みんなが聴いた平成ヒット曲 第3回:松平健「マツケンサンバII」

 音楽が主にテレビが持つメディアパワーと密接に結びつき、お茶の間を経由して世間の“共通言語”となった時代、平成。CD登場のタイミングと相まって、音楽シーンは史上最高とも言える活況を迎えた。当時生み出された楽曲たちは、今なお多くの人々の心や記憶に刻まれ、特別な思いを持つ人も少なくない。また、時代を経てSNSや動画という新たなメディアパワーと結びつき現在進行形のヒット曲として甦る機会も増えている。

 そこで、リアルサウンドではライター田辺ユウキ氏による連載『みんなが聴いた平成ヒット曲』をスタート。平成元年(1989年)〜30年(2018年)のヒットチャートに登場した楽曲の中からランダムに1曲をピックアップし、楽曲ヒットの背景を当時の出来事もまじえながら論じていく。

 第3回となる今回は2004年(平成16年)7月のヒットチャートからセレクト(※1)。1位 BUMP OF CHICKEN『オンリー ロンリー グローリー』、2位氷川きよし『番場の忠太郎』、3位大塚愛『Happy Days』、4位CHEMISTRY『mirage in blue/いとしい人(Single Ver.)』、5位RIP SLYME『GALAXY』と続くチャートの中から初登場17位の松平健『マツケンサンバII』に注目。2005年1月17日付シングルチャートでは最高位3位を記録した他、リリース後にも度々脚光を浴びている異色の楽曲である。2021年12月31日に放送された『第72回NHK紅白歌合戦』の特別枠でも17年ぶりに披露され、豪華絢爛、底抜けに明るい楽曲のパワーで多くの視聴者を元気づけた。(編集部)

あわせて読みたい

・第1回:H Jungle with t「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」
・第2回:hide with Spread Beaver「ever free」

ヒャダインが分析「金ピカの白塗り侍が歌う、わけのわからなさ」

「全然泣かれへん! 歌詞が明るすぎて……」

 2022年6月29日放送のバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のなかの企画に挑んだ、お笑いコンビのダイアン・津田篤宏はモヤモヤした表情でそう言った。

 同回で放送されたのは、「マツケンサンバを踊りながら泣くことなど出来ない説」の第2弾。2004年7月にリリースされた松平健の代表曲「マツケンサンバII」(2004年)があまりに晴々とした楽曲であるため、どんなに感傷的な気持ちであっても、それを歌い踊りながら泣くことなどできないのではないか? その説を検証するための企画で、2021年9月22日放送の第1弾では、尾形貴弘(パンサー)、鈴木もぐら(空気階段)、岩橋良昌(プラス・マイナス)、松本明子、原田龍二、木下隆之(TKO)が挑戦したが全員失敗。第2弾も津田、高橋みなみ、クロちゃん(安田大サーカス)、山田勝己がチャレンジしたが泣くことはできなかった。

 芸達者なタレントたちをことごとく退けた同曲について、番組は「喜怒哀楽の『喜』以外をすべて無効化する曲」と紹介。その言葉は言い得て妙である。第2弾の最後に、「母親になって涙もろくなった」という芸人・キンタロー。が登場し、亡き母親への感謝の気持ちを思い浮かべてやっと成功することができた。そこまで思い詰めて歌わないと、この曲では泣けないのだ。

 2021年7月20日放送の音楽バラエティ『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)では、音楽家のヒャダインが「『叩けボンゴ』から歌詞が始まり、『オレ!』というフラメンコまで、それを金ピカの白塗り侍が歌うという、わけのわからなさ。ただただ楽しい。これこそ日本」とこの曲の醍醐味について触れた。さらにヒャダインはTwitterでの投稿や連載記事でも「『叩けボンゴ 響けサンバ』とあるがサンバでボンゴという楽器は使わないところがすごい」、「『オレ!』の掛け声はサンバではなくフラメンコ」と指摘。陽気な要素を盛り込むだけ盛り込み、そこから醸し出される魅力と異様性を伝えた。

関連記事