TRICERATOPS、時代に鋭く切り込む“考えるロック” 25周年の先へと可能性を広げる『Unite/Divide』徹底解説

 TRICERATOPSの通算12枚目となるニューアルバム『Unite/Divide』は“踊れるロック”にして、“考えるロック”と表現したくなる問題作だ。オリジナルアルバムとしては7年4カ月ぶりで、デビュー25周年の区切りの作品でもある。しかしバンドの集大成というよりも、今という時代に鋭く切り込んだスリリングな作品となった。作詞作曲を担当している和田唱(Vo/Gt)の言葉も交えて、この新作を解説していこう(以下の発言はリリースに伴って筆者が行った取材より、和田の発言を抜粋したものである)。

空白期間にも止まることはなかった“バンド”としての歩み

 7年4カ月はかなり長い期間だ。その間にニューカマーが数多く登場し、音楽配信が全盛となり、音楽の聴き方も大きく変わってきた。コロナ禍によって社会の仕組みも大きくシフトしつつある。この間に彼らが新作を出さなかったのは、バンドが立ち止まる必要があったからだろう。TRICERATOPSが活動する条件として和田が挙げていたのは、「メンバー全員が一丸となって同じ熱量をぶつけ合うこと」だ。この条件を満たしていないと感じた彼は、バンド活動の休止を決意している。

 当初、和田はバンド休止中には楽曲提供など裏方の仕事に徹するつもりだったという。しかし休止が決まった途端、ソロ曲があふれてきて、2枚のソロアルバムを制作してソロツアーを行った経緯がある。林幸治(Ba)は菅原龍平とのユニット、Northern Boysで2枚のEPを制作。さらにUniollaでの活動なども展開している。吉田佳史(Dr)はソロアルバムを発表。さらに矢沢永吉、吉井和哉など、日本を代表するミュージシャンのツアーメンバーとして参加している。個々の活動がバンドを活性化させる役割を果たしていたのは間違いないだろう。バンド活動は休止していても、“バンド”は停止してはいなかったのだ。

 この7年4カ月の期間、彼らは断続的にTRICERATOPSのライブを行っている。いつでも再始動できる準備を整えていたのだ。コロナ禍という困難な時代の中で和田は数多くの矛盾を感じ、怒りや疑問を抱いたという。「幸いなことに自分はミュージシャンなのだから、怒りや疑問をロックバンドとして表現できるじゃないかと考えました」と彼は言う。和田のソングライターとしてのモチベーションの高まりとTRICERATOPSの再始動の時期とが合致して誕生したのが『Unite/Divide』である。

 もともとロックミュージックとは“怒り”という初期衝動を原動力として発展してきた音楽だ。ただし、『Unite/Divide』で怒りをぶつけるような音楽を展開していないところにTRICERATOPSというバンドの独自性がある。「楽しい音楽を作りたい」という意志が根底にあり、怒りや問題提起をポップでカラフルなエンターテインメントへと昇華しているのだ。どんなに強い怒りも音楽で表現することによって、楽しみに変わる。特にバンドの場合は一緒に音を奏でることで、その楽しみが共有・増幅されていく。

 アルバムタイトルの『Unite/Divide』を日本語に直訳すると、“統合/分断”となる。ひとつになるのか、別々の道を歩むのか。国家、組織、チーム、バンド、夫婦、カップルなど、さまざまな形態に当てはまる普遍的なテーマといえそうだ。アルバムタイトルについて、和田はこう説明する。「『Unite? Divide?』も候補にあったんですが、二択を迫るよりも、好きに受け取ってほしかったので、このタイトルにしました」とのこと。『Unite/Divide』とふたつの語句を並列しているところがポイントだろう。結論を示すのではなく、問い続ける姿勢を持ち続けることこそが自立したロックな姿勢だからだ。

 新作での大きな聴きどころはバンドのアンサンブルである。25周年を迎えて彼らはさらに進化している。音数を増やすのではなく、音の隙間を作りながら、広がりや深みのある世界を形成。バンドサウンドを支えているのは気鋭のエンジニア兼重哲哉だ。「兼重くんはプロデューサー的な感覚も持っていて、さまざまなアイデアを出してくれました」とのこと。バンドサウンドで重要なのはアンサンブルとグルーヴ、そして音色である。音色や音の響き方に関して、兼重の存在が大きかったのは間違いないだろう。進化したバンドサウンドを際立たせているのはマスタリングエンジニアのエリック・ブーランジェ。彼はエリック・クラプトン、ニール・ヤング、セレーナ・ゴメス、Weezer、Green Day、ルーファス・ウェインライトなどの作品を手掛けている名匠だ。TRICERATOPSのニュアンス豊かな歌と演奏を立体的に音源化している。

 和田によれば、『Unite/Divide』の制作工程は以下のような流れで進行した。まず和田がアコギと歌だけの簡単なデモテープを制作。その後、林と吉田にデータの形で送付。林はデモに合わせてベースを弾き、吉田はドラムのパターンを打ち込み、和田にフィードバック。やり取りを繰り返してブラッシュアップし、和田の家の一室に集まり、3人でアレンジを詰め、デモ完成後にスタジオでレコーディング作業。つまり制作過程に3人が長時間関わって制作している。アレンジにあたって和田が掲げた方針は「歪でもいいから、変わっているもの、ありきたりではないもの」。このストレンジなセンスが最新作に独特の輝きと鋭さと深さをもたらしている。

関連記事