ウルフルズ、“好きな仕事”だから迎えられた30周年 ルーツミュージックと向き合い再発見した自分たちらしさ

 「これぞウルフルズ!」と快哉を叫びたくなる傑作である。30周年を迎えたウルフルズからニューアルバム『楽しいお仕事愛好会』が届けられた。前作『ウ!!!』(2019年)以来、約3年ぶりとなる本作には、配信シングル「続けるズのテーマ」「サンシャインじゃない?」「ゾウはネズミ色」「よんでコールミー」のほか、「グッゴー!」(ダスキン「無理なくつづく」シリーズCMソング)、「アイズ」(眼鏡市場TVCMソング)など全12曲収録。ウルフルズ歴代の名曲のタイトルを歌詞にちりばめた表題曲「楽しいお仕事愛好会」は、30周年だからこそ生まれた名曲だ。

 ロックンロール、ファンク、リズム&ブルースなどのルーツミュージックを色濃く反映したバンドサウンド、歌心と濃密なグルーヴをたっぷり注ぎ込んだボーカルも絶品。新たな傑作をモノにしたトータス松本(Vo/Gt)、ジョンB(Ba)、サンコンJr.(Dr)に、アルバムの制作について語ってもらった。(森朋之)

ウルフルズ「楽しいお仕事愛好会」-digest movie-

セルフカバーがあったからこそ開けたニューアルバムへの道

ーーニューアルバム『楽しいお仕事愛好会』、めちゃくちゃ最高です!

トータス松本(以下、トータス):あ、ホンマ? 

ジョンB:ありがとうございます。

サンコンJr.(以下、サンコン):嬉しいです。

ーーウルフルズらしさが全開だし、さらに先に進むパワーも感じられて。すごい作品だと思います。

トータス:やっぱり30曲のセルフカバー(30周年プレ・イヤーを記念して制作されたセルフカバーアルバム『ウル盤』『フル盤』『ズ盤』)がデカくて。『ズ盤』の制作に入った頃に、「セルフカバー3作で完結じゃなくて、新しいオリジナルアルバムを作るべきやな」と急に思ったんですよ。オリジナルアルバムを出すことで、「今のウルフルズはこうなんだ!」とはっきり表明したくなったというか。そう思ったら、俄然やる気が出てきて。

トータス松本

ーー予定外のアルバムだったんですね。

トータス:そうそう。セルフカバー30曲というのもそこまでガチガチに決め込んでいたわけではなくて、行き当たりばったりなところもあって。余白を残してたおかげで、オリジナルアルバムにつながったんやないかな。上手く転がってよかった(笑)。

ーーセルフカバーの制作で過去の楽曲に向き合ったことが、新曲を作るモチベーションにつながったと。

トータス:まさに“向き合う”という感じやったね。そこには楽しさもあったし、地獄もあって。

サンコン:ハハハ。

トータス:昔の曲のなかには「この歌詞、イヤすぎる」というのもあるから(笑)。あと「なんでこんなコードが入ってるんや?」みたいなこともあって。稚拙、未熟ゆえに余計なことをやっちゃってるんですよ。

ジョンB:そうやな。

トータス:でも、「アレンジを変えずに、原曲をそのまま今の感じでやろう」と最初に決めてたからね。「イヤやな」と思うこともあったけど(笑)、あえてそのままやってるうちに、いろいろ思うことがあって。ストレートな曲もあるし、回りくどい曲もあるんやけど、周りに流れず、そのときどきで「ウルフルズはこうや」という感じでやってきたんやなと気づいたり。

ジョンB

ーーウルフルズらしさを再発見した、と。

ジョンB:それもあったと思いますね。自分は楽器を弾く人やから、「当時の生々しさには勝てない」と思うこともあったし、今の自分の音に対して「積み重ねてきたからこそ、この音なんやろうな」と思ったり。いろんなことを認識しながら、点と点を結ぶような感じもありましたね。あと、『ヤッサ!』(大阪・万博記念公園もみじ川芝生広場で開催された野外ワンマンライブ)を4年ぶりにやれたことも大きかったかな。

ーー配信シングルやタイアップ曲も収録されていますが、アルバム全体としてはどんなテーマがあったんでしょうか?

トータス:まずね、でっかい紙を用意して、系譜図みたいなものを書いてみたんですよ。“ウルフルズ 30周年のニューアルバム”として、すでにレコーディングしている曲のタイトルを書いていって。“「続けるズのテーマ」/ファンク”とか“「サンシャインじゃない?」/リズム&ブルース”“「ゾウはネズミ色」/「それが答えだ!」のアンサーソング”とか。そこから必要な曲を考えていったんですよ。ダンサブルなナンバーとか、ブルースロックとか。「アンニュイな曲もほしいな」と思って、「きみんちのイヌ」を作ったりね。

