80s-90sの名曲をカバーするTokimeki Recordsの新展開、『透明なガール』とは? 緻密なストーリーとサウンドの魅力に迫る
Tokimeki Recordsに出会ったのは、Spotifyのとあるプレイリストだった。Suchmosのカバー「STAY TUNE (feat.ひかり)」を聴いたのが最初だったと思う。この時、サビに来るまで「STAY TUNE」のカバーだと確信できなかった。〈STAY TUNE〉と歌い出しているとは思ったが、Aメロ、Bメロと、まったく異なる曲に聴こえたのだ。イントロでは、フィラデルフィア・ソウルかなと思ったし、歌が始まってからは楽曲全体に張られたエレクトロファンク~エレクトロブギーのリズムと、そのグルーヴにジャストでライドオンしながらも、途中で少しディレイさせるノリもみせる、ソウルの新しい解釈を感じさせるボーカルに、ネオソウルかとも思った。そして、そのトラックとボーカルの絶妙なバランスに、一瞬で惹きつけられた。知っている曲なのに、まったく新しい耳触りだったのである。
Tokimeki Recordsは、2019年の夏に、80~90年代の邦・洋楽の名曲をカバーするプロジェクトとして始動した。以降、ハイペースで楽曲を発表してきている。そのため筆者がTokimeki Recordsを知った際には、既に多くのカバー楽曲を配信で聴くことができる状態であった。
楽曲の並び/アーティストのセレクトに見る斬新な切り口
まず、楽曲の並びを見てトキメキ! アーティストのセレクトにそそられたのである。そのポイントは何点かある。まずは、牧瀬里穂、中谷美紀、中森明菜、中村由真といった、女優としても活動するアーティストなどの路線からも定期的に名曲を持って来ているところ。牧瀬里穂「Miracle Love」(1991年)は作詞・作曲が竹内まりや。中谷美紀「MIND CIRCUS」(1996年)は、作曲が坂本龍一。両曲ともリリース当時、音楽マニアから名曲と評価されていた記憶がある。さらには、サーカス、亜蘭知子、一十三十一、具島直子などの並びにマニアックさも感じられたし、オリビア・ニュートン・ジョン、シンディ・ローパー、カイリー・ミノーグ、The Cardigans、Shakatakといった海外勢などもカバーしている。Winkや杏里など、80~90年代の王道アーティストも押さえながら、他アーティストとはカバーの切り口の違いを印象づけさせるあたりもうまい。
そしてもうひとつ、このプロジェクトの最大の面白さだと思ったのが、カバー曲のチョイスである。例えば、松任谷由実の「BLIZZARD」(1984年)や、冒頭で触れたSuchmosの「STAY TUNE」(2017年)などは、グルーヴやアレンジなどによる原曲のインパクトが強いため、聴き手には“音像”としてインプットされている印象があり、本来ならばあまりカバーに選ばない曲なのではないかと思うが、そこに果敢にチャレンジしているあたりに、Tokimeki Recordsが、カバーにこれまでにない別のベクトルを求めているのではないかと考察した。松任谷由実「BLIZZARD」も、カバーというよりリミックスに近いほどバックトラックをアレンジしながらも、メロディをしっかり残し、自分達のカラーやサウンドテーマに沿った楽曲に仕上げることに成功している。また逆に、久保田利伸「You were mine」(1988年)などは、サウンドへの共通項を見出しカバーしたのではないかと思わせるチョイスである。音色こそ違えど、フレーズやグルーヴは、原曲を踏襲している。このアンテナの張り方、多彩な切り口、そこから出てくる新たなシティポップへのアプローチは、間違いなくTokimeki Recordsの個性であり、最大の魅力だ。
アートワークモデルに抜擢された「古町ミナ」
Tokimeki Recordsは、自身のHP上で「都会の夜の帳を舞台に、ノスタルジーな音楽を手がける音楽プロジェクト」と謳っている。何曲かはミュージックビデオも制作されているが、ノスタルジー、夜、80年代を思わせるディテールや映像エフェクトなど、繰り返し観たくなる中毒性がある。どの曲も映像のコンセプトがしっかり伝わってきて、クオリティも高い。サウンド、ジャケット、ミュージックビデオ、SNSと、メディアを自在に駆使し、アーティストのイメージを印象づける手法は、昨今、珍しいことではないが、Tokimeki Recordsは、そこからまた一歩飛び抜けた面白いアイデアを具現化してきた。
初のオリジナル曲「SLEEP PARTY feat. mindfreakkk」(2021年12月)に続き、2022年6月にリリースされた2作目のオリジナル曲「透明なガール ~Dye me~ (feat. ひかり)」の発売に先駆け、オリジナル作品のアートワークモデルに古町ミナ(コマチミナ)を抜擢。架空の人物であるが、都内のOLという設定で、古町ミナ名義のTwitterやInstagramもスタートさせた。Twitterでは、古町ミナをモデルにし、楽曲をイメージして描いたイラストや、リリックビデオ、Twitter漫画も展開中である。漫画やイラストはOLの日常を描いているが、ちょっとしたアクシデントやサプライズ、寂しい夜を切り取っていて、ストーリー性も感じられとてもドラマティック。なおかつ、シズル感もありエロティックだが、どこか健康的な爽やかさや人間味あふれるキュートさもある。
Tokimeki Recordsさんの
オリジナル作品のモデルに
選んでいただきました🫧 https://t.co/ACmcWW5Euh— 古町ミナ / Mina Komachi (@KomachiMina) April 27, 2022
「透明なガール ~Dye me~ (feat. ひかり)」は、AORやブラックコンテンポラリーなフレイバーもあるミディアムアップチューン。ボーカルのひかりの多彩な母音の抜き方、一瞬のビブラートなどでソウルフルな歌声を垣間見せるところも楽しい。古町ミナが夕暮れから夜にかけて、街やいろんな場所を彷徨う、アニメーションのミュージックビデオは、途中で古町ミナだけのショットなどが挟み込まれ、さながら、彼女のスマホの中にある写真を覗き見しているような気分になる。繁華街のネオンの光り具合で夜の深さを想像させたり、場面によりピアスの光り方を変えたりと、緻密に練られた上で作られた作品だと思う。