My Hair is Bad、一人ひとりと心を交わした圧巻の一夜 バンドの軌跡が詰まった『ダイナマイトホームランツアー』ファイナル
一言で言うと、あまりに美しいライブだった。
通路を歩いて会場中央にやってきた椎木知仁(Gt/Vo)、山本大樹(Ba/Cho)、山田淳(Dr)が互いに手を握り、「せいっ!」と拳を合わせ、最初の一音をドカーンと轟かせてから、ダブルアンコールの「夏が過ぎてく」までの全25曲を終えるまで。およそ2時間、引き込まれっぱなしだった。
ライブハウスに賭けてきたバンドマンとして“今”を歌う椎木のボーカルに、時には微細なテンポアップ/テンポダウンも伴いながら、椎木の歌におそろしいほどフィットし、喜怒哀楽を共にする山本、山田の演奏。バンドワゴン生活を通して培われた絆を感じさせる3人の音は、彼らの歌っている内容が共感できるものであるかどうか、椎木が曲にしている出来事と同じような経験が自分にあるかどうか、そういったものを全て飛び越えて、聴く人の心を揺さぶってくる。鼓動が、血流が、呼吸が、情動が、バンドのそれと一緒になる。
その時、バンドと自分は二人だけの世界にいるはずだ。ある人にとっての青色が別の人からすると赤色に見えるかもしれないように、ある人にとってのテンションの上がる曲が別の人にとっては涙してしまう曲かもしれない。その上で、この会場にいる人それぞれが今、楽曲に向けている想い、熱量、集中力、記憶を引き出し、引き受け、愛で返していく。ギター、ベース、ドラム、歌、それだけで1万人強を個人として受け止められるのが今のMy Hair is Badだ。ステージの上と下ではなく、演者と観客ではなく、人と人としての対峙。My Hair is Badが最高にロックバンドしているのは今に始まったことではないが、どれだけ会場が広かろうと彼らがライブに求めるものは根源的で、モッシュ・ダイブ・シンガロングなどはできずとも、気持ちを確かに交わし合うような時間が続いた。スクリーンに映るメンバーの表情がずっと明るかったことも、椎木が「フロムナウオン」で「今日ここにMy Hair is Bad観ようって集まってるんでしょ? クソ奇跡だよ、ありがとう!」と叫んでいたことも含め、最高なライブだった。
全国8カ所を回ったライブハウス編+神戸ワールド記念ホール2デイズ&国立代々木競技場第一体育館2デイズのアリーナ編から成る『ダイナマイトホームランツアー』。本稿でレポートするツアーファイナル=3月26日の代々木公演含め、アリーナ編では、マイヘア史上初の360°ステージが採用された。360°ステージの場合、どの方角の観客も楽しませたいという想いからステージを回転させるアーティストも多いが、彼らの場合はそうではなく、線対称のようにドラムセットを2台、マイクスタンドを4本ステージ上に設置。そんなところからも、とことん人力にこだわるマイヘアらしさを感じた。