aiko、『関ジャム』特集で浮かび上がったアーティスト像の核心 広がり続けるクリエイティビティを振り返るきっかけに

aiko、『関ジャム』特集を観て

 テレビ朝日系列で毎週日曜23時から放送中の音楽バラエティ番組、『関ジャム 完全燃SHOW』。アーティストから現在のトレンド、日本のポップス史までさまざまなトピックスを扱ってきたこの番組が満を持してaikoを特集。長屋晴子(緑黄色社会)、石原慎也(Saucy Dog)、オーイシマサヨシをスタジオゲストに、さらに選曲とコメントで宮崎朝子(SHISHAMO)、藤原聡(Official髭男dism)、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)が参加し、ファンとして、また同じアーティストとしてaikoの魅力を語った。

 1998年のデビュー以来、20年以上にわたって幅広い支持を集めてきたaiko。身近な主題でリスナーの生活や人生に寄り添いつつ、ときに意表を突くような言葉選びで驚かせ、音楽的にもユニークな和声感覚やメロディの構成、そしてボーカルの表現力で唸らせる。「歌詞」や「思い出」、「メロディ」、そして「歌唱」という4つのパートにわけて楽曲をピックアップした今回の特集は、そんなaiko像を提示していた。

 歌詞の観点から「深海冷蔵庫」(7thアルバム『彼女』2006年)を選曲した長屋は、この曲をきっかけに「冷蔵庫」という単語のイメージが変わったと語る。いわく、深夜に満たされない気持ちへ寄り添う「いままで私たちが知っていた昼間のポップな冷蔵庫じゃない冷蔵庫」像を描いている、という。あるいは石原はaikoが多用する「あたし」という一人称(番組によれば、これまでのシングル表題曲47曲中42曲で「あたし」が使われているとか)に影響されて、Saucy Dogの楽曲「シンデレラボーイ」でも「あたし」を意識的に使ったそうだ。いずれも、いかにaikoの楽曲が影響を与えているかを感じさせる、さりげなくも興味深いエピソードだ。

 一方、「アンドロメダ」(2003年)に題材をとった歌詞の視点操作の解説や、「カブトムシ」(1999年)に登場するスケール外の(ノンダイアトニック)コード、aikoの楽曲に頻出するブルーノートづかいなど、どちらかというとテクニカルな解説の比重が高かったオーイシも、それ以外のところでは熱心なファンらしい暑苦しいまでの語りが印象的だった。

 興味深かったのは、6人の選者から選ばれた楽曲の年代だ。「19選」と銘打たれていたものの、実際にその枠で紹介されていたのは18曲という謎は残る(かなりの尺をとって紹介していた「キラキラ」もカウントすれば19曲ではある)。が、ひとまず該当の18曲の発表年を確認してみると、デビューから2000年代前半まで(1998~2004年)の楽曲が8曲選ばれているのとならんで、2020~2022年までの直近の楽曲も5曲となかなかの数選ばれている。

 「カブトムシ」、「花火」(1999年)、「ボーイフレンド」(2000年)といった「これは外せない!」という初期のヒット曲が外せないのは当然としても、近年の楽曲が集中的にピックアップされているのはおもしろい。長屋やオーイシはaikoの時代や世代を越えたリアルを捉える表現を称賛していたけれども、ある種その現れにも思える。あるいは、「ねがう夜」を評して藤原が語ったように、長くキャリアを経ても広がり続けるクリエイティビティへの敬意の現れかもしれない。

 ところで、時間の限られたなかでシンガーソングライターとしてのaikoにフォーカスをあてる番組の都合上いたしかたないとはいえ、その作品をかたちにする良き伴走者としてのアレンジャーについてももう少し言及があってもよかったのに、と思う。初期から長くアレンジに携わってきた島田昌典や、2010年代から仕事をともにしているOSTER projectに加え、近年はトオミヨウとも新たにタッグを組んでいる(シングルで言うと「青空」以降、最新シングル「ねがう夜」にも参加)。そんなところからも、ソングライティングや歌唱のみならずサウンド・アレンジ面でも変化してきていることが裏付けられるし、インタビューを読んでみると、単にアレンジしてもらうだけではなく、アレンジから新たなインスピレーションを受けていくaikoの姿も浮かび上がってくる(※1)。

 いずれにせよ、7月にはデビュー24周年を迎えるaikoの変わることのない芯と、さりげなく変化を続けるクリエイティビティを振り返るきっかけのひとつとして、今回の特集は有意義だったのではないだろうか。

※1:https://www.musicvoice.jp/news/225479/

■見逃し配信
『関ジャム 完全燃SHOW』
5月15日(日)放送回
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