家族の葛藤と愛情を描いたミュージカル『SERI~ひとつのいのち』上演開始 初日挨拶に山口乃々華ら出演者が登壇
ニューヨークで暮らす親子の実話『未完の贈り物』を原作としたオリジナルミュージカル『SERI〜ひとつのいのち』の上映が10月6日から東京・博品館劇場にて始まった。本稿ではその初日上映前に行われたゲネプロと初日挨拶の模様をレポートする。
両目の眼球がなく障害を抱え生まれた少女・千璃の想いに想像を巡らせ、夫婦の葛藤、多くの苦しみから育まれた愛を生演奏とともに描く本作。
ゲネプロ直前の挨拶にて和田琢磨(丈晴役)が「千璃ちゃんを演じる山口乃々華さんが、身体で心情を表現しているシーンに注目してほしいです。言葉はなくとも、生きることに対する情熱を感じるので」と語っていたが、まさに山口による身体を大きく使った表現は大きな見どころのひとつだ。この物語が千璃の誕生以前から6歳前後までを中心に描いていることや、千璃が話すことができないという理由から彼女のセリフは少ないものの、山口の屈託のない笑顔と笑い声、千璃の「魂」として感情を表すダイナミックで表情豊かなダンスはセリフを越えんばかりの情報量。千璃の明るく茶目っ気のある人物像をよく表していた。
奥村佳恵が演じる千璃の母、美香はもともと友人からパーフェクトと評価される才色兼備な人物。持ち前の忍耐力やプライドの高さは、ときに夫=丈晴と衝突する要因にもなるが、そんな美香の母親としての抑えられない焦りややるせなさ、悲哀を表情や歌声に滲ませた表現は圧巻。大きな愛を千璃に注ぎ、それゆえ時折周りが見えなくなる美香の姿を、奥村は様々な形の母性を感じさせながら演じていた。丈晴役の和田はその柔らかい声を活かし、シリアスな物語の中にジョークを混ぜ込む大らかなキャラクターとして、物語に笑いをもたらした。
そんな夫婦2人の対立のシーンも見どころのひとつ。千璃の治療や今後を巡り、育児に参加する/しないといったことや、我が子にとっての幸せとは何かなど、おそらく多くの家庭でもすれ違いが起きるポイントとして珍しくない部分を押さえているのも印象的であった。ゲネプロ前、山口も注目シーンとして挙げていた育児生活を描く無言劇だが、初めは育児に参加していた夫がだんだん参加しなくなり、夜泣き続きで妻が1人疲労困憊、夫婦はすれ違い、ついには何かのきっかけで爆発する……ということは、どの家庭でも起こりうることだろう。千璃の感情表現はもちろん、夫婦が悩み、葛藤し、愛を注ぎ、どんな答えを導いていくのか目が離せない。我が子を守ってやりたいあまりに過保護になってしまうことしかり、子の幸せを祈りながらもつい自分の思う幸せに導こうとすることしかり、多くの家庭に存在しうるテーマが様々なシーンに忍び込ませてある本作は、見る人に身近さを感じさせるはずだ。
幾度とない千璃の手術、母である美香の絶望や医師との裁判など、シリアスなシーンや激しい口論もある本作は、各場面で演奏される生演奏の音楽がシーンの雰囲気を引き立てていた。緊張感のあるシーンでは鋭さのある音色で、そして千璃のダンスシーンでは彼女の成長に寄り添うように繊細に次々と繰り広げられる楽曲。セリフと歌唱の変化もシームレスで、常に音楽があるゆえ、場面転換の明快さがテンポの良さを生み出し、かつシビアな物語に軽快さを与えていた。