コナン・グレイ『スーパーエイク』クロスレビュー:ライター2名が紐解く、“Z世代のアイコン”の真の姿

コナン・グレイが起こす、未来のための変化(竹田ダニエル)

 コナン・グレイの音楽は、世界中のZ世代の日常の中にある。コナンには、「Z世代のサッドポッププリンス」の称号がとても似合う。アーティストとしての魅力を語る際には、人気YouTuberとしての背景を知る必要がある。彼のチャンネルでは、他愛のないおしゃべりや日常の動画とともにカバー動画やオリジナル楽曲の演奏を、12歳の頃からカメラに向かって、そしてインターネットを通して全世界に配信していた。インターネットが当たり前にある時代に育った彼は従来の音楽業界のあり方にとらわれることなく、個性的で親しみやすいキャラクターや独特な音楽性に魅力を感じていた同世代からの支持によって、SoundCloudやYouTubeを通して自由に成功を収めることができた。若者特有の孤独や葛藤だけでなく、ありのままの自分を受け入れるまでの成長過程や音楽との出会いなどをリスナーとも共有することによって、コナンという人物像に深いストーリーが生まれている。

 「僕にレッテルを貼り付けたり、型にはめようとするのはやめてくれ」とツイートしているように、セクシャリティやジェンダー、価値観などを誰かに定義されたくない、何かのステレオタイプに縛られたくないという自由な意思は、音楽やファッションにも強く反映されている。また、今Z世代で最も注目されている「ジェンダーニュートラル」な価値観をまさに体現しており、E-boy風のファッションやYouTuber時代からシェアを続けてきた独自の古着スタイル、「Heather」のMVでも見られるスカート姿、さらには『コーチェラ』や『メットガラ』でのガウン姿など、全て自己流の信念があるからこそアイコニックに仕上がる。全体のわずか3分の1だけが「ストレート」だと自認しているZ世代は、まさに「規範に囚われない」世代だ。アイデンティティにおいてはセクシャリティやジェンダーの流動性を大切にし、外見に関しては急に髪を切って染めたり、ファッションもマスの流行ではなく、自分の気分で気軽に変える。コナンのビジュアル、ファッション、音楽、全てがその「流動性」を体現し、同世代からの共感を集めるのだ。

Conan Gray - Heather

 楽しいはずのティーン時代にパンデミックを経験し、資本主義に愛想を尽かし、差別に対して勇敢に立ち向かい、迫りくる環境問題に不安を抱くZ世代にとって、「未来」とは決して明るいものではない。しかしメンタルヘルスについてオープンに語り合い、人種やジェンダーセクシュアリティの多様性を祝福し、同世代間での連帯を唱える彼らは、「未来」のために積極的に変化を起こしている世代でもある。より良い社会を作るためにも、「希望」を失わずに毎日を生きる彼らのその「揺らぎ」は、『スーパーエイク』の中で描かれる苦しみ、そしてコナンの音楽全体から感じ取れる。

 人生にとって何が大切なのか、なぜ恋愛に悩まされるのか、という本質的な問いとぶつかる歌詞は、大人が作る「若者向けのポップス」よりも遥かにZ世代当事者に響く。曲中での嘘偽りない赤裸々な歌詞に加え、SNSでは政治や社会に関する発信をし、「学び続けること」の大切さをシェアしている。さらに、日系ハーフである彼は、今までは白人が中心でアジア人の活躍の場がほとんどなかった音楽業界において、アジア系アメリカ人の若者たちにとっては希望のような存在だ。「僕はどんな箱にも当てはまらなかったから、将来的には小さな箱に収まらなくてもいいということを伝える存在になりたいと思う」と語っているように、YouTuber時代から変わらないそのファンとの距離感の近さは、まるで仲の良い友達と交換日記をしているような親密感を与えてくれる。コナンのそのパーソナルなストーリーや苦悩が、誰かの人生のサウンドトラックになっているのだ。

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