ONE OK ROCK、Muse、リナ・サワヤマ……スタジアムロックの変遷から捉える“ポップミュージックの現在地”
ポップアクトの「参照先」としてのスタジアムロック
また、筆者個人として注目しているのが、ポップアクトによる「スタジアムロックの参照」の動きである。
先日の『SUMMER SONIC 2022』での初来日公演も大盛況に終わった、今、最も勢いのあるポップアーティストの一人といっても過言ではないリナ・サワヤマ。彼女の新作『Hold The Girl』(9月16日発売)は、ステージ上に幾度となく火炎放射の演出が放たれる光景が目に浮かぶかのような疾走感に満ちた「Frankenstein」や、力強くビートを打ち鳴らしながらアンセミックなメロディを高らかに歌い上げるポップロックの「Hurricanes」など、明らかにスタジアムロックを参照することで、よりスケールの大きなサウンドの獲得を目指した作品となっている。初めて本作を聴いた時には強い驚きを感じたが、以前からポップミュージックにハードロック/ヘヴィメタルの要素を大胆に導入することで独特でキャッチーなサウンドを創り上げていたこと、『サマソニ』におけるMARINE STAGEへの出演に象徴されるパフォーマンス規模の大幅な拡大を踏まえると、本作におけるスケールアップはある種の必然的な流れだったと言えるのではないだろうか。
リナに限らず、ギターロック時代のRadioheadを彷彿とさせるカタルシスを持ったビリー・アイリッシュの「Happier Than Ever」(彼らをスタジアムロックの文脈で扱うこと自体には違和感があるが、実際にその音が数万人規模の会場を歓声で満たしてきたのは確かだろう)、明確にa-haの「Take On Me」を意識したであろうハリー・スタイルズの「As It Was」など、現代のポップシーンのメインストリームで活躍するアーティストもまた、トレンドを意識することなく、自由にそれぞれの時代のサウンドを参照していることに気づく。そもそもロックバンドに限らず、大規模な会場でコンサートを行うアーティストにとって、これまでのスタジアムロックの歴史はそれ自体がアイデアの宝庫だ。この2曲は共にキャリアを象徴するほどの大ヒット曲となっており、その事実は近年のソロアーティストを中心としたポップパンク・リバイバルの動きと併せて、あくまで「ジャンルとしてのロック」自体が衰退したわけではないことを示唆している。
ロックバンドであっても、ポップアクトであっても、過去の偉大な先人たちをリスペクトした上で、より幅広いジャンルを取り込み、音像をアップデートすることで、スタジアムを熱狂へと導いているという点では共通している。むしろ、ポップやロックといったカテゴライズや線引き自体がナンセンスとなった現状を見ていると、今こそ、最も自由に音楽を楽しむことができる時代なのではないかとすら思えるほどだ。スタジアムロックの変化を辿ると、時代が変わっても、そこにある根源的な魅力は今なお人々を魅了してやまないという事実を強く感じることができるのである。
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