じん、「未だ、青い」制作を通して触れた湊あくあの強さ 「だからVTuberをやっているんだと理解できた」

「僕の書いた曲が一撃で湊あくあの曲になった」

ーーあくあさんは、配信やいろんなエピソードで、ご自身のことを“陰キャ”とか“コミュ障”とおっしゃっていますよね。そういう印象は、実際に話したり感じたりしたこともありましたか?

じん:そうですね。こう言ったら失礼かもしれないですけど、めちゃくちゃコミュ障だなと思いました。この人は、生まれ持って誰とでも繋がれるような精神の形をしていないなと思って。多くの人を前に毎日配信してる人が“コミュ障”って自分のことを言うって、「本当?」って思われたりするじゃないですか。でも、ある意味、僕も“コミュ障”で。コミュニケーションに悩みを感じてるからこそ音楽をやってるし、沢山の人と話しながらものを作っているんですよね。だからあくあさんが話していることは本当だなって思ったし、だからVTuberをやっているんだっていうのが理解できた。コミュニケーションが苦手だから、いろんな人と頑張って話したいんだろうなっていう。そこは間違いないなと僕は思いました。マジで嘘じゃないなって。ズルくない感じがしました。いろんなことをちゃんと考えて、ないがしろにしていない。とてもポジティブな、プラスなエネルギーを持っていらっしゃる方だと思います。

ーー「未だ、青い」は疾走感のある、思春期的なイメージのある曲になっているように思います。こうした楽曲になったのは?

じん:あくあさんと話す中で、旅の途中なんだと強く感じたんですよね。エネルギーに満ちあふれていて、流動的で形がなくて、まだ未完成。どこかにあるゴールに向かって、歩いている途中だという。「青い」ということに関しても、その青い色味は、一日一日の蓄積によって、どんどん違う青さに変わっていく行程なんだなって。いろんな人に愛される状況なのかもしれないですけど、完成していない。それがふさわしいんじゃないかと思いました。

 曲を作るにあたっては、湊あくあの世界にいつでも入れるような楽曲であってほしいということは思いました。そういう意味では小説的かもしれないですね。ページを開いた瞬間に周りの景色が変わっているような感覚にしたかったというか。風が吹いているような、潮の音が聴こえてくるような感覚にしたいって。これもあくあさんと話したことですね。これは逆に僕の思ったことを言ったんですよ。あくあさんが作品になる瞬間を意識するべきじゃないかなって。そういう質感の曲にしたいということは思いました。

ーー作った曲に湊あくあさんの歌声が乗って形になって、どんな感触がありましたか。

じん:「あくあさんの声って、マジであくあさんの声だな」って思いましたね。僕の書いた曲が、一撃で湊あくあの曲になった。歌って、単に歌唱力として上手い、下手だということとは別に、届くか届かないかの部分がある。届く歌声だなっていう感覚がガツンとありましたね。歌い出しの〈風、一つ〉という歌詞のところを聴いた瞬間に「すげえいい声だな」って思って。あとは、サビのラストで〈会いに行こう 今すぐ〉という歌詞を書いたんですけど。あそこの歌は僕が今まで聴いたあくあさんの歌の中で、一番好きな箇所ですね。湊あくあの作品になった感じがしました。

ーーじんさんとしては、湊あくあさんの今までにない面を引き出すことができた手応えのようなものはありますか?

じん:どうなんでしょうね。それはわからないです。ご本人に聞いてみたいですね。でも、なにかしら影響を受けてくれていたらいいなと思います。

「インターネットを主軸とした音楽の発展はとても自然なこと」

ーー湊あくあさんだけでなく、いろんなVTuberの方が音楽活動を活発化させて、特にここ1、2年は存在感が強くなってきたようにも思います。じんさんとしては、こういったVTuberカルチャーの潮流やその先行きに関してはどんなふうに思っていますか。

じん:とても健全だなという風に思っています。たとえばメディアや世の中のムードで増長されて、ラベリングされて流れていく音楽は、今も昔もあると思うんですけれど、そうじゃなくて、思いがあるから音が出てくるという、健全なものがちゃんと響いている場所があるなと思っています。インターネットを主軸とした音楽で、年齢も性別も国籍も、趣味や嗜好みたいなものすら、作品の前で必要とされない瞬間がある。そういうものが、当然に、みなさんの音楽生活の中にある。これは普通に気持ちがいいですよね。音楽を聴きたい人がいて、やりたい人がいて、何かしら思いが伝わって、それがバトンになって、次の音楽が生まれていく。それって、とても健全なことだし、養分みたいなものを必要とせずとも幹が太く育っているんだと思います。今は世の中から斜めに見られることもあると思うんです。でも、VOCALOIDもそうだったし、いずれは昔話のようになると思います。

ーーたとえばDECO*27さんなど、ボカロPがVTuberに楽曲提供することも増えましたし、ネットカルチャーから活動の拠点を広げてるアーティストやクリエーターに活躍の場が増えている感じもありますが、そのあたりはどうでしょうか?

じん:それが普通なんじゃないですかね。あくあさんと僕がご一緒して、それがたまたま音楽になった。それが新しいものに見えているのだとしたら、逆に今まで誰かが壁を作っていたんじゃないかと思うくらいのことで。やっぱり、似てるんじゃないですかね。だから音楽をやるようになった。作為的なものじゃない感じがします。インターネットカルチャーというと特殊なフィールドという感じもありますけれど、無理くりこうなった感は本当にない。やっぱり、今は面白いし、いい時代だと思いますね。駅前にアンプを持っていって大騒ぎしたり、なにかしらの花火をあげて人を集めないと音楽を聴いてもらえない時代ではなくなっている。もちろん、そのぶん飽和していくわけですし、綺羅星になるためにズルいことを考える人も沢山いると思います。でも、何か音楽の外側の力みたいなもので、ねじ曲がって伝わるようなことは少なくなってきた感じがする。僕も音楽だけじゃなく、物語や文筆も含めて、自分の思いをどう伝えるかってことをあがいてきた10年だった。それを経た今、インターネットを主軸とした音楽の発展は、僕としては、とても自然なことだなと思っています。

湊あくあ 8th single「未だ、青い」

■リリース情報
湊あくあ 8th single「未だ、青い」
iTunes、Spotify、Apple Musicなどの音楽配信サービスで配信中 https://cover.lnk.to/StayBlue

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