近年活発化している、声優のアーティスト活動。歌手デビューから年月を重ね、節目を迎えるアーティストも増えている。本稿では、最近リリースされた男性声優の節目といえる作品を紹介する。

　2012年にセルフプロデュースアルバム『NEW GAME』でソロデビューをした寺島拓篤はアーティストデビュー10周年を記念し、ベストアルバム『LAYERING』を5月11日にリリースした。これまでのソロ楽曲のほとんどを自身で作詞している寺島だが、『転生したらスライムだった件』（2018年）や『ウルトラマンタイガ』（2019年）などの主題歌やOP曲をはじめ、作品の世界観に寄り添う歌詞にも定評がある。それらのタイアップ曲を中心に16曲を収録しているDisc1では、曲順が時系列になっており、ソロ活動の変遷を辿ることができる。「Architect」や「SCARLET SIGN」など、歪んだギターが特徴的なロックチューンが多かった活動初期から、様々な声色の変化を楽しむことができる「0+1」や清々しい明るさのある「sunlight avenue」、クラシックギターの音色や時折漂うフュージョンの雰囲気が楽曲の疾走感とマッチする「Nameless Story」、ラップを取り入れた「Buddy, steady, go!」など、Disc1では寺島が幅広い音楽性にチャレンジする様子を追うことができる。

　また、「Architect」の作曲者である工藤嶺と、「overture」「interlude」の作曲者である青木繁男とのコライトで制作された本作の書き下ろし楽曲「GRATEFUL LAYERS」は、2つの曲で構成されていると感じるほど前半と後半で曲調が異なる、大胆な楽曲だ。前半はシンセサイザーの音色とエフェクティブな声色がクールなダンスミュージック、後半は疾走感のあるバンドサウンドに乗せて前向きな気持ちを歌う。〈3,2,1 Start ”NEW GAME”.〉という歌い出しから始まるこの楽曲の歌詞には、これまでリリースされたアルバムとシングル名が含まれており、まさに10年の節目にふさわしいメモリアルな歌詞だ。〈It's 『GRATEFUL LAYERS』〉という詞で締めくくられる歌詞は、文字で見ても壮観である。

　Disc2には、寺島がセレクトした全10曲が収録されている。1枚目よりも幅広い曲調の選曲で、10年の歴史を順に追ったDisc1とは異なる方法で寺島のアーティスト活動の道のりを振り返る内容になっている。この10周年を総括するアルバムを完成させたのちに、寺島がどのような作品をリリースしていくのかが楽しみだ。

　同じく10周年記念作を制作したのは岡本信彦。CDデビュー10周年を祝し、2ndフルアルバム『十bilation』を5月25日にリリースした。これまでのミニアルバムでもコンセプト重視の作品を出すことが多かった岡本だが、今作はジャケット写真からも見て取れるように、どこかダークで妖しげな雰囲気の漂う曲調や声色が魅力の一作となった。

　1曲目、luzが手がけた「愛憎カタルシス」のイントロから、本作全体に漂う雰囲気は如実に表れている。荘厳な幕開けを予感させるメロディに続くオルゴールの音色、そして低音が迫力を醸す長尺のイントロがアルバムの幕開けを飾る。「Psy know」では、音程の低いサビが雄々しく、岡本のクールでありながらどこか甘さのある魅力的な歌声を際立たせている。アルバムを締めくくる、自身が作詞を手がけた「思い出ミュージアム」は一転、どこか柔らかく穏やかだ。〈ただただ伝えたいありがとう　ここまで来られたよありがとう〉と感謝を伝える、ストレートで温かい楽曲になっている。

　“交わりを大事に”というテーマが込められたタイトルだという今作には（※1）、ボカロカバー楽曲も収録。ボーカロイドシーンとの交わりを表現した。Aメロの低音が凄みを感じるキー設定の「KING」では2コーラス目に差し掛かるにつれ、自由な表現で楽曲の持つ狂気を表現。「ロミオとシンデレラ」は本来女性視点の歌詞だが、今回は“ロミオver.”として岡本本人が男性視点の歌詞を書き下ろし、単なるカバーに留まらないクリエイティブを発揮している。声優として、そしてアーティストとしての活動が楽しみなのはもちろん、その表現力とクリエイティブ力を生かして活動の幅を広げていく手腕にも期待できる。