チェッカーズ、伝説の『FINAL TOUR』武道館公演の衝撃が鮮明に甦るーー配信ライブに先駆け行われた劇場上映の熱狂

 1992年に解散したチェッカーズの伝説のラストライブに、4K画質相当の映像レストアを施したリマスター版『劇場上映版 チェッカーズ FINAL TOUR 【リマスター版】』が5月29日、全国の映画館で一夜限りの上映が行われた。80年代~90年代にかけて、カリスマ的な人気を誇ったバンド・チェッカーズ。メインボーカルの藤井郁弥(現・藤井フミヤ)はバンド解散後も「TRUE LOVE」をはじめとするヒット曲で知られ、何度となく再結成の声も高まったが、2004年にドラマーの徳永善也が永眠。チェッカーズ7人による最後の雄姿を、映画館の大スクリーンで5.1チャンネルのサラウンドと共に楽しむことができる、大変貴重な機会となった。当日の映画館にはTシャツなど当時のグッズを身に着けた人の姿も見られ、上映前からライブ会場さながらの高揚感が場内に漂っていた。

 映像の最初に映し出されたのは、日本武道館のアリーナのド真ん中、360度ぐるりと観客に囲まれた形で設置された円形ステージ。ステージ真上からの視点があるのも映像ならではだ。まずは武内享(Gt)、大土井裕二(Ba)、徳永善也(Dr)、藤井尚之(Sax)の楽器隊4人がステージに登場し、ラストアルバム『BLUE MOON STONE』に収録のインストナンバー「FINAL LAP」を演奏する。ジャジーな演奏が生み出すソウルフルなグルーヴ、そして各楽器のテクニカルなソロ演奏に観客が沸いた。楽曲終盤に藤井郁弥、高杢禎彦、鶴久政治のボーカル3人が登場し、郁弥が一輪のバラを投げると会場は大歓声に包まれた。郁弥はリズムに合わせてクールにメンバーを紹介し、最後に「WE ARE THE CHECKERS!」と何度も叫ぶ。それと同時にカウントが入り、デビュー曲「ギザギザハートの子守唄」が繰り出された。

 チェッカーズは、1983年に同曲でデビュー。その後「涙のリクエスト」、「哀しくてジェラシー」、「星屑のステージ」、「ジュリアに傷心」などヒット曲を連発し、可愛らしいチェックのファッションやルックスも相まって、一躍アイドル的な人気を誇るバンドとしてスターダムへと上り詰めた。しかしチェッカーズのラストライブは、そうしたヒット曲を織り交ぜつつも、アイドル性とはある種決別した、成熟した大人のバンドとしての色気とスリリングに満ちあふれたステージを見せつけるものになった。

 ファンキーなリズムに乗せて、高杢がジェームス・ブラウンのようなシャウトを聴かせた「Yellow Cab」。メンバーと振りを揃えて、ダンスしながら鶴久が歌ったロックンロールナンバー「80%」。サイドボーカルの2人がメインで歌う楽曲が多数あり、それがバンドに幅と彩りを与えていた。

 シングル表題曲として初のメンバーオリジナル楽曲となった「NANA」以降、全作詞を担当した郁弥は、ファッション性の高い独自の世界観でカリスマとしての地位を築いた。「NANA」は、郁弥がセクシーな歌詞に合わせて腰をくねらせステージを転げ回りながら歌う姿が印象的。またバラードの「Lonely Soldier」では、尚之がムーディーなサックス演奏と同時に切ないボーカルも聴かせるなど、メンバーの個性が楽曲ごとに発揮され、バンドとしての懐の深さを実感させる。

 アコースティックコーナーでは、彼らのルーツであるソウルミュージックをフィーチャーした。徳永がメインボーカルを務める「青い目のHigh School Queen」や、アマチュア時代からの定番であるドゥーワップのカバー「神様お願い(TRICKLE TRICKLE)」などを披露。また同コーナーではまったりとしたトークでも楽しませ、それぞれが出会った時の印象やデビュー当時のことを語り合うなど10年の活動に思いを馳せる場面もある。

 1989年に発表された「HEART IS GUN ~ピストルを手に入れた夜~」でのモデルガンを使った演出は、チェッカーズ後期終盤のライブではお馴染みだ。スカやケルティックを取り入れた楽曲で、メンバーが並んでステップを踏みながら演奏をする。郁弥はモデルガンを手に歌い、最後にはメンバーを一人ずつ撃って音が一つずつ減っていき、最後には自身を……。かなり攻めた演出だが、ラストライブというシチュエーションもあいまって最高潮に盛り上がったことは言うまでもない。

 ライブのクライマックスは、「IT'S ALRIGHT」「See you yesterday」「90'S S.D.R」をノンストップで演奏。軽快なリズムに乗せて会場が大合唱となり、延々と続くコール&レスポンス、そして終わったかと思いきやまた曲が始まるというエンドレスな展開。1分1秒でも長くこの時を終わらせたくないというメンバーとファンの気持ちが一つになり、会場全体がまるで熱に浮かされたような熱狂となった。

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