まさかの前作超え! カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol.2』最速全曲解説

 「まさかあの『Vol.1』を超えてくるとは!」。それが本日リリースされたカルヴィン・ハリスのアルバム『Funk Wav Bounces Vol.2』の偽らざる第一印象だ。2017年6月にリリースされた『Funk Wav Bounces Vol.1』から5年の時を経てーーその時点からナンバリングがされていたとはいえーー続編が実現するなんて想像もしてなかったところに突然飛び込んできた『Vol.2』リリースのニュース。今年5月から立て続けにリリースされてきた4つの先行曲、「Potion feat. Dua Lipa & Young Thug」「New Money feat. 21 Savage」「Stay With Me feat. Justin Timberlake, Halsey & Pharrell」「New To You feat. Normani, Tinashe & Offset」からもそのヤバさは十分に伝わってきたが、アルバム全14トラックを通して聴いた時の夏の始まりから終わりまでが走馬灯のように通り過ぎていくような感覚と、聴き終えた後に残るそこはかとない切なさは格別。カルヴィン・ハリスが全曲の作曲とプロデュースとミックスを手がけ、前作を超える全23組もの超豪華フィーチャリングゲストを迎えた本作。世界最速の全曲解説をお送りしよう。

1. Intro

 『Funk Wav Bounces Vol.1』は全10トラック、約38分という超タイトな構成だったが、今回の『Vol.2』はこの「Intro」と「Stay With Me feat. Justin Timberlake, Halsey & Pharrell」の変奏バージョン(「Stay With Me(Part.2)」) を加えて全14トラック、約44分と少しボリュームアップ。5年の時を超えて、前作『Funk Wav Bounces Vol.1』終盤の夏の夕暮れ時のような余韻をそのまま引き継いだ、エレクトリックピアノのメロウな調べで幕を開ける。

Calvin Harris - Intro (Official Audio)

2. New Money feat. 21 Savage

 ギャング出身のアトランタの人気ラッパー、21サヴェージをフィーチャー。前作同様に本作でもカルヴィン・ハリスがほとんどすべての楽器や機材を演奏しているが、例外的にこの曲ではベースでアリシア・バンヴェニストが参加している(共作者としてもクレジット)。スイス出身のアリシア・バンヴェニストは、ブーツィー・コリンズの作品への参加でも知られる新世代の女性ファンクベーシスト。『Funk Wav Bounces』の「Funk」はジャンルとしてのファンクミュージックを指しているだけでなく、ネタ元としての(言うまでもなくブーツィー・コリンズも主要メンバーだった)Pファンクを経由した90年代前半のGファンクとの接続も示唆している。そんなGファンクテイストの強いこの曲で、前作に続いて本作にも参加している御大スヌープ・ドッグの登場に先立って、21サヴェージは普段よりもリラックスしたスヌープばりのフロウを披露。

Calvin Harris, 21 Savage - New Money (Official Audio) ft. 21 Savage

3. Potion feat. Dua Lipa & Young Thug

 前作収録「Heatstroke feat. Young Thug, Pharrell Williams & Ariana Grande」に続いてのヤング・サグ、そしてカルヴィン・ハリス作品としては2018年の「One Kiss(with Dua Lipa)」のクラブヒットも記憶に新しいデュア・リパをフィーチャー。カルヴィン・ハリスによるナイル・ロジャース風カッティングギターが冴えわたるディスコチューン。『Funk Wav Bounces』シリーズの主要レファレンスはAORやディスコやGファンク、つまりは70年代後半〜90年代初頭のウェストコーストサウンドだが、この曲のイントロのカルロス・サンタナを思わせるラテンロック風の泣きのギターは新機軸。ミュージックビデオでは80年代AORの代表的シンガー、ロバート・パーマーの「Addicted To Love」のミュージックビデオのような女性バンドを従えての粋なパフォーマンスで魅せてくれるヤング・サグだが、ギャング活動への関与と恐喝容疑で現在(2022年8月)は収監中。フリー・ヤング・サグ!

Calvin Harris, Dua Lipa, Young Thug - Potion (Official Video)

4. Woman of the Year feat. Stefflon Don, Chlöe & Coi Leray

 ジャマイカ系英国人ラッパーのステフロン・ドン。アトランタのR&B姉妹デュオ、クロイ&ハリーの姉、クロイ。今年『Trendsetter』でアルバムデビューしたばかり、大物ヒップホッププロデューサー、ベンジーノの娘としても知られるコイ・リレイ。以上、3人のラッパー/シンガーをフィーチャー。女性のフィーチャリングゲストは『Funk Wav Bounces Vol.1』が21組中5組だけだったのに対して、『Vol.2』では23組中約半分の11組。また、前作からの変化は、ジェンダーバランスの均衡だけでなく、この曲でも顕著なようにネクストスターの目利き的起用が増えていることにも表れている。3人がそれぞれの持ち味を発揮している華麗なマイクリレーにも耳を奪われるが、スライ&ザ・ファミリー・ストーン「If You Want Me To Stay」あたりを彷彿とさせる、クラビネットのサウンドと絡み合いながら曲全体をドライブさせていくベースラインが異常なカッコよさ。

Calvin Harris - Woman Of The Year (Official Audio) ft Stefflon Don, Chlöe & Coi Leray

5. Obsessed feat. Charlie Puth & Shenseea

 ウィズ・カリファ「See You Again」での共演でもお馴染み、ニュージャージー出身のシンガーソングライター、チャーリー・プースと、ジャマイカ・キングストン出身のダンスホールシンガー、シェンシーアをフィーチャリング。『Funk Wav Bounces』シリーズの特徴の一つであるAORのテイストが本作で最も全面に出ている楽曲。カルヴィン・ハリスはApple Music 1のインタビューでチャーリー・プースの歌声を「まるでマイケル・マクドナルドのようだ」と絶賛。もちろん、それはウェストコーストサウンドの雄 ドゥービー・ブラザーズのマイケル・マクドナルド在籍期(1975〜1982年)のサウンドを念頭に置いての発言だ。

Calvin Harris - Obsessed (Official Audio) ft Charlie Puth & Shenseea

6. New To You feat. Normani, Tinashe & Offset

 2018年にカルヴィン・ハリスと「Checklist(with Calvin Harris featuring Wizkid)」と「Slow Down (with Calvin Harris)」をリリースしたノーマニ。2011年、カルヴィン・ハリスとリアーナの大ヒット曲「We Found Love」をリリース直後にいち早くカバーしたこともあるティナーシェ。『Funk Wav Bounces Vol.1』ではオープニングトラック「Slide feat. Frank Ocean & Migos」に参加していた(現在解散が噂されている)ミーゴスのオフセット。以上、3人のシンガー/ラッパーをフィーチャー。この曲で注目すべきは、サム・スミスや宇多田ヒカルの作品でもお馴染みのエンジニア、スティーヴ・フィッツモーリスを招いて生のストリングス隊のレコーディングをロンドンで行っていること。ほぼすべての生演奏はカルヴィン・ハリスによるもの、ほぼすべてのレコーディングは地元ロサンゼルスのスタジオ、というそれまでの『Funk Wav Bounces』のルールをブレイクした先で手に入れた、極上のフィリーソウルのような官能。『Vol.2』における到達点の一つ。

Calvin Harris - New To You (Official Audio) with Normani, Tinashe & Offset

関連記事