人格ラヂオ、ゼロ年代ヴィジュアル系シーンで放った異質な存在感 10年ぶりライブで楽曲の魅力を再確認

 2022年4月6日、人格ラヂオが約10年ぶりのライブ『ムゥディ・ラヂオ・シアタァ 2022』を開催した。この公演は無観客配信だったが、何年経っても色褪せない彼らの楽曲の魅力を再確認するきっかけとなる、有意義なライブだった。

 人格ラヂオは、ゼロ年代のヴィジュアル系シーンの中で異質な存在感を放っていたバンドである。2001年結成後、音源のリリースや派手な宣伝をほとんど行わずライブやクチコミで人気を集め、2003年にようやくリリースした待望の“ファーストベストアルバム”『証拠』は、インディーズでありながら1万枚を超えるセールスを記録した。メンバーはボーカル&ギターの悠希、ベースの那オキの2人編成で、ライブは“半ラヂオ”と呼ばれる固定のサポートメンバーと共に行っていた。結成時から常時サポートメンバーを入れてライブを行うバンドは少なく、メンバーが2人だけというバンドはほぼ居なかったと記憶している。

 彼らの音楽は、2人きりというメンバー構成がフィットする閉塞的な雰囲気の歌モノが多い。代表作の『証拠』収録曲は『ねじまき鳥クロニクル』(村上春樹 著)などから影響を受けた文学的な歌詞が特徴で、憂いを帯びたメロディと悠希のハイトーンボイスは聴く者を没入させる力がある。ヴィジュアル系バンドのライブでは、ヘッドバンギングを始めとするシーン特有のノリで楽しむことを重視する観客が多いため、ノリが生まれにくい歌モノのバンドはその点において不利な傾向がある。それでも彼らは楽曲の魅力で存在感を発揮し、2007年にはC.C.Lemonホール(現・LINE CUBE SHIBUYA)でのワンマンライブを成功させた。

 当時、ネオ・ヴィジュアル系と呼ばれる煌びやかなバンドが、書店に並ぶ雑誌『FOOL'S MATE』や『SHOXX』の表紙をカラフルに彩る中、黒いスーツに身を包んだ人格ラヂオは、ヴィジュアル系CD専門店や通販サイトで取り扱われる雑誌『アプレゲール』や『hevn』の表紙を飾っていた。シーンの中心ではなく少し離れた自分たちの場所で、楽曲の良さに惹かれてついてくる堅実なファンを多く抱えながらマイペースに活動するバンド。そんな印象が人格ラヂオにはあった。

 それでも彼らが“知る人ぞ知るバンド”に留まらずシーン全体で広く認知されたのは、メディアを通した活動の影響が大きい。2000年代前半はブロガーブームもあり、サイバーエージェント運営の「アメーバブログ(通称アメブロ)」で公式ブログを始める芸能人が続々と現れた。その流れはヴィジュアル系シーンにも波及し、「アメブロ」でライブの感想を綴るバンドマンや、ブログ訪問の足あと機能「ペタ」(現在は廃止)などを使ってファンと交流するバンドマンも多かった。その中で、当時最も注目を集めていたのが悠希のブログである。写真と短文で構成された記事が一日に何度も更新される悠希のブログは、今でいうTwitterのつぶやきにも近く、家族との日常やファンとの交流の様子を、毒舌や下ネタを混ぜ込んだ文体で赤裸々に綴っていた。そのヴィジュアル系バンドマンらしからぬ文章が人々の興味をひいたのか、一日のアクセス数が100万回を超えることもあったという。また、2010年にはとちぎテレビで『人格ラヂオの咲け~バンギャル!!』と題した冠番組の放送が始まる。ゴールデンボンバーやGargoyle、PENICILLIN、己龍など、様々なヴィジュアル系バンドをゲストに迎えてトークを繰り広げた。

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