Tani Yuuki、リスナーとの親密なコミュニケーションの大切さ リアルのライブを重要視するようになった心境の変化

 シンガーソングライターのTani Yuukiが、新曲「夢喰」(読み:ばく)のMVを公開した。

 「Myra」がSNSでヒットしたことでその名が広く知れ渡った彼だが、それが逆に自分にとってプレッシャーになった時期があったという。今作は、そんな自分に立ちはだかる壁を乗り越えていこうという力強い意志が込められた一曲。今までになくパワフルなロックサウンドからは、今まさに変化しようとしている彼の放つ激しい勢いが伝わってくるようだ。

 また現在、新進気鋭のアーティストを迎えた対バンツアー『Tani Yuuki Presents LIVE “LOTUS”』を月1で開催中。その一方で、地方都市を巡回するアコースティックライブツアー『Tani Yuuki Acoustic Live Tour “reachable love song”』も同時進行している。元々は人前に立つのも苦手という彼が、なぜ今ライブにこだわるのか。その理由についても話を聞いた。(荻原梓)

ネガティブな妄想を糧にしていかなきゃという気持ち

ーー新曲「夢喰」のMVが公開されました。まずはどんな作品なのか説明していただけますか?

Tani Yuuki(以下、Tani):簡単に言うと僕が剣士になって、剣を振り回して敵と戦う映像になってます。映画『スター・ウォーズ』に近い世界観ですね。コンセプトは“チャレンジ”で、登場人物は自分と自分に似た何か。過去の自分を敵に置き換えて、その敵に飲まれそうになるけど戦ってバサバサ切り倒し、最後はその諸悪の根源みたいなものを倒して無事に自分が勝利する、というストーリーになっています。撮影するにあたって殺陣やワイヤーアクションに挑んだんですけど、1日2時間半くらいの稽古を1カ月間続けました。

夢喰 - Tani Yuuki【MV】

ーーそこまでMV撮影に力をかけたのは初ですよね。

Tani:初めてですね。作品のコンセプト的にも何か新しい挑戦が必要だったので、ワイヤーに吊るされて「僕の職業なんだっけ?」と思いながら(笑)。そんなことをやらせてもらいました。

ーー実際に殺陣をやってみてどうでしたか?

Tani:正直しんどかったです。でも、ジムとかで走ったりするのってゴールがないじゃないですか。それに比べれば、殺陣の稽古は集中すると2時間なんてあっという間で。普段は制作で部屋に籠りがちなので、良い気分転換にもなりました。それに、こういう長い物を持って振り回すのって、男の子のロマンじゃないですか。

ーーわかります(笑)。

Tani:だから最終的には殺陣は楽しくなってましたね。何より大変だったのは、普段使わない筋肉を使うから体が追いつかなくて足がつっちゃったりするんですよ。ワイヤーアクションにしても工事現場にあるような大きなクレーン車が用意されてて、「はい行きまーす」って言われて一気に上空20メートルくらいまで吊るされたりして。それを合計30回くらい繰り返しました。

ーーめちゃくちゃ大変ですね……。

Tani:でも結果的に良いリフレッシュになりましたね。

ーーそもそもこの「夢喰」というタイトルにはどんな意味を込めてるんでしょうか?

Tani:「Myra」をリリースしたことで、皆さんからいただいた大きな反響が自分にとっての壁になってた時期があったんです。当時、僕以外にも流行っていた人たちが「一発屋」と言われていて。そのことから「今度はお前の番だ」と言われてるような気がして。でもその言葉に飲まれるんじゃなくて、逆に喰らっていかなきゃいけないと思って。そういうネガティブな妄想を糧にしていかなきゃという気持ちが、夢を食べると言われる幻獣の獏と重なるところがあったので、それをタイトルにしました。

Myra - Tani Yuuki (full ver.)

ーーそういう思いもあってか、今作は今までの作品と比べても疾走感や力強さの面で一つ抜けてます。前回の取材で「もっとこんなTani Yuukiもいるんだぜっていうのを今は届けなくちゃいけない」と言ってたのを思い出しました(※1)。

Tani:ライブを何度か経験してきたなかで、セットリストを組む時に、もっといろんな雰囲気の曲がほしいという思いが強くなったんです。元々こういうアップテンポの曲調は嫌いじゃないし、ストックの中にもまったくなかったわけじゃないので、そういう自分の新しい一面をもっと出せればとは以前から思ってました。

ーー曲を作ったのはいつ頃ですか?

Tani:今年の2月くらいに、Instagramのストーリーにこの曲の原型を投稿してたんです。サビの部分をギターでポロっと弾いたくらいの簡単なものだったんですけど、ちょうど悩んでた時期だったので、その壁を乗り越えたいという気持ちが曲にも色濃く出てるんじゃないかなと思いますね。

ーー〈五月蝿いんだよ〉など歌詞の表現も強いですよね。

Tani:色々と予定が決まって忙しいわりには、思ったほどの反響がなかったりする時期もあって。そういう状況に対して、やっぱりいろんな声がありました。耳を塞いでいても、どうしても聞こえてきちゃうような、そういう“一人反省会”みたいな瞬間がふと訪れるんです。そんな心理状態をそのまま歌詞に綴った感じですね。

ーーなるほど。この曲を聴いてるとむしろ吹っ切れた気持ち良さがあるのは、その葛藤から解放されたからなんですか?

Tani:そうですね。サビのワンフレーズが出てきたのは年明けだったとはいえ、曲が完成したのは乗り越えてからでした。まだ何かしら抱えてる状態だったら、このスカッとした感じは出なかったのかなって思います。もう今は完全に吹っ切れてて、最近はそういう声も全然気にしなくなりましたし。家で一人でいる時にエゴサして、ネガティブなコメントを見つけたりすると「うるせえ!」って口に出して言ったりしてます(笑)。

ーー(笑)。サウンド面に目を向けても、今までとは根本的に違う作りをしてますよね。ラップ的でなく完全にロックです。こういう曲調に至った理由は?

Tani:それはもう、こういう曲がほしかったからですね。思いっきり手を振りかざすでも、タオルを回すでもどちらでもいいんですけど、理由は圧倒的にライブでの一体感がほしかったから。実は2月にInstagramに投稿した時は、もっとテンポが遅かったんですよ。ほぼバラードみたいな。

ーー想像できないです。

Tani:そうですよね。BPMをかなり上げました。例えば最初に「これくらいの疾走感がほしいな」と思って作り始めても、後になって聴き返すと遅いことがよくあるんです。なので今回も後から何倍もスピードを上げました。

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