中川英二郎が語る、トロンボーン4重奏の楽しみ方 SLIDE MONSTERSが表現する“リスナーと共に作る音楽”

ブラスサウンドに求められることの変化

ーースタジオミュージシャンとして、これまで多くのレコーディングに参加されてきた中川さんですが、そこで求められることに何か変化を感じますか?

中川:1980年代、アナログからデジタルへとレコーディング機材が移行していったわけですが、僕は1990年からスタジオミュージシャンとして活動をスタートしているので、その端境期を経験してきました。当時は録音技術がそこまで高くなかったので、演奏そのものをとにかくパキッと綺麗にすることが求められましたね。例えばアメリカのトランペット奏者であるジェリー・ヘイが関わってきたようなアーティスト……マイケル・ジャクソンやEarth, Wind & Fire、Tower of Powerのブラスサウンド、と言ったら分かりやすいでしょうか。

ーー立ち上がりもキレもいい、分離の良いサウンドですね。

中川:ところがデジタルが普及してくると、そういったサウンドがだんだん古く感じるようになってきて。少し荒っぽくてざらざらしたブラスサウンドが主流になっていくんです。レコーディング技術が進化して、いくらでも綺麗に録音できるようになると、今度は生々しいサウンドが求められるようになるのは皮肉を感じます(笑)。

ーーでは、今回全国ツアーが決まっているSLIDE MONSTERSについても聞かせてください。

中川:ニューヨークフィルの主席で、僕が最も尊敬するトロンボーン奏者のジョゼフ・アレッシが2016年に来日した時、一緒にご飯を食べる機会があったんです。その時に「トロンボーン4人で構成されたバンドを作りたいんだけど、もしよかったらお力添えをいただけませんか?」と聞いたところ、「いいよいいよ」って(笑)。彼はクラシック畑の人ですが、実はジャズが大好きなプレイヤーだったんです。

 さらに彼が紹介してくれた、ニューヨークのジャズシーンを牽引するトロンボーン奏者 マーシャル・ギルクスと、オランダ放送フィルの奏者であり、ヨーロッパを代表するバストロンボーン奏者 ブラント・アテマが加わり4人編成となりました。トロンボーン4人ってちょっとマニアックなんだけど、「自分のライフワークとしてやりたい」と言ったらマネジメントも動いてくれて。「すぐにスタジオに入って音源を作り、ツアーに出よう」という話になったのはありがたいことです。

SLIDE MONSTERS JAPAN TOUR 2022 Announcement

ーーグループとして、特にこだわっていることはありますか?

中川:SLIDE MONSTERSに関しては「オリジナルソングをやる」というコンセプトがあります。マーシャルと二人で曲を持ち寄って、それをアレンジして演奏しようと。アルバムでは他の人の曲も1、2曲取り上げようという話になり、1stアルバム『SLIDE MONSTERS』の時は、映画『マルサの女』(1987年)のサントラを手掛けた本多俊之さんにお願いして書き下ろしのオリジナル曲を提供していただきました。レコーディングが4人にとっての初顔合わせだったのですが、これは自分にとってライフワークたり得る、最高にとがったプロジェクトになると確信しましたね。

SLIDE MONSTERS "Travelers" [from Eijiro Nakagawa SOLO_Exhibition “Hitori Monsters”]

 アルバムをリリースした2018年にツアーを回って確かな手応えを得ましたし、何より僕ら自身が演奏していてとても楽しかったので、2020年に2度目のツアーを回る予定だったのですが、コロナ禍で何度か延期になり、ようやくこのタイミングで開催することができそうです。

聴き手の「想像力」を掻き立てるような演奏を

ーートロンボーン奏者のみでプロジェクトを構成した理由も聞かせてください。

中川:トロンボーンはコード楽器ではないので、4人で一斉に音を出しても4つしか音が出ないんです。となると、リスナーの頭の中でドラムを鳴らしたり、ピアノの伴奏をつけたりしてもらわなければならない。聴き手の「想像力」を掻き立てるような演奏を、4人だけで行う必要があるんです。

 それってギターの弾き語りでも同じだと思うんですよ。優れた弾き語りを聴いていると、頭の中でドラムやベースが鳴ったりするじゃないですか。シンプルだけど豊かで説得力のあるサウンドになるわけですね。そういうことがこのSLIDE MONSTERSでできたらいいなと思っているんです。

ーーなるほど。聴き手の想像力に訴えかければ、どんなリズムでも、どんなアンサンブルでも頭の中で鳴らすことができますよね。

中川:そうなんです。演奏次第でビッグバンドにもオーケストラにも、四重奏にも感じさせることができるわけです。

ーーでは最後に、今回のライブの聴きどころを教えてください。

中川:前回のツアーから数えると実に4年ぶりのツアーです。2ndアルバム『Travelers』は2020年にレコーディングをしていて、とにかくそれを人前で演奏したくて仕方なかったので今からとても楽しみです。お客さんと一緒に作り出すライブハウスの空間がすごく好きなので、早く皆さんと一緒に体験したい。トロンボーンって本当にダイナミクスの大きな楽器で、それを音源で味わうのはなかなか難しいものがあります。ぜひとも生のトロンボーンが持つダイナミズムを体感しに来てください。

■『SLIDE MONSTERS』公演情報
9月3日(土)13:00/14:00
広島/三原市芸術文化センターポポロ
9月4日(日)13:00/14:00
愛知/三井住友海上しらかわホール
9月6日(火)18:00/19:00
東京/Shibuya WWWX
9月9日(金)18:00/19:00
神奈川/ミューザ川崎シンフォニーホール
9月10日(土)14:00/15:00
岩手/キャラホール 大ホール
9月11日(日)13:00/14:00
福岡/電気ビルみらいホール
9月13日(火)18:00/19:00
大阪/サンケイホールブリーゼ
9月16日(金)18:00/19:00
高知/高知県立県民文化ホール
9月17日(土)16:00/17:00
埼玉/所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール

<ワークショップ>
9月8日(木)18:00
神奈川/ミューザ川崎シンフォニーホール

ツアー特設サイト:https://slidemonsters.jp/

■リリース情報
2nd Album 『Travelers』
8月17日(水)配信リリース
各サービスへのリンクはこちら : https://orcd.co/slidemonsters_travelers

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