TENDRE、“音楽の道”を歩んできたことを肯定する感動のステージ 河原太朗の両親とも共演果たしたツアーファイナル
しかしその後、この日一番、いやこれまでのTENDRE史上でも、最も美しい瞬間と言うべき場面が訪れた。アンコールで、TENDREの両親が登場したのだ。かねてよりインタビューなどでTENDREは、河原家が音楽一家であることを口にしていた。まさにそのジャズシンガーである母・厚子と、ベーシストの父・秀夫が舞台に顔を出すと、どよめきにも似た歓声が発生。母は「TENDREは私の知ってる太朗じゃない」と会場を笑わせる。父は「こういう機会を設けてくれて嬉しいです」と丁寧に感謝を伝えていた。
そして“息子・太朗”を含めた3人でジャズのスタンダード「Smile」のカバーと、自身の楽曲「MOON」を披露。長年の活動により蓄積した味のある、いぶし銀のパフォーマンスであった。「MOON」の音源では実際に父の演奏が録音されているが、このサプライズにはファンも驚いたに違いない。歌い終えると3人はハグを交わし合い、会場からは割れんばかりの拍手が起きた。
両親との共演を終えると、興奮冷めやらぬなか再びバンドメンバーが登場。感動のステージにメンバーが「音楽の道を歩んできてくれてありがとう」と伝えると、TENDREは「そういうの言われるとマジで危ないんだよ」と今にも泣きそうであること明かして会場の笑いを誘った。
ライブには様々な形がある。純粋に音楽を奏でる場所でもあるし、仲間と一緒に楽しむための空間でもある。あるいは何かメッセージを伝える場として開催してる者もいるだろう。しかしこのライブは、TENDREが、そして河原太朗が、自分という人間が何であるかを見せる場だったような気がする。
TENDREは涙を堪えながら「この気持ちをどうしよう……」と言った。そして意を決したように「この気持ちを音楽にするしかないですね。これが俺の人生です」と力強く話すと、最後の「LIFE」を高らかに歌い上げ、華麗に公演を締め括った。
緻密と調和、そして洗練を重ねた敏腕ミュージシャンたちによる極上の音楽空間。それだけならいつものTENDREのステージだ。しかしこの日は、そこに遊び心と愛があふれていた。彼の芯にある優しさに触れたような特別な一夜であった。
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