ウルフルズ “サンシャインじゃない?”Promotion Video

ーーアルバムに必要な要素を揃えていった、と。

トータス:そう。で、「真ん中に核になる曲がいるな」と思って。系譜図を何日もジーっと眺めながらいろいろ考えてたんですけど、最終的には「自分らはこういうバンド」というのをストレートに歌ったらええんとちゃうかなと。価値観の似たような連中が集まって一緒に音を鳴らしながら、ああでもない、こうでもないとやってきたんですよね、僕らは。「こんなこともあったな」とか断片的に浮かんでくることをバーッと書いていって、「これでええやん」と。30周年だからといって壮大である必要もないし、普通のことを普通に歌うのが一番ええやろうと。コード進行もぜんぜん凝ってなくて、シンプルなんですよ。最後のほうで曲のタイトルを連呼してるナンバーがあるんですけど、それもなんとなく思いついて。それが「楽しいお仕事愛好会」です。

サンコン:『ズ盤』のミックスをやってるときに、松本くんから「オリジナルアルバムどうかな?」みたいな話をされて。そのときは「そんなこと考えてるんや?」という感じやったんですけど、アルバムの制作が始まって、「楽しいお仕事愛好会」という曲ができて、自分のなかで全部がつながったというか。次はここに向かうんやなとハッキリ見えた感じです。

ジョンB:「まだまだ楽しくやっていけそうやな」というかね。どこまでやれるかわからないけど、スタート地点というか、節目のアルバムになりそうやなと思いました。

サンコンJr.

“仕事”として楽しく向き合ってきたバンド活動

ーーそれにしても「楽しいお仕事愛好会」という題名はすごいですね。ウルフルズでしかありえないタイトルだと思いますが、実際、“音楽・バンド活動は楽しいお仕事”という感覚はあるんですか?

トータス:うん、あるね。30曲セルフカバーも結局は楽しい仕事やったし、最後のほうになると「もう終わるんか? もっとやりたい。ずっとカバーだけでもええやん」って思ったから(笑)。

ジョンB:(笑)。

トータス:演奏するのも楽しいし、自分らの勉強にもなって、ファンの人らも喜んでくれて。めちゃくちゃやりがいがあったし、楽しいお仕事でしたね。もちろん、やってるときは真剣なんですよ。ヘラヘラ笑いながらはやれないし、サンコンにしてもドラムの録音してるときは真剣そのものやから。で、俺らに「なんかちゃうな」とか言われて。

サンコン:ハハハ。

トータス:そうやってめっちゃ苦労しながら録るんやけど、家に帰って風呂に入ったら「なんや、今日も楽しかったな」ってなると思うんですよ。

サンコン:そうやね。僕の場合は“仕事”だと思ったほうが、しっかり向き合えるんです。最初は趣味みたいな感じでバンドを始めて、それがいつの間にか仕事になって。その境界が曖昧だった時期もあったけど、今は“仕事”だし、楽しくやらせてもらってます。なんでもそうだと思うけど、現場もつらい、家に帰ってもつらい、だったら続かないですよ。

ジョンB:ウルフルズは“遊び場”みたいな感じもあるんやけどね。もともとバイト仲間やったし、「もっと楽しく遊びたい」と思ってやってきたところもあるんで。一生懸命遊ぶために、しっかりやらないといけないこともあるんやけど。

トータス:世の中的には“仕事”という言葉には、つらいもんやっていう認識があるのかもしれんね。

ーーそうだと思います。なので“楽しい”と“お仕事”が結びつくと……。

トータス:変な感じがするんや(笑)? まあ、結局好きなんやろうね、僕らの場合は。だって、1日中ヘトヘトになるまで歌っても、日払いとかじゃないんで、その日はお金もらえへんから(笑)。そんなの好きじゃないとやらないでしょ。

ーー確かに。〈もっかいやってみる/もっかいやってみるのさ/何度でも/何度でも〉という歌詞もグッときました。このフレーズ、仕事しているすべての人に刺さると思います。

トータス:そうかもね。一つの仕事を何十年も続けてる人って、結局「もう1回やってみる」ってことだけだと思うんですよ。辞めないことが続けられている理由というか。僕らもそう。「どうやってここまで続けてきたんですか?」って聞かれても、「辞めなかっただけ」としか言いようがない。

サンコン:うん。

トータス:一生懸命、曲を作って、レコーディングしても、ヒットせえへんことなんかいくらでもあって。でも、「あかんかったな。もう1回やってみようか」ってなるので。それが楽しいし、楽しめなくなったら辞めるんやろうね。話がちょっと変わるけど、桑田佳祐さんのラジオ(TOKYO FM『桑田佳祐のやさしい夜遊び』)を聴いてたら、「洋楽の一発屋特集」というテーマをやってて。そこで「俺もこんな曲書いてみたいなあ」って言ってたんですよ。桑田さんは10歳上ですけど、あれほどすごい人が今も「もっといい曲書きたい」って言ってる。たぶん僕もそうなるんやろうし、まだまだ面白そうやなって思いますね。

ウルフルズ ”ゾウはネズミ色” MUSIC VIDEO

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