『京都大作戦』、3年ぶりに全日程開催された4日間を総括レポート 10-FEETと全てのアーティストが繋いだ“ライブへの想い”

『京都大作戦 2022』総括レポート

15周年の『京都大作戦』から見えた、10-FEETがフェスを作り出す意味

 このようにフェスというのは、天候やコロナ禍のような情勢に左右されながら、それでも全身で音楽を浴び、何かを感じ取りたいと願う音楽ファンにとっての祝祭空間である。それはアーティストや主催者が一方的に提供するものではなく、参加者一人ひとりが自発的に作り上げていくからこそ、単なるイベントを越えて、かけがえのないものになる。3日目の10-FEETのライブ時、TAKUMAは「こんなに雨に打たれて、足元もぐしょぐしょになりながら、それでもライブが観たいと行って来てくれるお前らとは、何かわかり合える気がするねん!」と言っていたが、『京都大作戦』を立ち上げたときから、いや、立ち上げることを思いついた瞬間から、10-FEETは「少しでも心が近づき合う空間を作りたいし、そういうライブができるバンドになる」ということを考えてきたはずだ。

 10-FEETが長年歌い続け、近年さらに強く表出したテーマが「わかり合うこと」や「言葉の優しさと刃」といったことである。震災、コロナ禍、戦争など、忌まわしい出来事が立て続けに起こる世の中で、副次的に飛び交う憶測や誹謗中傷こそ本当に恐ろしいのではないかと感じることが多々ある。多様性や平等が謳われる一方で、その尺度を間違えると一気に分断も加速し、溝は一度深まると修復することはなかなか困難だ。人と人は決してわかり合うことはできないし、わかり合えないと思っていた人を失った後に、初めて気持ちが少しわかったという経験もあるだろう。TAKUMA自身も、身近に感じていたそうしたやるせない想いをロックのガソリンに変換して燃やし、たくさんの名曲を生み出しながらリスナーと共有してきた。言葉で説明する以上に、音楽で届けることにはわかり合うための可能性が秘められているーーそう信じているからこそ、10-FEETは歌うのであり、『京都大作戦』という場所が存在しているのである。

 先述した3日目のライブで、TAKUMAは自分自身に言い聞かせるように「落ち込むこと、鬱になること、死にたいと思うことがあったら、みんなで一緒に共有したい」「いいライブができたら、ここなら大丈夫だっていう気持ちになれる」と激しく叫び、最後にはまともに歌えないほど声を枯らしていた。『京都大作戦』は15年経っても相変わらず道半ばかもしれない。けど、そこには確かに、ロックが鳴っている瞬間だけは喜怒哀楽を全力で分かち合おうとする、観客と10-FEETの懸命な姿が垣間見えた。

 「シエラのように」「蜃気楼」「ハローフィクサー」「goes on」「アンテナラスト」「VIBES BY VIBES」「アオ」「Fin」といった代表曲たちが、そんなTAKUMAの気持ちを彩っていく。初日にはN∀OKI、NOBUYA(ROTTENGRAFFTY)、3日目にはKj(Dragon Ash)、4日目にはSUGA、JOJI(dustbox)、湘南乃風も10-FEETのステージに登場し、「その向こうへ」「RIVER」「ヒトリセカイ」「2%」などをコラボで披露。10-FEETの想いに共鳴したアーティストたちがともに歌い鳴らす姿は、とても美しかった。

 もちろん、腹を抱えて笑える瞬間だってたくさんあった。特に2日目は、SiMが「Blah Blah Blah」を倍速演奏したことに対抗して、なぜか10-FEETも「その向こうへ」をアップテンポで演奏して見事に成功させたり、TAKUMAがドラム、NAOKIがギター、KOUICHIがマイクを持ってガタガタの演奏で「SHOES」を披露するなど、この日ならではの愉快なシーンが生まれた。大声を出してシンガロングできないからこそ、「RIVER」ではスマホのライトをかざして10-FEETにエールを送るスタイルもすっかり定着。約2万人のライトを一身に浴びたKOUICHIが放つ、渾身のシュールな一言も夏の新たな風物詩となった。フィナーレは、先述したマキシマム ザ ホルモンによる“眉毛剃り”であるが、こうしたアドリブや無茶振りから生まれる予想不能な展開も『京都大作戦』ならではであり、まるで出席を取らずとも誰がいるのかわかるクラスのような、アットホームな空気感だから生まれるものだ。

 コロナ禍以降、この光景がずっと愛おしかったし、来年は大合唱しながらもっともっと10-FEETと想いを共有したい。そして、4日間通して行われたすべてのライブが、今できることを精一杯やり尽くし、来年の開催に向けて可能性を繋げるステージになっていたのは素晴らしいことだった。

 10-FEETが中心になり、たくさんのアーティストとスタッフ、観客のエネルギーが結晶となって開催される『京都大作戦』。それは、多様化していった2000年代以降のロックシーンの1つの合流地点であるとともに、日々困難に直面する人々が集い、笑い合い、ほんの少しだけ誰かに優しく、そしてかっこよくなって家に帰れるような、素敵な空間なのである。ライブやフェス、ライブハウスに対して様々な意見が寄せられてきた2年半だったが、今年の『京都大作戦』に参加した全ての人が「やはり、なくてはならない場所だ」と再認識できたはず。これからも『京都大作戦』が最高のお祭り空間であるために、懸命に日々を生き抜き、感じたものを持ち寄りながら、再び10-FEETと顔を合わせよう。音楽を愛する者として、『〜今年こそ全フェス開祭!〜』という願いを抱きしめ続けながら、来年の開催を待ちたい。

10-FEET オフィシャルホームページ
京都大作戦2022 公式サイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる