フェス界隈で話題の謎多きバンド “幽体コミュニケーションズ” 固定概念に捉われないコラージュ的音楽の作り方
落語家 立川吉笑からの唐突なオファーで制作した「ユ」
ーー新曲の「ユ」に関しては、曲作りはどのように始まったんですか?
paya:「ユ」のきっかけとしては、立川吉笑さんという落語家の方からオファーから始まったんです。吉笑さんからいただいたテーマとして「とにかくポップであること」「あとは好きにやってください」というのがあって。それまで我々にはテンポの速い曲がまったくなくて、そのとき僕がちょうど、ドラムンベースやジャングルを聴いていたので、そういうのをやってみようっていう感じで始まりました。
ーー立川吉笑さんとはどのように繋がっていたんですか?
paya:本当にいきなり、「真打昇進に向けた公演のために、曲を作ってください」っていうメールが来たんですよね(笑)。
吉居:びっくりしたよね(笑)。
paya:落語って伝統芸能だし、どうしても堅苦しいイメージがついてしまいがちだけど、吉笑さん自身は古典を再解釈して新しいことをどんどんやっていくタイプの方で。「堅苦しい雰囲気を打ち壊したい」っていうことで僕らに声をかけてくれたみたいなんですけど、そもそもは、SNSでたまたま知ってくれていたみたいです。
ーー面白い出会い方ですね。落語のような演芸と幽体コミュニケーションズがやっている表現に、通じるものはあると思いますか?
paya:落語一般と僕らの共通点というよりは、あくまで立川吉笑さんと僕らの共通点ということになると思うんですけど、吉笑さんは「疑古典」というジャンルを得意とされていて。舞台は江戸時代なんだけど、そこに現代的な要素が入ってきたりするんです。例えば、江戸時代が舞台の話に、クラウドファンディングという概念が入っていたりする。見る角度を変えることによって、騙し絵的な見せ方をされる方なんですよね。我々の音楽も、できるだけ固定概念に捉われない作り方をしている部分はあるので、そういう面で共鳴するところはあるのかなと思いますね。
ーー曲のタイトルが「ユ」という一文字で、これだけで曲が象徴されているのがとても面白いなと思うんです。「ギ」という曲もあるそうですけど、こうした一文字や一音で表現を象徴するのは、なぜでしょうか? ここにもシンプルさと複雑さの関係があるような気もするのですが。
paya:そうですね、シンプルに見えるものから多様で複雑なものを予感させることって、音楽に限らず、表現一般のひとつの到達点だと思うんです。僕らの曲も、そういうものになってくれたらいいなという思いがあるんですよね。カタカナで「ユ」と書くと、図形的にもすごくシンプルじゃないですか。音的にもすごくシンプルだし、どこか柔らかさや柔軟さを感じさせる音でもある。でも、日本語としては、いろんな漢字に変換ができたりもする。シンプルなように見えて、そこから複雑で多様なものに変化していく可能性を予感させるなと思うんです。
ーーライブパフォーマンスでは詩の朗読を取り入れていたり、あるいは販売されているデモ音源はCDと歌詞カードが別々になっているものもあるそうですね。幽体コミュニケーションズの音楽における詞の在りようには、現代詩からの影響などもあるのかなと思うのですが、どうでしょうか。
paya:現代詩からの影響はありますね。詩に対して自覚的に意識しはじめたのは大学に入ってからなんです。それ以前に中学や高校で吹奏楽部にいたときから、部内でイメージを共有したいと思うと、どうしても言葉は必要にはなるけど、辞書的な言葉遣いや説明的な言葉遣いだけでは、音楽という抽象的なものの本質を上手く捉えて喋ることはできないなと感じていて。
そういうことがあったうえで、自分なりの言葉を探していたし、それが自分の詩に対しての興味の出発点だったと思います。そこに自覚的になったきっかけは、大学の先輩に佐藤瑞穂さんという詩人がいたことで。その先輩の作品を見たときに、「いままで自分がやろうとしてきたことって、詩としての営みだったんだな」と気づいたんです。それから現代詩をたくさん読むようになりました。なので、音楽的なアプローチとは別に、詩そのもののアプローチも、自分にはあると思います。
ーーいししさんは、payaさんが書かれた詞を歌うわけですけど、言葉に対してはどのようにアプローチするものなんですか?
