ドラマ『silent』と『エルピス』、今期話題の2作品で光る音楽の演出 物語の中核をさりげなく担う役割
10月クールで特に注目を集めるドラマ『silent』と『エルピス ―希望、あるいは災い―』(フジテレビ系)。丁寧な脚本と役者陣の見事な演技に加え、その洗練された演出が視聴者を惹きつけてやまない。本稿では両作がこだわる音楽の演出を掘り下げたい。
川口春奈主演、生方美久脚本によるドラマ『silent』。主人公・青羽紬と元恋人であり中途失聴者の佐倉想(目黒蓮/Snow Man)、そして周囲の人々の交流を描くラブストーリー。全編通して劇中で流れる音楽は控え目で、台詞の響きを強く意識した演出が為されている。また手話で会話するシーンは台詞が発せられないからこそ、劇伴が強く印象に残る場面が多い。音の足し引きによって、コミュニケーションの輪郭を際立たたせているのだ。
加えて、主題歌であるOfficial髭男dism「Subtitle」も高い親和性を誇る。物語の感情が高ぶった瞬間に流れる歌い出しもさることながら、音がふと途絶えることでも場面を焼きつけていく。ドラマのタイトル通り、“静けさ”にこそ美学を見出すような演出が光っている。
想と紬は音楽を通して交流を深めたこともあり、劇中には多くのCDが登場する。特にスピッツは重要な役割を担っている。恋が結ばれた時の「魔法のコトバ」、別れを回想する「楓」、また紬が「みなと」をイントロで止め、別れたばかりの恋人・湊斗(鈴鹿央士)への思いを巡らす……など、過去の記憶にも現在進行形の出来事にも繋がる音楽の魔法を物語に組み込んでいるのだ。
第9話では想が大好きな音楽を聴けなくなっていく過去が描かれ、そこで流れた「魔法のコトバ」は胸を引き裂くような響きだった。しかし想が自室のCDを整理するシーンや、聴力を失ってから発売されたスピッツのアルバム『見っけ』を買うシーンでこぼれ落ちた愛おしい思い出が再び想を音楽へと導いていく。紬もまた、CDに対する愛着を語り歌詞カードを眺める。音楽に刻まれた“言葉”の存在が2人の心を溶かす。これもまた、音楽が紡ぐ見事な心情描写と言えるだろう。