落日飛車、拍謝少年……『2022 TCCF 創意內容大會』から見えた台湾インディーズの未来 現地の模様とともにレポート

『2022 TCCF』から見えた台湾インディーズの未来

 2日目の見どころはオルタナティブロックバンドの拍謝少年(Sorry Youth)です。彼らは今年7月に開催されたZepp New Taipei公演2DAYSも発売から10分でソールドアウトするなど台湾でかなり人気が高く、今年は『SXSW』にも台湾の代表として出演しました。フェス出演等で来日することも多く、日本にもたくさんのファンがいます。彼らの大きな魅力として、まず歌詞が挙げられます。彼らの歌詞の多くは台湾語を用いています。そう、多くの日本人は認知してないと思いますが台湾の多くの人が使っているのは台湾語ではなく中国語(繁体字)になります。そんな台湾語で歌うことには歴史的背景に紐づく「台湾人」としてのアイデンティティの意味合いが強く、2014年のヒマワリ運動以降の台湾インディーズと深い関わりがあります。実はこの日の別のステージに出演していた青虫(aoi)というバンドもほとんどの歌詞を台湾語で歌っていました。つまり台湾のアーティストにとって社会や政治のことを歌うのはごく自然なことなのです。

 そして拍謝少年(Sorry Youth)のメンバーが颯爽とステージに登場。穏やかにイントロが始まると労働者の日々の憂いを綴った名曲「暗流」だと0.1秒で理解したファンから歓声が上がる。長めのイントロを経て歌が始まると一斉に会場のオーディエンスたちがPAに負けないサイズのボリュームで合わせて歌い出す。「おおっ、YouTubeで観てたやつ、今、目の前でやってるやん……」と感慨にふけっていると、ギターの洪水と割れんばかりの歌声は足元からもズンズン響いてきて、そして観ている人たちも思い思いに楽しんでいます。こぶしを挙げて叫ぶように歌う人もいれば、カップルで寄り添いながら見る人もいる。カップルは男女もいれば男性同士、女性同士もいる。「ここはユートピアか……」。サビに至る頃にはもう涙が頬を伝っておりました。

 ホントこんな感じ↓

拍謝少年 Sorry Youth - 暗流 Undercurrent ft. 安溥 Anpu|2019大港開唱 Megaport Festival

 実はこの会場は、先述した『クロスオーバー・パフォーマンス』に当たる舞台で、拍謝少年(Sorry Youth)はANH Designとコラボレーションしました。ANH Designは数多くの台湾における音楽イベントで舞台照明などの演出を手掛けているチーム。どうやら拍謝少年(Sorry Youth)のメンバーとこのチームのオーナーとデザイナーは10年来の友人らしく、ライブのMCでは、お互い10年を違うフィールドでキャリアを積んで、このステージで共演できたことを讃えるという一幕があり、大きな喝采を浴びていました。そしてそこからの「你愛咱的無仝款(Love Our Differences)」という粋な選曲!

拍謝少年 Sorry Youth - 你愛咱的無仝款 Love Our Differences (Official MV)

 今回のショーケースでは落日飛車(Sunset Rollercoaster)や拍謝少年(Sorry Youth)といったすでに人気のあるバンドだけでなく、これからの活躍が期待されるアーティストもたくさん出演しています。最終日の3日目はそんなニューカマーたちがひしめく「探索舞台」というステージで2組の素晴らしいアーティストに出会うことができました。

 まず1組目は石青羅林(Shikin Rollin)。

石青羅林 Shikin Rollin - 憾 Regret | CINEMAPHONIC SESSIONS

 今年の夏ごろに台湾の知り合いに「おもしろいよ」といって聴かせてもらったのが2020年にリリースされた彼らの1st EP『Green』。2曲目の「憾(Regret)」が、もうPink Floydの「The Great Gig In The Sky」とThe Beatlesの「Because」を混ぜたような何とも退廃的なムードに「今、何年だよ!」というツッコミも忘れて酔いしれたのですが、早くもこんな形でライブにお目にかかれるとは、ラッキーの一言に尽きます。

 それにしても、こちらの会場というのが日本でいうところのラゾーナ川崎のようなショッピングモールに併設されたオープンステージなんですね。要するにファミリー連れとか犬の散歩をしている老人とかがウロウロしていて、誰でも無料で観ることができる場所なんです。

 あの……休日のラゾーナ川崎で白昼堂々プログレやらブルースロックまがいのバンドが爆音で演奏してるなんてちょっと想像できないです。日本だと人目につくところでのプログレとブルースロックの演奏は禁止なので(嘘です)、そもそも聴衆も集まって来ないんじゃないかと思うのですが、いろんな世代の人たちが足を止めて熱心に聴き入っている様子が窺えました。ここが台湾の裾野の広さというか、懐の広さというか、ジャンルの多様性という意味においても、その器の大きさを感じました。

 
 

 肝心のライブの方ですが、Moogシンセを基軸にしたこだわりのクラシカルなサウンドだけでなく、実はめちゃめちゃ緻密なコードとメロディの絡みに彼らなりの個性を見出すことができました。今後、どんな形でオールドロックを自分流にアレンジしていくかがとても楽しみなバンドです。

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