いしし:曲によっては文脈や単語を気にしすぎない方がいいこともあると思うので、言葉の汲み取りのバランスは意識していますが、ライブではそのときの調子や流れにまかせたりもします。曲全体の流れに対しての自分の置き場みたいなものも、私の勝手な解釈でやっていますね。あまりにもかけ離れていると、「違うよ」と言われるんですけど(笑)。その言葉の並びを見たときの、自分なりの感情や見えた景色を大事に持って歌うようにしています。
ーー吉居さんは、歌詞に対して意識することはありますか?
吉居:そこに関しては、きっと彼は僕になにも求めていなくて。彼が僕に求めているのは、あくまでも音だと思うんです。「お前、どんな音出すねん」っていう(笑)。詞はもちろん見るし、「気にしていない」というと嘘になるんですけどね。例えば、歌詞に「電波」と出てきたら、電波っぽい音を出そう、みたいな。そういう意識はしていますね。
ーー事前にいただいた資料には「四季に呼応する詩世界」とも書かれているんですけど、「季節」というものは、幽体コミュニケーションズの音楽のモチーフとして大きなものですか?
paya:そうですね、最初は意識していなかったんですけど、曲作りをしていると、ほぼ間違いなく季節に関する要素が入ってきていることに気づいて。自分でも「なんでなんだろう?」という感じなんですけど(笑)。でも、1度知り合いに指摘されたのは、僕らは「そのとき」の空気感を取り込んで、それをアウトプットしている、ということで。それは時代の空気感というのもあるし、その時代の音楽的な流れというのもあるし。それも要は、その季節を取り込んでいるということなのかなって。
ーーそれこそ、「ユ」にも同時代的なポップスとして響き得る側面があると思うんですけど、その時々の音楽的な潮流や季節感を取り入れることに関しては、幽体コミュニケーションズは積極的である、というふうに見ていいんですかね?
吉居:そこは、難しいね。
paya:うん……これに関しては、意識的にやっているというよりは、意図せずやってしまっている、という感覚に近いかもしれないです。ただ、いろんなものの系譜、歴史や流れを調べるのは好きだし、そのなかに自分たちを連ねることができる在り方っていうのは、無意識のうちに志向している可能性はあります。
ーーあと、ライブの映像を見ると、3人が向き合って演奏していますよね。ライブセットはどうしてあの形になったんですか?
paya:最初は客席を向いて歌っていたんですけど、それだと緊張しちゃうので、向き合おうってなって(笑)。でも、あの形がしっくりきていますね。「なんか、いいなぁ」って。
吉居:僕も緊張するんですけど、「お前は真ん中にいとけ」と言われて、真ん中にいます(笑)。
ーー今後、バンドとしてやっていきたいことはありますか?
paya:いろんなことがやりたいです。例えば場所にしても、僕らはライブハウス以外でも演奏できる形態があるので、廃墟とか、駅の改札とか、お寺とか、いろんな場所でやってみたいです。我々3人にホーンセクションやストリングスセクションを入れてもできると思うし、MPCプレイヤーを入れてもっとビートに重点を置いた音楽をやってみたいという気持ちもあるし。これも今日、話したことに繋がると思うんですけど、どこでやるか、誰とやるかって、「どういう文脈に自分たちを差し込むか?」ということだと思うんです。背景が違うだけで僕らの表現はまったく違ってくると思うので、それがどういう変化をもたらすのかということに、個人的には興味があります。
■リリース情報
幽体コミュニケーションズ
New Dgial Single
「ユ」
2022年10月5日
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