和楽器バンドのボカロカバーはなぜ支持される? 「フォニイ」と「エゴロック」から巧みなアレンジ力を考察

 2013年に、詩吟の経験を持つボーカル・鈴華ゆう子が日本の伝統芸能を世界に広げるため、結成した和楽器バンド。和楽器とロックバンドを融合させたハイブリッドロックエンタテイメントバンドとして、国内外で人気を得ている注目のアーティストだ。

 そんな和楽器バンドが、2022年8月17日に前作の『ボカロ三昧」から8年ぶりとなる『ボカロ三昧2』のリリースする。和楽器バンドといえば、2014年にYouTubeで公開した「千本桜」のカバーが、7月現在1.5億回再生を突破。ライブの定番曲になるほどの人気っぷりだ。今作でも最新のVOCALOID楽曲から、往年の名曲まで新旧問わない収録曲に期待が高まっている。

 今回は、『ボカロ三昧2』からの先行配信曲としてすでに発表された「フォニイ」と「エゴロック」の2曲から、和楽器バンドのボカロカバーはどこがすごいのか? その魅力に迫っていきたい。

フォニイ / 和楽器バンド [Cover]

 2021年6月に公開されたオリジナルの「フォニイ」は、ボカロP・ツミキによる、CeVIO AI「音楽同位体 可不」を使用した楽曲。和楽器バンドは、2022年7月1日に同楽曲のオリジナルリメイクMVをYouTube上に公開し、すでに780万再生(2022年7月26日現在)を突破しており、早くも大ヒットの兆しを見せている。

 イントロでは、和楽器の繊細なサウンドを活かしたアレンジにより、楽曲の儚さを絶妙に表現している。そこにギターサウンドが重なることで盛り上がりを加速させ、最初のわずか10秒で聴き手の心を掴む、演奏技術の高さに圧倒された。

 ここで注目したいのは、尺八の存在だ。箏や津軽三味線が原曲内のピアノサウンドをベースにした演奏部分を多く担っているのに対し、尺八のサウンドは原曲にはない独特な動きを見せている。この息遣いを感じさせる長い揺らぎが、和楽器バンドのカバーに奥行きを生み出しているのだろう。

 こうした和楽器バンドらしさと、原曲の絶妙なバランスを魅せるエッセンスは他にもある。それが、鈴華ゆう子の歌声だ。原曲で使われている可不の歌声は、目まぐるしい曲調とは裏腹に繊細な柔らかさが特徴的である。そもそも、これを生身の人が再現できるということが脅威的であり、これこそが『ボカロ三昧』がヒットした理由である。

 和楽器バンドのカバーでは、CeVIO AIの可不やVOCALOIDの初音ミクなどの歌い方・ニュアンスを尊重しつつも、鈴華ゆう子らしい多くの表現方法を持つ歌声や、詩吟らしさを隅々に感じさせる揺らぎを用いることで表現していた。鈴華ゆう子の柔軟性が最大限に発揮された楽曲である。

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