きゃない、「バニラ」ストリーミング累計再生回数1億回突破の軌跡 各アワードも受賞、共感性の高い楽曲力
シンガーソングライター、きゃないの楽曲「バニラ」がBillboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数1億回を突破した。(※1)
今年男性ソロアーティストがリリースした楽曲の中でストリーミング再生回数の累計が1億回突破したのは、きゃないの他、星野源、米津玄師、優里ら。デビュー前にも関わらず、きゃないは数年に渡って時代のトップを走るアーティストに続く快挙を見せた。(※2、※3)
きゃないは、2019年に大阪にて路上ライブを開始し、翌年の上京以降も路上ライブで実力を培ってきたシンガーだ。2021年に「イヌ」を演奏する路上ライブ映像がTikTokにて話題になると、同年12月には初のフルバンドワンマンライブを恵比寿LIQUIDROOMにて開催。今年は初のツアーを成功させ、コンスタントな路上ライブと楽曲の魅力で瞬く間に人気を拡大してきた。
累計再生が1億回を突破した「バニラ」は2022年3月にリリースされた楽曲で、急上昇中のアーティストを抽出したBillboard JAPAN“Heatseekers Songs”の2022年年間チャート1位を獲得したほか、LINE MUSICで話題になったトレンド曲として「トレンドアワード」にノミネートされるなど、いくつものアワードを受賞(※4、※5)。高校生最新トレンドランキングの「2022年に一番流行った楽曲は?」の項目では、TikTokなどで話題になったTHE SUPER FRUIT「チグハグ」やAdo「新時代」、SEKAI NO OWARI「Habit」に並び5位にランクインしている(※6)。MVには櫻井海音とABEMAオリジナル恋愛番組『オオカミシリーズ』キャストの兼清萌々香が出演したことでも話題となり、今年1年勢いを失速させることなく人気を集めた。
きゃないの楽曲は、1990年代から2000年代のJ-POPを彷彿とさせるどこか懐かしいメロディラインにわずかに影のある歌詞が乗るという、ギャップのある組み合わせが魅力を醸している。〈あぁ 君の事愛してる 心から〉との歌い出しをはじめ、まっすぐで飾り気のない言葉とシンプルなサウンドから成るストレートなラブソングの「バニラ」。「死んでしまって会えなくなった恋人に会いに行く」という裏設定に通じるような、わずかに漂うもの悲しい雰囲気やDメロの〈嘘だらけの世界に〉という棘のある言葉、それらが力強く穏やかな歌声が紡がれることで表出する切なさが中毒性を生み出している。
「バニラ」以外にも、きゃないの楽曲には穏やかな曲調と、歌詞やタイトルとのギャップが中毒性を発揮しているものが多い。序盤〈飼い主を待つ犬みたい ソワソワしてる〉と微笑ましい描写がされる「イヌ」は、こちらもどこかノスタルジックなJ-POPを彷彿とさせるミドルテンポの楽曲。しかし歌詞を読み込んでみると、未練のある失恋をした人物の虚無感やもどかしさが感情豊かに描かれていることがわかる。
「コインランドリー」はBメロでクラップが入る部分もあるなど、じんわりとした明るさのある楽曲である。ライブで演奏すれば会場に一体感をもたらすようなトラックとは裏腹に、歌詞では〈もう一日が終わる 多分似たような明日だ〉と日常に揺蕩う虚しさが歌われる。こういった親近感のある穏やかなメロディと、そこで歌われる歌詞の内容が織りなす陰陽のバランスが、きゃないの楽曲をより魅力的なものにしているのだろう。
さらに、「コインランドリー」の〈前向きな後ろ向きは どう進めばいいんだろう〉、「イヌ」の〈人恋しい だけどあなた以外 くだらない人ばかり〉など、きゃないの楽曲では多くの葛藤や逡巡のようなものもリアルな筆致で描かれる。きゃないが描くそれらの歌詞に共感し、力強く歌い上げるハスキーな歌声に救われる人も、特に多感な若い世代には多いはずだ。
また、路上ライブという活動形態とTikTokの相性のよさも、彼が飛躍を遂げた理由のひとつであっただろう。TikTokの動画によって人気に火がついたあとも、精力的に首都圏での路上ライブを続けていたきゃない。その模様が多くのファンによって撮影、そして主にTikTokで拡散されたことでTikTokユーザーの若者を中心にさらに知名度を広げていった。路上ライブという、観客と距離の近いパフォーマンス形態に加え、そこでのファンによる撮影、拡散の影響力は、ファンときゃないが協力して成長しているという一体感も生まれたはず。そういった距離感や、気軽に行きやすい路上ライブという形態もあり、より若者からの支持を集めるという結果に至ったのではないだろうか。
楽曲と歌詞の双方の魅力で2022年飛躍を遂げたきゃない。2019年に活動を開始し、今年7月より活動休止中ということもあり現在リリースされている楽曲数は多くはないが、今後活動を再開させた際には、持ち前のメロディセンスとリアルな感情を捉える歌詞でまた新たな物語を紡いでいくのだろう。
※1 https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/119427/2
※2 https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/113275
※3 https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/115885
※4 https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/119479/2
※5 https://note.linemusic.jp/n/n6e074a88ca74
※6 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000026876.html
きゃない公式サイト:https://kyanai.com/
きゃない YouTube チャンネル:https://www.youtube.com/channel/UC5QvwJn4IHAnQcImGX03aPA