キタニタツヤが語る、ポップスへの意識がもたらす変化 二面性を捉えることで広がった音楽表現

アルバム曲だからこそトライできた音像

ーーアルバム曲と言えば「夜警」も独特の一曲ですよね。

キタニ:「夜警」は「聖者の行進」と対になる曲です。「聖者の行進」は、人々が集まってそれがうねりを生み出してムーブメントや、何か喜ばしいものになっていくという状況を想像して作った曲で。つまり、人の群れを肯定的に捉えた曲ですね。逆に「夜警」は人間の群れのネガティブな一面、群れているのに答えがなくてただ集まっているだけとか、都市の冷たさみたいなものを歌ってます。

聖者の行進 / キタニタツヤ – When The Weak Go Marching In / Tatsuya Kitani

ーー全体的に虚無感に覆われたような乾いたサウンドが印象的です。

キタニ:ニューウェーブとかUSインディロックの“下手ウマ”な感じの演奏が好きなんですけど、自分ではそういう音楽を作る機会があまりないなと思っていて。でもいつかやりたいと思ってたところで、今回はアルバム曲だからいいやと思って収録してみました。自己満度100%の曲ですね。

ーーちなみにギターって何本重ねてます?

キタニ:めっちゃ重ねてますね。同時に鳴ってるのはたぶん4〜5本が最高だと思うんですけど、音色の種類がたくさんあって。実際に弾いてるのもあるし、ギターの音を出すシンセとかも混ぜたり、弾けなさそうなフレーズは打ち込みのギターで弾かせたりしています。本当だったらそのフレーズも弾いた方がいいんだろうけど、ある意味でのいい加減さも良いなと思っていたので。打ち込みには打ち込みの良さがあるなと。

ーー音が何層にも重なってるのに、印象としては退廃的で、ディストピア感があるという。

キタニ:変な曲ですよね。こんなにサビらしいサビがない曲を作ったのは初めてかもしれないです。AメロとBメロだけ。歌もあえてしっかりと歌ってないんです。なるべく感情を込めずに、なんとなく「(疲れた感じで)は〜」みたいな。しっかり腹から声を出さずに、いい加減に歌うことを心掛けて歌いました。

ーーそんな曲を経つつ、このアルバムは終盤で救われるような感覚になります。こういった構成になった理由は?

キタニ:「よろこびのうた」はもともとショート尺でリリースしてた曲で、当時はアルバムのことはまだ考えてなかったんです。自分の中にあるメンタルのアップダウンを扱った曲で、たまたま作ってあった作品だったんですけど、それがアルバムの代名詞的な一曲として示唆的なものになるなと思って。それで、アルバムのコンセプトを説明する「振り子の上で」を1曲目に置いて、それと対になる「よろこびのうた」を最後にして、この2曲がループ再生で繋がるように、「よろこびのうた」の終わり方と「振り子の上で」の始まり方を調節しました。アルバムの頭とお尻はコンセプトを優先して配置しましたので、1曲目と10曲目がこうなることは、僕にとって必然だったんです。

J-POPのフィールドでこそ試したい自分の音楽性

ーーなるほど。ところで、いただいた資料のプロフィール欄にある「ジャンルを越境し暗躍するJ-POPのダークヒーロー」という紹介文が面白いなと思いました。

キタニ:インタビューか何かで僕がちらっと言ったんです。「J-POPのダークヒーローになりたいです」って(笑)。レコード会社の担当者が気に入って使ってるんだと思います。

ーーダークヒーローというのは?

キタニ:サカナクションの山口一郎さんが「マジョリティのなかのマイノリティを獲得しろ」みたいなことをいつも言っているんですけど、意味としてはそれに近くて。ポップの枠組みには入っていても、その中の王道ではない、王道に喧嘩を売るようなカウンター的な存在でありたいと思っています。

ーーそれは音楽活動を始めた頃からそうでしたか?

キタニ:自分自身が今まであまりポップスを通ってきていなくて、ちょっと捻くれてたり、ちょっと暗かったりするロックが好きだったんです。そういう僕みたいな人間が無理矢理に王道を目指そうとしても、たぶん無理が生じる。僕の良さが出ないんじゃないかな。

ーーとはいえ、ジャニーズWESTに提供した「セラヴィ」は、今年のジャニーズ楽曲の中でも屈指の名曲だと思ってますよ。

キタニ:ありがとうございます。でも「セラヴィ」に関しては、サウンドの力もあるんじゃないでしょうか。作詞作曲は担当しましたけど、「冷たい渦」を編曲していただいたNobuaki Tanakaさんにアレンジは丸投げだったので。

ーー自分で作ったものと最終的な完成品とでは印象が変わりましたか?

キタニ:全然聴こえ方が違いますね。僕の仮歌だと王道な感じがしない。ジャニーズWESTの7人が歌うと一気に王道になるんです。一聴するだけで「ああこれこれ!」となる。彼らが歌うだけで説得力が生まれるというか。僕が歌ったらメインストリームっぽくならないんです。

ーー私立恵比寿中学に提供した「宇宙は砂時計」もそうでしたか?

キタニ:エビ中の場合は本当に「好きに作ってもらっていいですよ」って感じだったんです。ほとんど注文もなくて、友達の笹川真生と一緒に面白い曲を作って遊ぼうっていう意識で。そういう意味では、エビ中というアイドル性が担保されてる世界で、自分の音楽性を試せるっていう貴重な機会になりました。曲の純粋な強度や普遍性を確かめるためにエビ中の皆さんに歌ってもらえた感じです。

ーー最初の話にも繋がってきますね。人に聴いてもらえるものを作ろうという。

キタニ:そうですね。しかもこれからもそれはずっと意識し続けると思います。前よりは上手にできるようになったし、伝え方も分かってきたけど、J-POPのダークヒーローになるために、不十分なところはたくさんあると思ってます。まだ自分はJ-POPにすら行き切れてないと思うので、もっと頑張っていきたいですね。

■アルバム情報
キタニタツヤ『BIPOLAR』
2022年5月25日(水)発売
配信はこちら
【初回生産限定盤(CD+BD/アナログJK仕様)】¥5,100+tax
【通常盤(CD only/初回仕様封入グッズ先行販売アクセスチケット)】¥2,600+tax

<収録曲>
・CD
1. 振り子の上で
2. PINK
3. 冷たい渦
4. タナトフォビア
5. 聖者の行進
6. 夜警
7. Rapport
8. プラネテス
9. ちはる
10. よろこびのうた
<BD>
『Studio Live “煽動” 2020.08.26』
・ハイドアンドシーク
・パノプティコン
・デッドウェイト
・人間みたいね
・悪夢
・デマゴーグ
・泥中の蓮
『Live Remix Movie from One Man Tour "聖者の行進" Final at USEN STUDIO COAST 2021.11.22』
・Cinnamon
・白無垢
・記憶の水槽
・人間みたいね(Acoustic set)
・Sad Girl(Acoustic set)
・夜がこわれる
・I DO NOT LOVE YOU.
・Rapport
・君のつづき
・聖者の行進

Official HP

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