“ディズニーへの不満”から始まった世界的ブレイク セイレム・イリース、社会に問題提起するポップソングの求心力

 幼少期にディズニー映画の大ファンだった彼女であるが、当時は「救助されるお姫様」になりたいと思っていたと明かす。

「最初にディズニー映画を見たときは3歳か4歳ぐらいで、完全にハマった。大きくなったらプリンセスになって、囚われた塔から誰かに助け出してもらいたいと思っていた。でも9歳のときに色々理解して、“これは間違えている。誰にも救助される必要はない”って感じた」(※2/筆者訳)

 実際に彼女は9歳の頃に作曲教室で、現実はおとぎ話のようにハッピーエンディングにならないこともあるということを伝えるため、おとぎ話のエンディングを書き換えるような歌詞を書いていたという(※2)。過去の「ディズニープリンセス」のイメージに込められたジェンダーバイアスのイメージや、「愛」の厳しい現実を歌ったリリックは多くの人から共感され、50万ユニット以上のセールスでアメリカレコード協会からゴールド・ディスク認定されている。ちなみにセイレム・イリースは、「Mad at Disney」をリリースして以来、「怒られるのが怖くてまだディズニーランドにいけていない」と明かしている(※3)。

 セイレム・イリースがポップソングでこのような社会問題について声を挙げたのは「Mad at Disney」だけではない。彼女は「Moment Of Silence」で、多くの州で銃が規制されるより前に人工中絶が規制/禁止されたことに声を挙げている。〈銃を持つ自由を尊重するのであれば、私たちの体について選択をする自由も尊重して/もし私の体に弾薬が入っていたら、もっと権利があったかもしれない〉(※筆者訳)という旨のリリックを歌い、銃と人工中絶の規制を比較している。また、「Mad at Disney」のセルフリミックスとして、米最高裁(SCOTUS)が人工中絶の合憲性を否定したことに対する怒りを露わにした「Mad at SCOTUS」もリリースしている。

 セイレム・イリースが共感されるのは、キャッチーなメロディに乗せて社会問題について声を挙げたときだけではない。彼女が2022年2月にリリースした「PS5」は、ゲーマーであるセイレムの彼氏に対して「私とPS5、どっちを取るの?」と問う曲であり、そのような等身大な感情も多くのファンに共感されている。Z世代だけではなく、社会に生きる多くの人たちが共感するような内容や、社会に蔓延る問題に対してポップスで声を上げる姿勢が評価されていると言える。

 現在世界中のファンベースが急成長中のセイレム・イリースであるが、若手K-POPグループとのコラボも目立つ。TOMORROW X TOGETHERの「Anti-Romantic」、そして今年の『NHK紅白歌合戦』出場が決定しているLE SSERAFIM「Good Parts (when the quality is bad but I am)」の作曲を担当しており、自身の「PS5」にもTOMORROW X TOGETHERが参加している。バックグラウンドの違う若手同士が、国境を越えてお互いの楽曲に力を貸しているということも、セイレム・イリースが世界中で注目されている理由であろう。

salem ilese- PS5 with TOMORROW X TOGETHER feat. Alan Walker (official japanese lyric video)

※1:https://www.thelineofbestfit.com/features/interviews/how-did-salem-ilese-go-from-dropout-to-44-million-streams-in-a-matter-of-mo
※2:https://people.com/music/salem-ilese-discusses-her-viral-song-mad-at-disney-and-using-her-platform-for-good/
※3:https://vietcetera.com/en/8-facts-about-salem-ilese-the-singer-songwriter-whos-gone-viral-on-tiktok-for-her-trendy-songs

 

■リリース情報
「Mad at Disney」
2020年7月24日(金)デジタル配信
デジタル配信
https://caroline.lnk.to/madat

EP『Unsponsored Content』
2022年2月25日 デジタル配信
2022年8月17日(水)日本独自企画盤CDにてリリース
2,420円(税込)
※日本オフィシャル・インタヴューの翻訳、歌詞、対訳付
※初回生産限定特典として、「PS5」アーティスト集合写真のステッカー封入

<収録楽曲>
1. Ben & Jerry
2. PS5 with TOMORROW X TOGETHER & Alan Walker
3. Jake from State Farm
4. Hey Siri
5. Mad at Disney
6. Coke & Mentos
7. PS5 (Fortnite Battle Pass Gamer Remix with Alan Walker & Abdul Cisse)
8. PS5 (PS4 Version)
9. PS5 (PS3 Version)
10. PS5 (PS2 Version)
11. PS5 (PS1 Version)
12. PS5 (Xbox X Version)
13. PS5 (Nintendo Switch Version)

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