坂本遥率いるMEMEMION、試行錯誤の中で生まれた実験的な音楽 時代を反映するポップバンドとしての信念

MEMEMION、ポップバンドとしての信念

陳腐だけど、愛だなっていうところに還元されていく

――自分で歌うっていうことに関してはどうですか?

坂本:ちょっと手前から話すと、高校のときにギターボーカルを少しやっていたんです。でも思うように歌えないし、レコーディングしても自分の好きな声にならない、しかもギターのほうが全然うまいとなって、1回ギタリスト目指すようになったんですけど、やっぱり歌いたい衝動みたいなのはずっとあって。でもいざバンド組んでやってみてレコーディングしてみても、納得いくような歌にはならないんですよね。というか、こういう歌にしたいというイメージが自分には意外とないんだって気づいて。そこからのスタートでした。今は少しずつ、こういうレンジ感で歌いたいとか、自分が今聴くならこういう歌がいいとか、だんだん広がってきて。「居場所」とか「やさしいね」とか、自分の中のパーソナルな部分も出せるようになって。サングラスをかけて金髪にしてるけど、僕は実は根暗で、コミュニケーションを取るのが苦手な人で。人と好きなものを共有するのもすごく苦手で、僕は電車好きなんですけど、電車好きな話を人とあまりしたくないんです。そういう、俗世と自分を切り離してるみたいな部分を、歌に、声にしていきたいなと思うようになってきました。

――確か「居場所」は他の曲とはちょっと違う感じがしますね。

坂本:そうですね、自由を求めたら一番狭いところだったみたいな曲なんですけど。

ーー自分の声とか、自分が歌うべきこと、歌いたいことっていうのが整理されてきている段階なんですね。

坂本:そうですね。だんだんできてきました。歌詞とか言葉に関してはずっとあるんですけど、それと自分の声を合わせていくっていう作業はできていなかったような気がして。それはだんだんできてきたし、たぶんやればやるほどできていくし、得意なこと、苦手なこと、できないのにやっていたこと、できるのにやっていなかったことが、作り終えて見えてきた感じがします。変革の過程にあるアルバムだなと思います。

――そこがこのアルバムのキモだと思うんです。もちろん器楽的な面白さ、異なるものが合わさって聴いたことのないものになっているっていうことの一方で、歌はどんどん明快なものになってきている。表現として、坂本遥っていう人の表現したいものに対して、ちゃんとそれに合わせて表現できるメンバーがいて、結果的に生まれてくるものは確かに一風変わっているかもしれないけど、でもちゃんと歌が真ん中にあるものになってる。MEMEMIONっていうバンドのあるべき姿がそれなのかなって。

坂本:嬉しいですね。歌モノでありたいというのはずっとあるんです。Hiatus Kaiyoteとかめっちゃ好きなんですけど、ああいう音楽も吸収しつつ、なんかカラオケで歌って楽しいじゃないけど、みんなの歌でありたいとすごく強く思います。かつ歌詞で書いてることは、なるべく自分の中にある拒絶や恐れ、寂しさ、孤独みたいなものを逆のパワーにすることで、そこの距離が離れていれば離れるほど僕の中ではロックだなって思うので。そういう音楽でありたいなっていうのはありますね。

――実際、歌詞は一貫してるというか、ほぼ1テーマで、それを言葉を変えて言っている感じがするんですけど、それだけ書けるっていうのはそこに強い思いがあるってことですからね。

坂本:でもまだまだ書きたいですし、書けることは結構無限にあるので。少なくとも1年で枯渇するようなものじゃなかったっていうのは自信になりましたね。

――みなさんはもちろん坂本遥という人は知っていたと思うんですけど、シンガーソングライターとしての坂本遥は知らなかったわけじゃないですか。

小栢:そう。最初、バンド組んだときにデモ音源を遥が送ってくれて、めちゃくちゃいいじゃんって、すごく好きになったんです。でも「あれ、遥が歌うの?」って。でもだんだん、レコーディングやリリースを重ねるごとに、遥のこういう声がすごく魅力的だなとか、こういうところを自分で理解してきているなとか、まっすぐボーカリストの道をいっているのがわかって。ボーカリストとしてちゃんと歌唱力やアイデンティティみたいなものを研究している姿を見て大丈夫だなと思いました。

かいと:歌詞も、最初見たときにめっちゃくちゃ内省的だなって思って。ちょっと難解じゃない? 暗くない?って思ったんです。けど、曲がいいですからね。メロディに引っ張られているというか。だからシンガーソングライターとしてすごく信頼していますね。

――改めて、歌詞を書いて歌うっていう行為は自分にとってどういう意味を持っているものだと思いますか?

