乃木坂46 樋口日奈、慈愛に満ちた優しさでグループを支えた11年 誠実さと気迫で届けたアイドル人生ラストステージ
乃木坂46、1期生・樋口日奈の卒業セレモニーが10月31日、東京国際フォーラム ホールAにて開催された。2021年の結成10周年前後から初期メンバーの卒業が相次いでいる乃木坂46だが、3〜4期生が目覚ましい活躍ぶりを見せ、さらに5期生という新たな戦力を迎えた今、このような新陳代謝は自然な流れと言える。しかし、結成から約11年にわたり選抜とアンダーを行き来しながらグループの根幹を支え続けてきた樋口や、先にラストステージを踏んだばかりの和田まあやのような存在は、乃木坂46にとってもかけがえのないものであり、卒業に向けての活動や今回の卒業セレモニーなどを通して後輩たちが何を学び、この先の未来につないでいくのかも重要となってくる。そういった意味でも、この日の公演で樋口が何を見せ、何を伝えるのかに筆者は注目していた。
通常の卒業コンサートとは異なり、“卒業セレモニー”と銘打った今回は、樋口の約11年間の活動を楽曲で振り返ると同時に、メンバーとのトークを交えながら彼女の慈愛に満ちた人柄や、メンバーに対する深い思いが伝わるような演出が用意された。セットリストに関しても、オープニングこそ彼女がセンターを務めたアンダー楽曲「My rule」で華々しさを見せるも、以降は2012年のCDデビューから今日までを時系列に沿って、山あり谷ありだった彼女のアイドル人生を追体験していく構成。これらの楽曲を同期や後輩たちと一緒にパフォーマンスすることで、自身が経験してきた思いを共有したり伝承したりという、バトンを次へとつなごうとする姿勢も感じ取ることができた。
CDデビューに際し初めて選抜/アンダーと区分されたことに対する葛藤を抱えていた時期の、原点とも言える「左胸の勇気」を1〜4期生で披露したかと思うと、続く「狼に口笛を」は5期生とともにパフォーマンス。その後4期生とは、樋口が初選抜入りを遂げた8thシングル曲「気づいたら片想い」、3期生とは彼女たちにとって大切な1曲「思い出ファースト」で共演を果たすなど、それぞれに強い意味が感じられる選曲とその後のトークパートからは、樋口が後輩たちに自身が経験した喜びや苦悩を赤裸々に明かしながらも、「あなたたちはどうか楽しく、幸せに活動してほしい」という前向きなメッセージも伝わってきた。
かと思えば、苦楽をともにしてきた1〜2期生の3人(秋元真夏、齋藤飛鳥、鈴木絢音)とは「やさしさとは」という、非常に樋口らしい選曲が用意され、聴き手の涙腺を刺激する。ここでも樋口は3人のことを“同志”と表現しており、そんな3人のために用意された楽曲についても、過去に経験した彼女たちからの優しさに触れながら「このグループにはこんなにたくさんの優しさが詰まっているんだなと。それを表現するような1曲で大好き」と語る。
その優しさがもっとも強く溢れていたパートが、アンダーメンバーを交えたブロックだろう。ここでは“自分を奮い立たせてくれた曲”として選んだ「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」と、“責任感を与えてくれた初センター曲”「シークレットグラフィティー」の2曲を用意。トークパートでは3〜4期生たちが「今アンダーメンバーがいろんな場で活動できているのは、日奈さんたちのおかげ」と涙ながらに感謝を伝えるのに対し、樋口も彼女たちの頑張りを常に見ていることを笑顔で口にする。ここでも、選抜とアンダーを行き来し、アンダーの中でも1列目から3列目までを経験してきた樋口だからこその説得力が伝わる。
セレモニー後半になると、久しぶりの選抜入りを果たせたことだけではなく、乃木坂46にとって日本レコード大賞2連覇という偉業を成し遂げた「インフルエンサー」「シンクロニシティ」を立て続けにパフォーマンス。前者では樋口と鈴木のダブルセンター、後者では樋口が中心に立ち披露されたのだが、指先にまで神経が行き届いたダンスの美しさ、優雅さは、これまでライブで何度も目にしてきた中でも屈指の出来栄えだったことを伝えておきたい。樋口にとっては乃木坂46での集大成を見せるつもりで臨んだ2曲だろうが、その彼女の気迫にほかのメンバーも背中を押された結果がこの日のダンスだったのかもしれない。
そして、セレモニーも佳境に突入すると、グループ加入前から樋口を敬愛する3期生・阪口珠美をセンターに擁する「口ほどにもないKISS」では、阪口に寄り添うような形で一緒にパフォーマンス。笑顔と涙が入り混じった2人の表情からは、絆という言葉だけでは陳腐に感じられるほどの強いつながりを感じ取ることができた。かつて、筆者が行ったインタビューで樋口は、グループ加入当時に阪口について「まさか3期生にそんな子が入ってきてくれるとは思ってなかったし、ほかの3期生がみんな選抜メンバーの名前を挙げる中、私の名前を挙げてくれること自体ありがたいし、『私も頑張らなきゃ!』と気持ちを奮い立たせられました」と語り(※1)、当の阪口もその発言が掲載された雑誌の該当ページに付箋を貼り、今も大切に保管していると筆者に明かしたことがある。そんな2人の思いを間近で感じてきたからこそ、この日の「口ほどにもないKISS」はハッピーな曲調とは相反し、聴いているだけで涙腺が緩んでしまうものだった。