和楽器バンドのボカロカバーはなぜ支持される? 「フォニイ」と「エゴロック」から巧みなアレンジ力を考察

 「エゴロック」は、2018年にすりぃが1分間の楽曲として発表し、その後TikTokなどで振り付けと共に流行した大人気楽曲である。2021年には「エゴロック (long ver.)」としてYouTubeにフルバージョンが公開され、2022年7月15日現在で2100万再生を突破している。

エゴロック / 和楽器バンド [Cover]

 今回、和楽器バンドによる編曲では原曲の疾走感をより加速させたアレンジが印象的な一曲に仕上がっている。その要素として、テクニカルなドラムのキック音が魅せるハードロックらしいアプローチが大きく担っている。しかしながら、ギターサウンドは他の弦楽器を際立たせる音作りが成されており、独創性はありながらも聴きやすい。和楽器バンドの楽曲ほぼ全ての編曲を担当する町屋(Gt)のアレンジ力の高さが窺えた。

 また、原曲のシンセソロをなぞらえた尺八のソロは、血の通った温度感を与え、楽曲の表情をより豊かにしている。「フォニイ」と同様に、尺八がなくてはならない存在感となっていた。さらにラスサビにあたる〈人生かけても負けそうです 勝ち負け取り憑かれナンセンス 1分砕いて常識を 未来にSay goodbye〉の部分では、箏やギターが緻密な掛け合いを見せている。この凹凸がハマるようなアレンジに、思わず天を仰いだ。「フォニイ」に比べ、鈴華の歌い方も、がなりやうねりを用いた歌い方をしており、楽曲のポップさを消すことなく和のテイストを表現している。こうした、考え尽くされたバランスが聞きやすさとオリジナリティを両立させていた。

 ここまで、一貫して和楽器バンドの独創性と柔軟性の両立に注目してきた。しかし、この特徴は今作のアルバムならではと言える。

 前作の『ボカロ三昧』では、亜紗(Ba)の「吉原ラメント」や銀サクの「いろは唄」、黒うさPの「千本桜」にkemuの「六兆年と一夜物語」など元々、和をイメージしたVOCALOID楽曲が多く収録されていた。アレンジも独創性を全面に出したものが多く、鈴華の歌い方は詩吟らしい歌詞の語尾にある母音を強調する節調が多く用いられている。

 一方で、今作の『ボカロ三昧2』の収録曲を見てみると和風をイメージさせる楽曲は、少なく、最新のボカロのトレンドであるBPMが早く言葉を詰め込んでいるような楽曲が多い。Kanariaの「アイデンティティ」や柊マグネタイトの「マーシャル・マキシマイザー」、かいりきベアの「ベノム」、DECO*27の「キメラ」などがその例として挙げられる。これは、前作発売時から、8年間に渡り和楽器バンドが歩んできた道筋を振り返ると頷ける部分がある。

 日本武道館での単独ライブに続き、オリンピック中継主題曲の抜擢。レーベル移籍による環境の変化にドラマやアニメの主題歌担当など。活躍の幅を広げていく中で、彼ら彼女らが新しいものを求め、ただの和楽器×洋楽器のアンサンブルだけではなく、そこにプラスしてダンスミュージック的な打ち込みによるサウンド、JAZZ的なアプローチによる即興演奏的なサウンドなど、より幅広いサウンドを作り上げていたことが伝わってくる。そこには、『ボカロ三昧』リリース時の和楽器を使ったロックバンドという印象だけではなく、世界標準で構築された全ジャンルを横断するような究極のサウンドを目指すバンドの姿勢が現れている。

 今作の絶妙なバランス感覚もそういった部分から、現代のVOCALOID楽曲の特徴を捉えたサウンド作りを慎重に行っているように感じた。今っぽさの残る音作りに加え、和楽器サウンドとの互いの境界線を埋め合うような融合は唯一無二だろう。これらを踏まえると、今作アルバムは和楽器バンドのファンに限らず、VOCALOID楽曲のファンといった新規層に向けても聴きやすいアルバムとなることが期待される。先行楽曲で前作からのアップデートを提示した和楽器バンドが、そのほか収録曲でどんな驚きを与えてくれるのか。来る8月のリリースが非常に待ち遠しい。

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