AmamiyaMaako、ネオシティポップに乗せた人生の様々なシーン 多彩なフレーバー詰まった『Drops』レビュー

 都会の夜感溢れるトラックの「東京一望」は、仕事や人間関係などに押しつぶされそうな夜、心の中で様々な思いが葛藤を繰り広げる雰囲気。マイナス思考とプラス思考が行ったり来たりし、視点が変わるたびにサウンド感も変わり、まるでいくつもの楽曲が一つに。一人の女性の心の中を、サウンド、歌、ラップで絶妙に表現。地方から東京にやって来て、コロナ禍もあって落ち込んでいる人にも刺さりそう。

 「PADDLE PUDDLE」は、ダークな雰囲気をまといながら、光に向かってもがく姿が歌われた。「PADDLE」はボートのパドルのことで、漕ぐという意味。一方「PUDDLE」は水たまりのこと。ちょっとした水たまりに足をすくわれたと思ったら、どんどん水たまりが大きくなって、どんなにもがいても抜け出せなくなる。美しいハイトーンの歌とクールなラップが交互に繰り出され、トラックには水の音がサンプリングされて使われているほか、オルガンのソロも聴き応えがある。ダークさとポップさが同居した、独特の心地よさが耳にひろがる。

 そしてラストに収録の「Half of Me」は、まるで自分の半身のような、親愛なる相手への思いを、郷愁感溢れるサウンドとメロディで歌った。サビのメロディへの展開は絶妙で、サビに入った瞬間何かハッとさせて惹きつけるものがある。ギターが入ったバンドサウンド的なトラックはどこか温もりがあり、オレンジ色の優しい光に照らされているようだ。恋人なのか親友なのか家族なのか、懐かしいあの頃を思い出しながら、ずっと一緒にいようねと誓い合う。コロナ禍で気づいた、当たり前にあったものの大切さ。隣にいる大切な人の存在は決して当たり前ではなく、一瞬でなくなることだってある。だからこそ大切にしたい。関係を育みたい。尊いものであるからこその儚さや切なさが、楽曲から溢れ出ている。

 AmamiyaMaakoは、雑誌連載でDJ HASEBE、☆Taku Takahashiなどのトラックメイカーや、KEN THE 390、COMA-CHIといったラッパーと対談し、クリエイティビティの指南を受ける。そこで得た様々なテクニックや刺激が結実した全8曲。東京で奮闘する女性の一人として、自分と同じような思いをしているリスナーに寄り添う楽曲も多く、単に恋愛のシチュエーションをオシャレに歌うシティポップとは違う、今という時代を反映したネオシティポップを聴かせている。

 深夜の東京は、以前よりひっそりと静まりかえって真っ暗。孤独はより一層加速、何かせねばと焦燥感が溢れる。そんな夜にふと聴く、AmamiyaMaakoの『Drops』。溺れ落ちたものはあめ玉、それとも涙か。

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