宇多田ヒカル、「First Love」リバイバルヒットに見る各国への影響力 2022年の動きと重ねて分析
宇多田ヒカルの「First Love」が、今、日本とアジアのヒットチャートを賑わせている。
2022年12月14日公開のBillboard JAPAN 総合ソングチャート「JAPAN HOT 100」で7位にランクインと、23年前に発表された楽曲としては異例の急上昇を見せているこの曲(※1)。着目すべきはストリーミングサービスの再生回数だ。
Apple Music デイリーTop 100の日本のランキングでは、本稿を書いている12月15日時点で3位。Official髭男dism「Subtitle」、米津玄師「KICK BACK」という2022年下半期を代表する2曲に続く順位を12月8日から1週間連続で記録している。
アジア各国・地域のランキングでも目覚ましい数字となっている。Apple Music デイリーTop 100では台湾で1位、マカオと香港で2位(12月15日時点)。Spotifyデイリーランキングでは台湾で1位(12月15日時点)、Spotifyバイラルチャートでは台湾と香港で1位、シンガポールで9位、インドネシアで11位(12月13日時点)と、国境を越えた反響が広がっている(※2)。
ヒットの背景にあるのが、11月24日から世界配信中のNetflixシリーズ『First Love 初恋』だ。満島ひかりと佐藤健が主演で、「First Love」と「初恋」という2つの楽曲にインスパイアされたドラマシリーズ。90年代後半、00年代、そして現在と3つの時代を交錯しながら、一組の男女の20年余りに渡る“初恋”の記憶を辿るラブストーリーを描く。
ドラマは国内外で大きな反響を呼び、Netflix内では日本のテレビ部門週間TOP10で3週連続1位を記録。台湾で1位、香港で2位、インドネシアで4位、フィリピンで6位、シンガポールで7位とアジア各国・地域でも人気を広げ、グローバル週間TOP10(非英語部門)では3週連続TOP10にランクインする好成績を見せている(※3)。
宇多田ヒカルがデビュー24周年の記念日を迎えた12月9日には、近年の宇多田ヒカルの作品をすべて手がけるグラミー受賞エンジニア、スティーブ・フィッツモーリスが「First Love」を新たにミックスした「First Love (2022 Mix)」が配信リリースされた。Apple Musicではこの曲と「初恋 (2022 Remastering)」のドルビーアトモス版も配信。さらに同日にはこの2曲に加えて宇多田ヒカルのボーカルトラックだけのアカペラ音源も収録した初の7インチアナログ盤『First Love / 初恋』も限定発売されている。
そして、とても興味深いのが「2022年の宇多田ヒカル」をこの現象と重ね合わせたときに、いろいろな文脈が見えてくるということだ。
「First Love」のチャートの数字から見えてくるのはあくまで「Netflixのドラマをきっかけに過去の名曲に再びスポットが当たる」という現象でしかない。つまりは言ってしまえばよくあるリバイバルヒットなのだが、話はそれだけに終わらない。まずひとつ、とても重要な事実は2022年4月、3年ぶりに開催された『コーチェラ・フェスティバル』に宇多田ヒカルが出演してこの曲を歌っていた、ということだ。
決まったのは開催の直前で、メインステージの「88rising's HEAD IN THE CLOUDS FOREVER」への出演。アジアのポップカルチャーを世界に発信してきた88risingのステージに“日本代表”として登場し「Simple And Clean」、「First Love」、「Face My Fears」、「Automatic」の4曲を歌った。そのときのステージがとても印象的で、ちょっと懐かしい感じのダンサーたちのパフォーマンスも含めて、88risingが事前にSNSで「The soundtrack to our youth」(僕らの青春のサウンドトラック)と紹介していたことに合点がいくような内容。宇多田ヒカルの存在が88risingの面々にとってリスペクトの対象だということが示されたステージだった。
加えて、この日の『コーチェラ』には88risingだけでなくリナ・サワヤマやビーバドゥービーやジャパニーズ・ブレックファストなどアジアにルーツを持ちグローバルに活躍するシンガーソングライターも出演していて、そうやっていろいろなアーティストが織りなすアジア発のポップカルチャーの新しい潮流の中に宇多田ヒカルがいるということを感じられた出演でもあった。
そういうことを踏まえて「First Love」のアジアに広がる反響を考えると、単にNetflixのドラマをきっかけにしたヒットというだけではない、それぞれの国や地域のポップカルチャーに深く根ざした宇多田ヒカルの影響力を読み取れるのではないだろうか。