My Hair is Bad、20代を凝縮した最初の集大成 変化を取り入れた先で再び王道に向き合った理由

「いろいろな交流でベースの解釈がすごく広がった」(山本)

ーーそして今回のアルバムに至るということですね。そう考えると、“コロナ禍でライブ活動が止まってしまったことをきっかけに改めてバンド活動を振り返る”ということと、“20代最後にバンド自身を顧みる”ということが偶然重なったタイミングが、皆さんにとっての今だったのかもしれません。

椎木:確かに。言われてみればそうですね。もしも年間100本ライブをやる生活を今も続けていたらこんな作品を作れなかったかもしれないし、コロナ禍があったから20代を見つめ直して、「今残さないと」「残さないと残らないんだな」という気持ちになったのかなと今言われて思いました。

ーー全国をずっと旅するような生活をしている時は、活動を振り返る機会はなかったですか?

椎木:振り返る暇がないくらい、毎日ライブやレコーディングがあったよね?

山田:そうね。

椎木:「目の前のことを」という感じでやってきたし、レコーディングの日も決まっているから、ああだこうだ言いながら「そろそろ曲を作り出さないと」みたいな感じでした。だけど東京に出てきて、コロナ禍になって、外に出ちゃいけない状況のおかげで、バンドに向き合って作れた感じはあったかもしれないです。アルバムを出す時期が決まったら、「じゃあいつまでに何曲録って、どんな色の曲が必要で……」と考え始めるのはもはや癖になっているので、今回も最初はそんな感じでしたけど、制作に入ったら結局1曲1曲に対して真剣になっていて。「アルバムどうなるかな?」というよりは、1曲1曲に向き合えたのは時間があったおかげだと思います。

山本:コロナ禍になってから時間ができたことや、東京に出てきてからいろいろな人と触れ合えたことは、やっぱり大きかったですね。僕個人に関して話すと、ベースの解釈がすごく広がったんですよ。今まで聴いてこなかった音楽を聴くようになったし、ライブのPAさんとスタジオに入ったり、椎木がデモの段階で入れているベースのフレーズを聴いたりするなかで、「ああ、なるほどな」と思うことも多くて。今まではわりとギターっぽいフレーズを弾くことが多かったんですけど、ベースはリズムも作れる楽器だということが『love』『life』あたりから分かってきて、それがあったから今がある、という感じですね。

ーー20代最後の山本さんのベースはそのようなものだったと。

山本:そういうことですね。僕は作っている最中に「20代最後だから」と強く意識していたわけではないんですけど、例えば21~22歳の頃だったら、フレージングも音もこういうふうにはできなかったでしょうし。全部でき上がってから聴いた時に「20代、一生懸命バンドやってきてよかったな」と思えました。

My Hair is Bad – カモフラージュ

ーー山田さんは20代最後のご自身のプレイ、どう捉えていますか?

山田:俺も「20代のうちにこのアルバムを作れてよかった」と思っているんですけど、29歳ってほぼ30代なので、このアルバムは“20代であって20代でない”みたいな感覚があるんですよ。

椎木:言いたいことは分かる。20代の間やってきたことを、30代の自分がやっているような感じだよね。

山田:そうそう。集大成という言葉が正しいのかは分からないんですけど、20代の経験を全部詰め込むことはできたんじゃないかと思っています。

ーーそんなアルバムが「カモフラージュ」「サマー・イン・サマー」「歓声をさがして」とアッパーチューン3曲で勢いよく始まるのは象徴的ですよね。青春感あるオープニングですが、“今”を刹那的なものとして捉えるのではなく、“今があるから未来がある”というような描き方をしているのも印象的でした。

椎木:そう思えるようになったのも、自分が歳をとったからでしょうね。コロナ禍の外出自粛期間中にインディーズ時代の作品や20代半ばの頃の作品を聴いた時、「この時の自分たちが頑張ってくれたおかげで今の自分たちがあるんだな」と感じられたんですよ。過去の自分たちのおかげで「実は全部が自分のためになるんだよ」と思えたし、逆に言うと、今の自分たちが頑張らないと、未来の自分たちがしんどい思いをするんじゃないかという気持ちもあって。未来の自分たちを喜ばせたいという気持ちは、「サマー・イン・サマー」の歌詞にまさに表れていると思いますね。

「自分が生きやすくなる言葉を取り入れることができた」(椎木)

ーー今作含め、ここ最近のリリースやライブを踏まえると、最近のMy Hair is Badのキーワードは「優しさ」でしたよね。

椎木:確かにここ4年間くらいは「優しくなりたい」と常に思いながら過ごしているし、だからライブでもそういうワードが増えてきているんだろうなと思います。

ーー抽象的な質問になってしまいますが、皆さんにとって優しさというのはどのようなものですか? 

