TRICERATOPS、時代に鋭く切り込む“考えるロック” 25周年の先へと可能性を広げる『Unite/Divide』徹底解説

TRICERATOPS『Unite/Divide』徹底解説

『Unite/Divide』全曲解説 〜“分裂”を音に託す意味〜

 『Unite/Divide』の収録曲は12曲。オーバーチュアとフィナーレが10曲をはさむ構成だ。音楽配信全盛で曲が単体で聴かれる時代に、彼らはアルバムとしての完成度の高さも追求している。「色を重ねて絵画を描くように、アルバムを作るのが好きなんです」と和田は語る。自分が満足できる作品、そしてアルバムを待っている人たちに喜んでもらえる作品を丁寧に作ることを心がけたという。ここからは個々の曲についても解説しよう。

 M1「Unite/Divide」はアルバムタイトル曲であり、オーバーチュア的なナンバーだ。「今回の作品には一貫したトーンがあると感じたので、ミュージカルの冒頭みたいなインスト曲があるとシャレているなとひらめきました」と和田は説明している。M2「マトリクスガール」のドラム音源をループさせ、ダークかつクールな質感を醸し出している。オーバーチュアがあることで、アルバムとしての構成が際立つ効果もある。

 M2「マトリクスガール」は早い段階からライブでも披露されてきた曲。メッセージ性を内包しながらも、印象的なリフやコーラスとポップでキャッチーなサビを備えた、音楽の楽しさが詰まった曲だ。「仮想現実を女の子に例えてSFラブソングとして表現することで、仮想現実から目覚めてリアルな現実を生きようというメッセージを込めました」とのこと。ハイパーなポップ感と開放感とスウィートさがミックスしたテイストはTRICERATOPSの真骨頂。

マトリクスガール_MV TRICERATOPS

 M3「CLUB ZOO」はトランペットとサックスが効果的に使われていて、ジャズのテイストが加わっている。「自由に解釈してもらっていいのですが、テーマは依存」と和田。トランペットとサックスのフレーズはコントロールルームから和田が口で音色を表現してディレクション。「そこはフリージャズでお願いしますとか、無茶振りしましたが、見事なプレイをしてくれました」とのこと。ホーンが入ることでZOO感も増している。

 M4「仮面の国」はアルバムのメッセージ性を代表する、和田の抱いた疑問や怒りをエンターテインメントに昇華した楽曲である。ストーリー性のある歌の世界をバンドがニュアンス豊かに表現している。歌詞は鋭く深く、〈君の笑顔見せてよ〉という言葉がダイレクトに響いてくる。「仮面というモチーフをファンタジックにユーモアも入れて描きました」とのこと。コーラスも効果的だ。ソロ活動を経たことでコーラスワークもさらに進化している。

 M5「いっそ分裂」はアルバムタイトル曲とも言えるナンバーだ。〈かつて「We Are One」って歌った〉〈信念が崩れかけているんです〉という一節がある。TRICERATOPSは2010年発表のアルバム『WE ARE ONE』のタイトル曲「WE ARE ONE」で〈僕ら繋がってんだ〉と歌っていた。その彼らが2022年の今、〈いっそ分裂〉と歌うのは衝撃的だ。「これまでは違いがあっても同じ人間なんだから仲良くしようと歌ってきました。でもこの2年間で、理解し合えない人たちと無理矢理わかり合う努力をするよりも、わかり合える人たちと小さなコミュニティを作って楽しくやった方が幸せなんじゃないかというモードに入ってしまいました」と和田は語っている。だが、“ひとつになれるはず”という思いがなくなったわけではない。揺れる思いを歌に託し、The Policeにも通じるニューウェイブテイストが漂うサウンドに乗せている。

 “分裂”というフレーズからバンドの解散を心配する人もいるかもしれない。もちろんバンドの未来は誰にもわからない。確実に言えるのは現時点で彼らが充実した状態にあることだ。「僕の家にみんなで集まって、デモテープを作ったのは楽しい思い出」と和田も語っていた。デモ作りの作業がひと区切りつくと、そのままみんなで食事をし、ワインを飲むのが習慣化し、制作期間中にかなりワインを空けたという。空き瓶の本数はバンドの絆の深さの証だろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる