Karin.×三浦しをん、“愛とは何か?”を語り合う それぞれの創作活動で共鳴する感情の探求

「失うもののかわりに手に入るものもある」(三浦)

三浦:Karin.さんのいろんな曲を聴いていて感じたんですが……嘘がお嫌いですよね?

Karin.:そう……ですね。とくにデビューしたての高校生のころは、何かを信じることは疑うことと紙一重だと思っていて。信じなければ裏切られることはないのだから、私はなにも信じないぞという気持ちでいたんです。

三浦:めっちゃ尖ってますね(笑)!

Karin.:高校2年生のときに書いた「青春脱衣所」は、人間関係につまずきかけたときに作った曲なんですけど、そのなかの歌詞にも嘘という言葉が出てくるんです。〈僕は嘘をついたんだ〉、〈君は嘘をついたんだ〉、というふうに。人称を変えたのは、聴いてくださる皆さんが「これは自分のことじゃない」と思わないものにしたかったから。ついた嘘がなんなのかは歌詞のなかに書かなかったけれど、そのせいで、聴く人の脳裏には自分がかつてついてしまった嘘がよみがえるんじゃないかと思ったんです。

三浦:ちょっとした嘘でも、自分だけが覚えているってことはありますからね。

Karin.:そしてその嘘が、自分の体の一部を黒く染めてしまう。それを重ねていくうちに私もみんなも真っ黒になってしまう、と想像したら怖くなって、嘘のことばかり書いている時期がありました。

三浦:人って、言いたいことのバリエーションはそんなにたくさん持ち合わせていないと思うんですよ。登場人物やストーリーの構成、テイストはその都度変えるんだけど、結局、せいぜい一つか二つの言いたいことを小説に書き続けている気がする。Karin.さんも、そうなんですよね。嘘、という一つの言葉に対する解釈を、たくさんの曲に変えていった。私はKarin.さんの「誰もわるくないね」という曲がとくに好きなんですが、あれも「これは誰の話なのだろう」と聴く人それぞれが想像できるのがいいなと思ったんですよね。あと、歌い方がとてもエモーショナルで、誰も悪くないと言いながら、絶対に悪いと思っている感じが、いい!

Karin.:睨みつけているかのような歌い方ですよね(笑)。

三浦:カッコよくて最高だなと思いました。すごく好きです。

Karin.: あのときは、恋愛とかそういう個人的な想いを曲にするのではなく、社会問題に目を向けていた時期だったんです。そんなとき、海外のニュースで「どうしたら天国に行けますか?」と質問した子どもに対し、教会のえらいひとが「愛があるかどうかだよ」と答えているのを読んだんですよね。全然解決してないし、愛があるかどうかって主観でしかないじゃん、と思って。じゃあ、みんながわかりやすく認めてくれる愛を示せなかった人は、地獄に落ちるの? 世の中には、愛という言葉では定義できないさまざまな感情があるのに……と思ったら、歌詞を書くのも怖くなってしまいました。同時に、一曲を完成させるたびに「私が想いを言葉にできるのはこれで最後かもしれない」という絶望感も襲ってくるようになって。しをんさんはそういうこと、ありますか? この作品を最後に自分の才能は尽きるかもしれない、みたいな不安や恐怖を抱くこと。

三浦:デビューして五年目くらいまでは、「もう書けないかもしれない」っていつも不安だった気がします。自分にはそんなに言いたいことも、書きたいこともないから、今手元にあるものを出し切ってしまったら、もう次はないかもしれない、って。でもね、書けば書くほど、やっぱりここが足りなかった、もっとこうすればよかったかもしれない、というものが生まれてくるんですよ。何年か経って「なるほど、こういう感情もあるのか」と気づかされることもある。そうすると、すでに書いたテーマでも、また違う角度で新しく書こうと思える。生きているからにはなんらかの刺激を受け、その都度何かが生まれるんだとわかってからは、書けないかもしれない、と思うことはなくなりました。それよりも今は、手癖で書いてしまうことのほうが怖い。

Karin.:手癖?

三浦:慣れて、似たようなことを、なんとなく違ったふうに書くことができるようになってしまうんですよね。〆切が迫っているから、この何十枚かはこういう展開にしておこう、そうすればとりあえずは先に進む、みたいな。だけど、それをやると、あとで本にするときに大変なんですよ。結局、こんなんじゃだめだと、書き直すはめになるから。やっぱり、本当に自分の心の底から出たわけじゃないもの、考え尽くされたわけではないものを、世に出すのは申し訳ないじゃないですか。だから、手癖でその場を凌ぐようなずるさを選択して、それを正せない、あるいは気づくこともできない自分になってしまったら、小説家はやめて他の仕事をしようと思っています。

Karin.:なるほど……。私は、基本的に自分の身に起きたことや、過去に抱いた感情をベースに曲をつくることが多いのですが、それは、未来を思い描いて生まれた言葉を、未来の自分が背負うことができなかったら、いやじゃないですか。自分に裏切られた気持ちになるというか。

三浦:そこでもやっぱり、嘘をつきたくないんですね。

Karin.:なんで私はこんなことを言ってしまったの? と思ってしまう。だから過去の自分に声をかけてあげるような感じで、曲を作ることの方が多い。でも確かに……嘘を簡単につけるようになったらそれは、私の歌ではなくなってしまうような気がしますね。そういう自分に向きあうためにも、やっぱり、孤独であることは必要なんだなと思います。あとは、どこか自分がまだ二十一歳になったばかりで、感性が若いということも、価値の一つなんだろうなと思っていて。歳を重ねてこそ言葉に重みが出るものだよと人から言われて、私の言葉に説得力がないということだろうかと落ち込んだこともあるんですが、大人になることで失われるものもあるんじゃないか、それこそ孤独でなくなってしまったら、才能が失われてしまうんじゃないかと思っているところもあるんです。

三浦:確かに若い頃の感性の煌めきは、大人になるにつれて少しずつ薄れていってしまうし、やがては失われるかもしれない。ただ、言語感覚を研ぎ澄ませること、自分や他者の心のありようを深く想像することは、やっぱりある程度の年齢を重ねないとできないことだなと思います。人だけでなく、本や映画、土地や文化、そうしたさまざまなものに触れて感性と思考の精度をあげるには、やっぱり年月をかけた経験が必要ですから。だからといって今のKarin.さんの言葉に説得力がないとはまったく思わないし、大人のほうが優れているとも思わないけれど……。たとえば愛というものを、愛という言葉を使わずいかに表現するかのバリエーションは、確実に、年齢を重ねるごとに増えていくと思います。失うもののかわりに手に入るものもある。だからあまり、恐れる必要はないんじゃないでしょうか。

Karin.:『きみはポラリス』を読んだとき、誰からも教えられたことのない生まれながらに抱いているこの気持ちが愛なんだよと、それは言葉にしなくても伝わることなんだよと教えてもらったような気がしたんです。まだ何も持っていない、まっさらな私自身の気持ちを知ることができたような。私もそういう曲をつくっていきたいなと思います。今日は本当に、ありがとうございました。

三浦:こちらこそありがとうございました。またぜひ、お話しさせてください。

『星屑ドライブ – ep』ジャケット

■リリース情報
2022年6月8日配信
Karin. 『星屑ドライブ – ep』
<収録曲>
1. 星屑ドライブ
2. 嫌いになって
3. 会いに来て
4. 永遠が続くのは

「星屑ドライブ - ep」配信リンク
https://Karin.lnk.to/HoshikuzuDrive-ep

■ライブ情報
『Karin. 2nd tour「空白の居場所」』
□公演日時・会場
・9月23日(金・祝) 愛知・名古屋ell. FITS ALL(OPEN:17:30 START:18:00)
・9月24日(土) 大阪・梅田Shangri-La(OPEN:17:30 START:18:00)
・10月1日(土) 東京・代官山UNIT(OPEN:17:30 START:18:00)
・10月9日(日) 茨城・水戸LIGHT HOUSE(OPEN:16:30 START:17:00)

□チケット代:3,500 円(税込/ドリンク代別)

■番組情報
特番『空白の居場所』
配信日時:2022年6月8日(水)21:00〜
スペースシャワーTV公式YouTube:https://youtu.be/uT-aZFp6M5M
スペースシャワーTV公式LINE LIVE:https://live.line.me/channels/52/upcoming/20035323

■関連リンク
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