大原櫻子、新曲「それだけでいい」に込めたファンへの“ありがとう”の気持ち 言葉としての表現で伝える意味
大原櫻子のニューシングル『それだけでいい』が5月11日にリリースされた。この春に開催された全国ツアー『 Premium Concert 2022「For You〜あなたが作る櫻子Live〜」』でも披露された表題曲は、彼女自身が作詞を手がけたミディアムバラード。〈僕が僕を信じられるのは/君がそばにいるから 今〉というフレーズがゆったりと伝わる、優しさ、愛しさ、切なさがたっぷり込められた楽曲だ。
今年7月からは舞台『ザ・ウェルキン』に出演。俳優、アーティストの両軸によって表現の幅を広げ続ける彼女に、シングル『それだけでいい』について語ってもらった。(森朋之)
大切な人の背中を押せるような曲にしたかった
ーーまずは3月から4月にかけて行われた全国ツアーについて聞かせてください。今回はファンのみなさんのリクエストをもとにセットリストを決めたそうですね。
大原櫻子(以下、大原):そうなんです。こういうご時世になってから、ライブやイベント自体がなかなかできなくなって、ファンのみなさんと触れ合う機会も減ってしまいましたけど、お客さんが何を求めているのかを感じた上で発信したいという気持ちもあって、リクエストを募ったところもあったんですよ。
ーーリクエストの結果についてはどう感じていますか?
大原:「Grape」が1位だったのはかなり意外でしたね。1位はデビュー曲(「サンキュー。」/2014年)なのかなって予想してたんですよ、実は。「Grape」はシングル曲ではなくて、アルバム(4thアルバム『Passion』/2020年)の楽曲だし、まさか1位だとは思っていなかったので。高橋久美子さん作詞の曲なんですけど、私自身も大好きな曲なので嬉しかったです。
ーー今回のツアーは、ピアニストの扇谷研人さん、バイオリニストのAyasaさんを交えた3人編成でしたね。
大原:以前もこの3人でツアーを回ったことがあったんですけど(2020年に開催された『Premium Concert「I am not I」』)、そのときはカバー曲、ミュージカルの楽曲が中心だったんです。今回は自分のオリジナル曲でのツアーだったし、懐かしい楽曲もお届けできたのはよかったのかなと。とにかく、みんなが健康で最後までツアーをやり切ることが目標だったので、それが叶えられたのは嬉しかったです。ステージの上ではかなり緊張してましたけどね(笑)。初日はわかりやすく手が震えてしまって、両手でマイクを持たないとブルブルしちゃってました。
ーーそうだったんですね。歌が際立つ編成だし、プレッシャーが大きかったのかもしれません。
大原:音数が少ない分、歌が繊細に聴こえますからね。お二人はすごく安定しているので、私がどう対応するか? ということになりますけど、いい緊張感のなかで歌えました。
ーーでは、ニューシングル『それだけでいい』について伺います。表題曲はツアーのアンコールでも披露されていましたが、制作はいつ頃だったんですか?
大原:今年の1月の後半ですね。舞台(『ミネオラ・ツインズ』)の最中に、プロデューサーの小名川高弘さんとやり取りしながら、「この時代に歌う意味をしっかり考えて作りたい」という話をさせてもらって。一番強いのはやっぱり、ファンのみなさんへの思いですね。ライブのMCでも、「(「それだけでいい」の)歌詞にある〈僕〉は私で、〈君〉はみなさんのことです」と言ってたんですけど、私が何を思ってこの曲を作ったのか、どんなことを伝えたいのかをみなさんに知ってほしかったんですよ。
ーー曲のテーマ、方向性をしっかり見定めてから制作に入ったと。
大原:そうですね。小名川さんと話していたのは、「夢に向かって頑張っている人って、素敵だよね」ということで、そういう人たちに“ありがとう”の気持ちを伝えたいというテーマもありました。あと、大切な人の背中を押せるような曲にしたくて。結果的にラブソングの要素が多くなったんですけど、決して恋人同士だけのことを歌っているわけではなくて、リスナーのみなさんがそれぞれ大事な人を思い浮かべてもらえたらなって思います。
ーーなるほど。特に〈愛してるの言葉だけが/伝えられることがある/僕が僕を信じられるのは/君がそばにいるから 今〉という歌詞は印象的でした。
大原:嬉しいです。自分の実生活でも、女の子の友達とよく言葉のやり取りをしてるんですよ。高校時代からの親友なんですけど、“親しき仲にも礼儀あり”じゃないけど、遊んだ後も「ありがとう。楽しかった」ってちゃんとメッセージを送り合ったりしています。それだけじゃなくて、仕事が大変なときに「大丈夫だよ。自分を信じて頑張って」と言ってくれたことがあったんですけど、そういう言葉をもらえると「頑張ろう」って素直に思えるし、すごく励みになるんですよね。本当に自分のことを思ってくれているんだなって……この曲の歌詞を書いてるときも、そのことをふと思い出したりしてました。
ーー高校時代からの友達だと、そろそろ10年近い付き合いですね。
大原:あ、そうですね。今はお互いに仕事をしているし、頻繁に会ってるわけじゃないんですよ。数カ月に1回会えればいい方なんですけど、何でも話せるし、ヒントになるような言葉をもらえて。彼女とも「不思議な関係だよね」って話します。
ーーファンのみなさんとの関係も、時期によって変化しているんですか?
大原:そうだと思います。最初の頃は「サクちゃん大好き!」みたいな感じで接してくれてたんですけど、どんどん身近になってるというか、私が望んでいることを自然と汲み取ってくれるんですよ。例えばライブの後も、以前は出待ちの方がたくさんいて、声をかけてくれてたんです。それも嬉しかったんですけど、最近は「ライブの後で疲れてるだろうから」って、そっとしておいてくれるんですよ(笑)。さらに親しさが増しているというか、お互いにちょっと大人になっているのかもしれないですね。
ーー「それだけでいい」もそうですが、楽曲を通してしっかりコミュニケーションが取れているのも素敵ですよね。
大原:しっかり聴いてくれてるんだっていうことも実感していますね。新しい曲をリリースするたびに「このフレーズが好き」と言ってくれるし、私の誕生日にファンの方が作ってくれる動画にも、歌詞の一節を字幕で載せてくれてたりするんですよ。それを観ると、やっぱり言葉が大事なんだなって。「それだけでいい」も、小名川さんと「しっかり言葉が聴こえる曲にしよう」と話してたんですよ。〈伝えきれないことがある〉〈届かないことがある〉という歌詞があるのですが、「どっちを先に持ってくる?」ということだったり。それだけで言葉が入ってくる感覚も変わってくるし、かなり綿密にやっていました。