みんなが聴いた平成ヒット曲 第3回:松平健「マツケンサンバII」

冬ソナ現象、イチロー新記録、「チョー気持ちいい」が流行

 「マツケンサンバII」は、いつ、どんなときに曲を再生しても、常に浮かれているように聴こえる。こちらがいかなるメンタルであってもお構いなしだ。リリースから20年近く経ち、その間、世界中でさまざまな出来事が起きた。しかし「マツケンサンバII」の浮かれぶりは一向に色あせない。むしろ約20年前よりも、曲が持つパワーはよりポジティブになっているのではないか。そういう風に聴こえるのは、もしかすると私たちが暮らすこの世の中はそれだけ大変さが増しているからのかもしれない。曲を聴いたときに頭のなかにパッと割り込んでくるマツケン(松平健)の姿は、かつてテレビで観ていたときよりも、もっとキラキラしているように思えるのだ。

 ただリリースされた2004年は、この曲同様、いろんな物事がフィーバーしていた。

 韓流ブームの火付け役となった韓国ドラマ『冬のソナタ』で主演をつとめたヨン様こと、ペ・ヨンジュンが初来日を果たしたのが同年4月。羽田空港には、ヨン様を一目見ようと女性を中心に7000人が詰めかけたほどの熱狂ぶり。「微笑みの貴公子」と呼ばれたヨン様が笑顔を浮かべながら手を振ると、ファンは嬉しさのあまり黄色い歓声をあげた。さらにファンたちは渡韓して、『冬ソナ』のロケ地を聖地巡礼。グッズも飛ぶように売れた。「冬ソナ現象」をきっかけに、日本には空前の韓流ブームが巻き起こり、ペ・ヨンジュン、イ・ビョンホン、チャン・ドンゴン、ウォンビンは「韓流四天王」と称された。「四天王」というワード自体が、何だかどこか浮かれている。もちろんマスコミも韓流一色。現在日本では『愛の不時着』『梨泰院クラス』などが人気だが、その足がかりを作ったのがヨン様であり、『冬ソナ』である。

 また同年は、スポーツの分野で日本人が世界を相手に大活躍をみせた。特に驚かせたのが、メジャーリーグ(MLB)のシアトル・マリナーズに当時在籍したイチロー選手である。メジャー4年目を迎えたイチロー選手は5月に日米通算2000安打を達成すると、例年以上にハイスピードで安打を量産。8月26日にはMLB史上初となるデビューから4年連続200本安打を記録すると、最終的に262本もの安打を積み上げた。これは、アンタッチャブルレコード(更新不可能な記録)とされていた、1920年のジョージ・シスラー選手による257安打を超えるもの。84年間破られることがなったその記録をイチロー選手が塗り替えた。日本では、野球の本場にその名を刻んだとしてイチロー現象が過熱。しかしアメリカでは、当時の報道として「日本ほどの盛り上がりはなかった」とされている。一部では、シスラー選手の大記録を日本人選手が更新したことへの違和感があったとも伝えられていた。そういった温度差も含めて印象的な出来事だったのではないか。

 アテネオリンピックでは、日本選手団のメダルラッシュに沸いた。金メダルの数は16個。これは、27個を獲得した2021年東京オリンピックまで、1964年東京オリンピックに並んで日本歴代最多だった。またメダル総数37個も当時の歴代最多。注目されたのは、男子水泳の100メートル平泳ぎで優勝した北島康介選手。競技後のインタビューで口にした「チョー気持ちいい」はのちに流行語大賞に。良い意味で浮かれまくったそのセリフは、北島選手の努力や苦労が報われたことをあらわしており、大きな好感を持って迎えられた。

 もちろん明るいニュースばかりではなかったが、それでも2004年の日本はハッピーな出来事が何度かあった。『マツケンサンバII』のあのひたすらポジティブなムードは、時代のムードにぴったりと合っていたような気がする。

【公式】松平健「マツケンサンバⅡ」 MV

※1:オリコン週間シングルランキング2004年7月11日付

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