坂本:ちょっと狭めてミュージシャン的な意味で言うと、やっぱ自分が作った曲があって、自分のやりたいことが消化できる環境はすごく心地よくて。もちろんギタリストとしても仕事をするわけなんですけど、そういうときも自信を持って人の言ったことができるようになったし、あるいは自分のアイデアを常に形にしているぶん、他のところでも生み出すっていう行為がよどみなくできるみたいなことはありますね。でも人生的にというか、人間的な部分でいうと、普段思っていることを書いてるだけなので。ボーカルをやったから視点が変わったみたいなことはあまりないんです。むしろ変わらないんだなあと思ってます。

――つまり、ここに書かれていることを突き詰めていくと「人と人って究極的にはわかり合えないよね」っていうことだったり「その上でどうやったら一緒に生きていけるのか、繋がるのか」みたいなことだったりすると思うんですけど、それはもう坂本遥の根本にあるテーマだっていうことですよね。

坂本:はい。わかり合えるっていうボーダーラインがない以上、わかり合えないというボーダーラインもないと思うんです。多様性とか今みんな言ってますけど、多様性の受容って、自分の愛するものが入っているかもしれない物事の中に、自分がいちばん気持ち悪いと思うものが含まれているかもしれないことを許容していくことだと思うんです。自分が理解し得ないものが目の前に当然あるっていうのを受け入れるというか。

 かいとにだって「こいつ気持ち悪い」って思うような部分があるかもしれないし、小川さん(インタビュアー)にだってそうですよね。僕はみんなのことを大好きって思ってるけど、それを裏切られるような何かっていうのもあって当然で。そういうのも受け入れて愛している方が僕にとってはすごく幸せなことだと思うんです。そういうことを常々考えてはいるので、そういうことだけで今回はアルバムを作りたいなみたいなのはありました。

――すごく現代的なテーマでもあると思いますけど、それをこの5人でやるっていうことに意味がある感じがしますね。

小栢:バンド内でもそれはいろいろとありますしね。喧嘩はしないけど、ちょっとピリピリってくる瞬間もあるし。

坂本:うん。そういう器用じゃない人たちがこういうことを歌うのが、なんかメタ的に面白い構造だなって思いますね。

――だから今回のアルバムの歌詞って、結局のところどの曲も「このバンド」のことを歌っているような気がするんです。

坂本:そうかもしれないですね。

かいと:じゃあ、ささめき合う?

坂本:いや、物理的にはちょっと厳しい気もするけど(笑)。でも恋人やメンバーも、友達だって、愛じゃないですか。自分があってあなたがいるっていうだけのことだと思うんです。そういう意味ではラブソングであろうが、自分のバンドのことを歌おうが、戦争のことを歌おうが、言葉としては変わらないものができていくような気がしますね。陳腐だけど、愛だなっていうところに還元されていく感じはします。

リリース記念ツーマンライブ『協奏』
リリース記念ツーマンライブ『協奏』

■ライブ情報
『協奏』
日時:2022年10月21日(金)
会場:TOKIO TOKYO
開場 17:45 / 開演 18:30
チケット前売:¥3,000- / 当日:¥3,500-
出演:MEMEMION / Nao Kawamura

PG発券:https://hype-ticket.stores.jp/items/6304cf4d32f747054f60905d
2022年8月28日21:00〜よりチケット発売開始

■生放送情報
『MEMEMION アルバムリリース記念 緊急生放送 "打ち上げ-ピザ取ります-”』
放送日時:2022年8月28日(日)20:00〜
MEMEMION 公式YouTube Channel:https://www.youtube.com/channel/UCi1YFFknl62zVdKvtuTIDKg
ゲスト:Nao Kawamura

■アルバム情報
1stアルバム
『イマジネーション』
2022年8月24日リリース
価格:¥2,800(税込)

■関連リンク
OFFICIAL HP:https://mememion.com/
Twitter:https://twitter.com/_mememion_?s=20
Instagram:https://www.instagram.com/_mememion_/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCi1YFFknl62zVdKvtuTIDKg

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる