Mrs. GREEN APPLE、2年半ぶりライブ『Utopia』でさらけ出したありのままの心 晴れやかな音楽とともに未来へ

 活動休止期間中も彼らの音楽を愛し続けたファンにやっと会えた喜び。この日を迎えるまでに3人が味わった大きな喪失感と寂しさ。それらを引き連れながらバンドを続けようという覚悟。Mrs. GREEN APPLE活動再開後初のライブ『Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW “Utopia”』はメンバー3人が今抱く感情の全てを音楽として曝け出すようなライブで、大森元貴(Vo/Gt)、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)はアーティストとしてでもバンドマンとしてでもなく、一人の人間としてステージに立っていた。

 まず特筆すべきは、1曲目が「Attitude」だったことだ。大森がソングライターとしての心の内を綴った4thアルバム『Attitude』表題曲だが、ライブで一度も演奏されなかったり、リリース時にはMVのコメント欄も閉鎖されていたりと、ある種誰も触れられない聖域として存在していたこの曲。ライブでは二度と聴けないかもしれないと思っていた人も多かったことだろう。しかし、休止期間を経て3人が感覚を共にしている今、そして『Unity』という作品を世に送り出し、より嘘のない姿でリスナーと向き合おうとしている今、彼らが初めてファンの前で鳴らす曲としてこれ以上にふさわしい曲はなかった。今、あなたと、ありのままの心で音楽を分かち合いたい。そんな3人の想いが伝わってくる選曲である。

 そうしてライブが始まり、最初に溢れ出したのは喜びの感情だ。何と言っても、アリーナツアー『ARENA TOUR / エデンの園』以来約2年半ぶりのライブだ。開演前からステージを覆っていた紗幕に3人のシルエットが映ると客席からわーっと拍手が起こり、幕が落ち、再会が叶った瞬間、会場内は高揚感で満たされた。観客の手首のライトバンドが光るなか、祝杯をあげるようなテンションで鳴らされたのは「CHEERS」で、鍵盤を押さえながら嬉しそうに客席を見渡していた藤澤は、最初のMCで「みんなの表情とか、マスク越しでも届いてきました!」と伝える。メジャーデビュー曲「StaRt」では若井と藤澤が勢いよく花道へ駆け出し、大森も歌いながら思わず笑ってしまっていた。森夏彦(Ba)、神田リョウ(Dr)とともに鳴らすサウンドはタイトに締まっていて、バンドのフィジカルを感じさせるもの。異なるカラーの曲を立て続けに披露する、メンバー曰く“情緒がジェットコースター”なセットリストが、華やかな曲はどこまでも華やかに、影のある曲ではメンバーの表情すらも影で隠してしまうように、といった照明・映像演出とともに展開されていく。

 振り返ればこの日のセットリスト、前半は、『Attitude』収録曲にも関わらず『エデンの園』で演奏されなかった曲や、『エデンの園』以降にリリースされた曲、メジャーデビュー作『Variety』の曲を中心に構成されていた。同日にリリースされた『Unity』の新曲を10曲目まで演奏しないという大胆な采配だが、ライブ初披露の曲も多くファンには嬉しい展開。同時に“続・エデンの園”といった印象があり、“立ち止まったところからもう一度出発する”ということから彼らは始めたかったのでは、そうして筋を通したかったのでは、と思わせられた。そう考えると、「InsPirATioN」(『Attitude』1曲目のインスト曲)をSEとし、『Unity』の世界観を彷彿とさせる映像を流したオープニング演出も象徴的だ。

 asmiも登場した「ブルーアンビエンス(feat. asmi)」から始まった後半では『Unity』の曲も登場。また、休止期間中にストリーミングでの楽曲総再生数が20億を超えたことに言及し、「たくさん愛してくれて嬉しかったです。2年間の休止期間、ありがとうございました」と3人揃って深くお辞儀をしたあとには、「僕のこと」「青と夏」「インフェルノ」といった人気曲を感謝を込めて披露するセクションを設けた。それぞれライブアレンジが施され、今ここで向き合う「僕のこと」「青と夏」「インフェルノ」として演奏されている。特に大森の弾き語りから始まった「僕のこと」はまるで独り言のような曲だと改めて思わされたし、そんな曲がたくさんの“孤独”の奥深くにまで届いたという尊い事実を噛みしめながら、魂の演奏に聴き入った。

 この日演奏した曲の中で最も古い「我逢人」の頃からミセスの曲の根幹にあるものは変わらない。それは“物事にはいつか終わりが来る”という真理であり、全身で音楽を楽しむ一方、大森が今改めて歌う数々の言葉を聴きながらこの3人がバンド活動を通じて経験した一つの“終わり”、喪失に想いを馳せた人も少なくないだろう。先ほど“立ち止まったところからもう一度出発する”と書いたが、彼らは2年半前と全く同じ状態で帰ってきたわけではないし、これからは「月とアネモネ」も大森一人で歌うしかない。バンドの体制が変わったことに言及したMCで大森が「寂しくショッキングな出来事だったかと思いますが、僕らも一緒です。誰よりも寂しくショックであると言えるくらい大きな出来事でした」と語ったように、誰よりも、彼ら自身が様々な想いを巡らせていたはずだ。『Unity』はそういった経験と向き合いながら生み出した作品だったし、「変な世界線にいるんだよな。夢の中にいるみたい」(大森)という実感とともにこうしてステージに立ってしまうことは、彼らにとって“これが現実だ”と受け入れる行為でもあったのではないだろうか。例えば「君を知らない」における自分の感情に身を裂かれそうになっている大森の歌唱、彼にそうさせるほど熱の入ったバンドの音がそれを物語っている。

関連記事