違いない。

 昨年12月28日、ボカロPのjohnによるソロプロジェクト・TOOBOEが新曲「チリソース」をリリースした。疾走感のなかに随所にTOOBOE節が効いており、キャッチーなメロディも見事。TOOBOE史上最も勢いがあり、歌詞の切れ味も群を抜いていると感じる。そんな曲のMVに出演しているのが、2020年の『M-1グランプリ』と『R-1ぐらんぷり』王者のマヂカルラブリー・野田クリスタルなのだ。

 映像では、二人が監督と出演者という設定で、序盤は監督に扮したTOOBOEが、ああでもないこうでもないと演者役の野田にダメ出しをする。その後、ゲームや腕相撲などを通して仲を深めつつ、チリソースを飲んだことで豹変。演者の努力を見ているうちに居ても立っても居られなくなった監督は、おもむろに撮られる側へと飛び込み、最終的に両者は肩を組んで笑顔を見せるというストーリーを描く。

 昨年4月にシングル『心臓』でメジャーデビューし、表題曲のMV再生数は現在900万回を突破。アニメ『チェンソーマン』の第4話エンディングテーマとなった「錠剤」も大ヒット中。まさに今飛ぶ鳥を落とす勢いのTOOBOEと、お笑いの世界で頂点に立った男・野田クリスタル。この垣根を越えたコラボはなぜ実現し、二人はいったいどんな関係性なのか。取材中には野田から「こんなに趣味が合う人なかなかいない」という言葉も聞かれた。今回の共演を通して徐々に惹かれ合う二人に話を聞く。(荻原梓)【記事最後にプレゼント情報あり】

売れるって〈晒し者〉になることとほとんど変わらない

ーーまずはこの「チリソース」という曲で表現したことについて教えていただけますか?

TOOBOE:チリソースというワードは、口から出た辛いもの、つまり人から放たれたピリッとしたキツい言葉たちの比喩なんです。この曲では、そういう酷い言葉を投げ掛けられる“みっともなさ”のようなものを表現したくて。そういう言葉を発してくる人たちを否定したくても否定できないどうしようもなさとか、それに虜にされてしまうやるせなさみたいなものを、なるべく滑稽にバカバカしく表現しようと思って作った曲ですね。

野田:そうだったんだ。最初にMV出演の話が来た時は、お笑い芸人を使うような曲なのかなって疑問に思って。撮影現場に行ったらすごく渋めのセットだったから「俺で大丈夫かな」と思ってましたけど。

チリソース / TOOBOE

ーーこの曲は、歌詞にも〈気づかずいつの間にか晒し者になる〉といったフレーズがあるように、TOOBOEさんが音楽活動に本格的に取り組んでから少し時間の経った今だからこそ生まれた作品なのかなと思いました。

TOOBOE:MVのあのメイクを見たらもう〈晒し者〉ですからね。おそらく自分にも街を歩いてたら周りの人にバレるみたいな時期がいずれ来るだろうし、影響力が大きくなるにつれて、SNSで何か一言でも発信すればその裏の裏まで読まれて大変なことになるみたいなことが、そのうちやって来ると思うんです。そういう、すぐそこにまで訪れている状況に対する覚悟みたいなものが歌詞にも出てますね。

ーー野田さんは2020年の『R-1ぐらんぷり』と『M-1グランプリ』の両方で優勝して、まさに〈晒し者〉になった側ですよね。

野田:この前もジムでシャワーを浴びようと思って全裸になってたら、そこにいた人に「一緒に写真撮ってください」って言われて、どうするつもりだよっていうことがありました(笑)。完全無防備な状態の時に写真撮るって、もうそれは犯罪だろって。

一同:(笑)。

野田:まあ、声を掛けられるのはありがたいことですけど、それと同時に良い意味でも悪い意味でも人生が変わったなと思いましたね。

TOOBOE:売れるって〈晒し者〉になることとほとんど変わらないことなんじゃないですかね。僕の周りのアーティストにも、何かやったらいつも揚げ足を取られるみたいなことが続く時期があったので、音楽の世界もそうなんだろうなと思います。

野田:お笑い芸人で言うと、それこそ今だったら去年の『M-1』で優勝したウエストランドが〈晒し者〉なんだろうね。もう晒されすぎて傷もついてないぐらいにはなってるかもしれないけど。晒され続けると、もはや晒されすぎてシャットダウンしてるというか、1~2個だと気になっちゃうけど、逆に多すぎると脳が麻痺してもう何も感じなくな(笑)。

TOOBOE:その境地に早く辿り着きたいです(笑)。

ーー野田さんは過去にインタビューで「『R-1』で優勝するまでは地獄の10数年間だった」という話をされてましたが、この曲の冒頭で歌われる〈俺とお前 この地獄で/何度も何度も生きてこうぜ〉というフレーズには感情移入する部分もあるのでは?

野田:僕の場合、(〈俺とお前〉に当てはまるのが)コンビなんですよ。『M-1』の決勝に初めて出場して最下位だった時に「最下位になってるやつがもう一人いるんだ」って思ったんですよね。こんな仕事って他になかなかないと思うんですよ。何か不幸なことがあったら、普通は自分だけに襲いかかるじゃないですか。でも、この仕事は全部二人。一緒に二人で地獄に落ちるんですよね。結局個人に降りかかる地獄は変わらないんだけど、なんとなく相方がいることで痛みが和らいでるような気もするし、一人で地獄に落ちるよりは何倍もマシではある。それはこの曲が歌ってることとリンクするところかもしれないです。

TOOBOE:僕はマヂラブが優勝した年の『M-1』が一番ドラマチックだと思ってて。3年前に最下位だった時から優勝するまでのドラマ性が僕の中でぴったりハマったんですよね。それが今回MV出演を依頼した理由の一つでもありました。

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