音楽家にとってサブスクは悪ではない デジタル時代のビジネスモデルを正しく理解する

デジタルの広まりとともに生じる誤解

 日本の音楽市場もやっと、デジタルが広まってきました。2021年のデジタル市場は、日本レコード協会発表で前年比114%の895億円(※1)。これ以外に、TuneCore Japanの取扱金額が98億円(※2)ありますので、おおむね1000億円になったところです。日本レコード協会発表のCD製造実績が1936億円(※3)ですから、1/3は超えたことになります。サブスクリプションサービスは、普及の過程で人口比で一定の比率を超えると、一般化して広まると言われていますので、日本でもその閾値を超えて、広まり始めたと言って良いと思います。

 ところが、というか、広がり始めたところだからなのか、基本的な知識、情報が広まらずに、誤解に基づくネガティブな言説が目につくように思います。

 よくある誤解に「サブスクって音楽家にお金が少ししか払われないのでしょ?」というものがあります。8月に出版した『最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本』にも明確に書きましたが、ユーザーが支払った金額から音楽家サイドに支払われる分配率は、CD時代の3倍程度に増えています。

 楽曲の著作権(作詞作曲に対する分配)印税については、CDでは6%でしたが、サブスクは12%で、最近、欧米では15%になり、日本も同様の比率になりそうなので、2.5倍です。原盤印税については、約50%強が分配され、12~15%が相場だったCD時代の3倍以上になります。

 「でも、1曲の再生あたりの金額は1円以下でしょ?」という人もいますが、そもそもCDは、買った人が何回聴いたか調べる方法がなかったので、1再生あたりの単価は比較ができないのです。CDという物に録音して10数曲を販売するというモデルから、好きな時にスマホで聴いて月額料金を払うというビジネススキームの変化が勘違いを呼びやすいようですね。

 また、1曲あたりの分配金額が小さくなることが多いのにはもう一つ理由があります。「楽曲リリースの民主化によるロングテール化」という言葉で表すことができますが、それはつまり誰でも気軽に音楽を配信できるようになり、楽曲が大量に世の中に発表されるようになったということです。CD全盛期は、少なくとも数千枚を初回出荷分として流通できることが楽曲を発表する前提条件としてありました。現在はサブスク時代の到来により、音楽家が誰でも自分で楽曲を配信できるようなった結果、作品が大量に世の中にリリースされるようになったので、非常に少額の分配の楽曲も出てきてしまうわけです。

 先日話題になった山下達郎さんが「サブスク解禁」を「恐らく死ぬまでやらない」(※4)と語ったインタビュー内の発言も、アルバム『MOONGLOW』(中学生の頃)からのファンとしてはとても残念に思いました。その理由が「表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取ってる」ことにあり、「それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利と関係ない」からだという認識がまさに誤解です。サブスクリプション型音楽ストリーミングサービスは、フリーミアムという無料でも聴くことができるプランがあることがほとんどです。プレイリストなどの形で、音楽を人から人に広めやすいというメディアとしての機能も持っています。サブスクは、レコード、CDの代替ではなく、おそらく達郎さんがお好きであろうラジオの発展形として捉えるのが適切です。ラジオで楽曲を紹介するDJやCDを丁寧に販売するCD店のスタッフに負けない程度には、各サブスクサービスのキュレーターも音楽愛を持っているでしょう。「表現に携わっていない」という意味では彼らの位置づけは同じくらいではないでしょうか。

 岡村靖幸プロデュースの「愛の才能」が好きだった川本真琴さんのTwitterに投稿されたサブスクに関するネガティブな発言にも頭を抱えました(現在は削除)。「ユーザーが払った金額の音楽家側への分配は3倍増えているんだよ。レコード会社は困るかもしれないけれど、音楽家にとっては、使い方次第で良い仕組みだし、旧譜比率(※5)が高いので過去ヒット曲がある人には、お金がたくさん入ってくるよ(少なかったらレーベルと確認して)」と伝えたかったです。

 個々人が何を感じて発言するかはもちろん自由ですが、レジェンド的な存在のアーティストの発言は、これからのアーティストに影響を与えます。「サブスクってアーティストにはマイナスなんだ」と誤解を与えないかが心配です。

 音楽界におけるサブスクの一般化は、音楽文化が時代とともに歩みを進めていく上で避けて通れない出来事です。これから世に出ていくアーティストには、サブスクでのヒットが必要ですし、TikTokなどのユーザーが作ってくれる短尺動画で曲を知ってもらうことが有益です。そういう意味では、この件に関連してRepezen FoxxのDJ社長が、サブスク音楽配信サービスについて「毎月ざっくり1000万円は入ってきます。めちゃくちゃおいしいです」(※6)と発言したことが、今後にプラスの影響をもたらしてくれることに期待したいです。

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