椎木:やっぱり“相手を思いやること”なのかなと。相手のことを考えて、何かしたり、何か言えたり、放っておいたりできることを優しさだなと思っています。もちろんそれだけではないと思うんですけどね。

ーーこのアルバムを聴いて、私も“優しさって何だろう?”と考えてみたんですけど、「綾」や「舌」はその1つの形だなと思ったんですよ。

椎木:そうなんだ。「翠」かなと思った。

ーー私の周りにも「綾」や「舌」の主人公のような恋をしている友人がいるのですが、その人から相談をされても私は「やめておきなよ」と言うことしかできなくて。「やめておきなよ」と伝えるのは倫理的には正しいかもしれないけど、一方でその人を追いつめているかもしれない。なので、“正しい/正しくない”から外れたところで道ならぬ恋を扱ってくれる曲に救われる人は確かにいるだろうし、そういう意味で優しい曲だなと思ったんです。

椎木:ああ、なるほど。

ーーそういうことって考えたりしますか?

椎木:「やめておきなよ」と言えることも優しさだと僕は思いますけど……でも確かに、「綾」や「舌」はそういう恋をしている当事者の人からすれば「自分の曲だ」と感じられるくらいのところにまで近づける曲だとは思っています。どちらもすごく個人的な曲ですし、僕は誰かに対する優しさからこの2曲を書いたわけではないんですけど、結果として優しさになるんだったら本望というか。こういう曲を書いている意味にはなるなと思います。

ーーちなみに「翠」については?

椎木:僕は、自分や相手を許せるということも優しさに近いと思っているので、2サビの〈許せないことを許せたとき/僕はやっと許された〉とかは優しさポイントがかなり高いです。

ーーなるほど。「翠」には〈タイムマシンに乗れたって/またやり直したって/結末はきっと変わらないから〉というフレーズもありますが、今作には「時間は戻らない」「逆らおうとしても時は流れていく」といった表現が多いですよね。

椎木:「過ぎたことにくよくよしてもしょうがないよ」って自分に言いたかった気がします。例えば、ムカつく相手がいたとしても、こっちがムカついている間に、向こうは酒飲んで焼肉食っていたりするのかなと思ったら、余計にムカつくじゃないですか。だったら、“自分は自分、相手は相手”と思った方がいいなと思って。そういうふうに考えるようになったら、自分自身すごく生きやすくなったんですよね。僕、コロナ禍の生活の中で自分が生きやすくなるような言葉をいっぱい取り入れることができたんですよ。

ーー『angels』にもそういった言葉が詰まっていると。

椎木:そうですね。さっきの優しさの話にも繋がりますけど、こっちにはそのつもりがなくても、向こうからしたら優しさになる瞬間もあるじゃないですか。自分はいつも通りに過ごしたつもりだったのに、「あの時のあの言葉に救われました」と言ってもらえたりとか。同じように、「誰かのために」とか「あのステージから見えるみんなを救うために」と思いながら歌詞を書かなくても、意外と誰かの手元にちゃんと届いたりするんだなと思いつつ、「あんまり気張って書かないぞ」という意識で書くことができたアルバムでした。その上で、僕の書いた言葉がもしも誰かに響いていたら嬉しいし、本望だなとも思いますね。

■アルバム情報
My Hair is Bad
5thアルバム『angels』
4月13日(水)発売
・初回限定盤(CD+DVD)¥4,620税込
・通常盤(CD)3,020税込

<収録曲>
1. カモフラージュ
2. サマー・イン・サマー
3. 歓声をさがして
4. 味方
5. 綾
6. 正直な話
7. 翠
8. 仕事が終わったら
9. リルフィン・リルフィン
10. ギャグにしようぜ
11. 舌
12. 白春夢
13. 花びらの中に

<DVD収録内容>
『ブレイクホームランツアー』ドキュメント 〜さいたまスーパーアリーナ編〜 “cola”

■配信情報
My Hair is Bad 楽曲配信中
ストリーミングはこちら
【ストリーミング配信開始楽曲】
シングル『時代をあつめて』(2016年5月11日リリース)
1.戦争を知らない大人たち
2.最愛の果て
3.悪口たち
4.卒業

2ndフルアルバム『woman’s』(2016年10月19日リリース)
1.告白
2.接吻とフレンド
3.音楽家になりたくて
4.グッバイ・マイマリー
5.戦争を知らない大人たち
6.恋人ができたんだ
7.mendo_931
8.ワーカーインザダークネス
9.革命はいつも
10.沈黙と陳列 幼少は永遠へ
11.真赤
12.卒業
13.また来年になっても

シングル『運命/幻』(2017年9月6日リリース)
1. 運命
2. 幻

3rdフルアルバム『mothers』(2017年11月22日リリース)
1.復讐
2.熱狂を終え
3.運命
4.関白宣言
5.いつか結婚しても
6.元彼女として
7.僕の事情
8.噂
9.燃える偉人たち
10.こっちみてきいて
11.永遠の夏休み
12.幻
13.シャトルに乗って

EP『hadaka e.p.』(2018年11月7日リリース)
1.次回予告
2.惜春
3.微熱
4.天才っていいな
5.裸

4thフルアルバム『boys』(2019年6月26日リリース)
1.君が海
2.青
3.浮気のとなりで
4.化粧
5.観覧車
6.ホームタウン
7.one
8.愛の毒
9.lighter
10.怠惰でいいとも!
11.虜
12.舞台をおりて
13.芝居

シングル『life』(2020年12月23日リリース)
1.白春夢
2.心はずっと
3.子供になろう

My Hair is Bad Official オフィシャルHP

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