「悲しみにさよなら」「勇気100%」……作詞家 松井五郎が明かす、名曲誕生の裏側 時代との向き合い方についても聞く
“自分がやっていないこと”はたくさんあるはず
ーーここからは松井さんの“仕事論”について聞かせてください。作詞家は時代と向き合う必要もあると思いますが、世の中の変化を意識して楽曲に取り込むことはありますか?
松井:そこまで分析や研究はしてないですね。生活のなかで触れるニュースや出来事を肌で感じているので、それが要素として歌詞に入ってくることはあると思いますけど。ただ、時代の流れに抗いたい気持ちもあるんですよ。時代に即したものも必要だけど、一歩先と言いますか、1年後、5年後、10年後のスタンスで考える視点も持つようにしていて。今の流行から外れたことをやらないと、次の流行は生み出せないですから。勇気が必要ですけど、ほかの人がやらないことをやるのも大事なんですよね。
ーー流行を追うだけでは新たな表現は作れない、と。
松井:そうですね。若い作詞家にもよく言うんですが、依頼に応えつつ、今は存在しないものを作るエネルギーがないと、作詞家としての基礎体力はつかないので。そもそも芸術は創造と破壊を繰り返しながら新陳代謝していますからね。自分のやりたいことが新しいかどうかはわからないですが、“自分がやっていないこと”はたくさんあるはずだし、それを見つけていくことも大事だと思います。
ーーここ数年はTikTokやSNSからヒットが生まれるケースも増えています。この状況をどう捉えていますか?
松井:音楽の聴き方が変化しているんだなと思います。よく“一部しか聴かれない”と言われますが、今に始まったことではなくて。80年代はCMやドラマ主題歌から数多くのヒットが生まれましたが、それも、サビなど一部分が聴かれることがきっかけになっていたと思うので。それと、流行の最先端にいる若い人たちの数が少なくなっていますから。日本の年齢分布を考えると、“いい曲があればじっくり聴きたい”という年齢層の方のほうが多い。その人たちに聴いてもらわないと大ヒットにはつながらないんですよね。
ーーなるほど。コンプライアンスによって、映画、ドラマなどの表現が変化していますが、その影響は歌詞にも出ていると感じられますか?
松井:まず、歌う人の印象やイメージは考えますね。80年代の初め頃は、エロティックな歌詞、挑発的な歌詞をあえて書いていたところもあって。世の中には不倫の歌もありましたが、今はそれを正面から肯定するわけにはいかないし、自分も多少は意識しているんだと思います。昔だったら“何があってもこの愛を貫く”という歌でよかったんだけど、今は“この先にいったらどうなるの?”というところで止めたり。それはコンプライアンスというよりも、時代の空気感でしょうね。たとえば阿久悠先生の「カサブランカ・ダンディ」(沢田研二)の〈ききわけのない女の頬を/ひとつふたつ はりたおして〉も、今だったら倫理的に問題があると言われてしまう。もちろん物語としては成立しているわけで、素晴らしい歌詞なんですけどね。
同世代のミュージシャンから受け取る緊張感と感動
ーー松井さんが今後、作詞家としてやってみたいことは?松井:若い頃に聴いていたプログレのような曲も作ってみたいし、やりたいことはたくさんありますよ。去年、洋楽の名曲に日本語の歌詞をつけて、澤田知可子さんに歌っていただくプロジェクトをはじめたんです。以前から洋楽の日本語詞に対して「自分だったらどう書くだろう?」という思いがあり、ジャズのスタンダードに歌詞をつけてみたんです。いろいろと大変なこともありますが、とても楽しいですね。バート・バカラックやCarpentersと勝手に仕事できるわけですから(笑)。
ーー70年代の洋楽は松井さんの音楽的なルーツでもあるんですか?
松井:もともとは映画音楽が好きだったんです。もちろん洋楽全般も聴いていましたし、吉田拓郎さん、井上陽水さんなどの70年代のフォーク、J-POPの源流となっている大瀧詠一さん、山下達郎さん、松任谷由実さんなども好きでしたね。
ーー吉田拓郎さんは今年、“ラストアルバム”と銘打った作品(『ah-面白かった』)を発表。時代は変わりつつありますね。
松井:そうですね。加山雄三さんもステージから降りることを発表され、寂しさもありますが、作品はずっと残るので。一方で矢沢永吉さん、小田和正さんなどは今も現役でライブを続けていらっしゃる。70代のアーティストがスタイルや音楽性を変えずに活動している状況は、日本の音楽史上、初めてのことなんですよ。僕と同世代では玉置さんもそうだし、みんないろいろなことを乗り越えて歌っていて。それは僕自身にとっても励みになるし、緊張感とともに感動を受け取っています。
ーー60代のアーティスト、クリエイターのみなさんの活動は、今後も日本の音楽シーンに大きな影響を与えることになると思います。ちなみに松井さんは、筆が乗らなかったり、スランプに陥ることはないんですか?
松井:書けないということはないですね。書いていないことはたくさんあるし、それが正解かどうかは別にして、形にできずに悩むことはないので。体力的な問題はありますけど。若いときは締め切りギリギリになることもありましたが、今は逆というか、とにかく早く手をつけるようにしていて。
ーースピードも大切だと。
松井:もちろん中身が良くないとダメですし、そこはプロとしての大前提ですが、そのうえで誰よりも早く具体的なものを提示することが大事。それは努力でやれますからね。僕は“時間がない”とは考えない。時間は使い方次第だと思うので。
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