東京発4人組 Apesが鳴らす、真の等身大のロック ジャンルで括れないバンド像への志も明かす
3月23日、初のEP『Catchall』をリリースする東京発の4人組Apes。NIRVANAからNOT WONK、Arctic MonkeysやDYGL、カネコアヤノまで、洋邦問わずさまざまな音楽からの影響を噛み砕き、飲み込み、その上で吐き出したような、どこかで触れたことのあるような懐かしい手触りはあるのに強烈な新しさと個性を感じる、真の意味で東京ローカルな若者による等身大のロックを鳴らしているバンドだ。フロントマンLeo Sakaiの書く歌詞にはうっすらと漂う閉塞感の中での感情が綴られ、さまざまなルーツをもって集ったメンバーはその歌詞とメロディを爆音でブーストする。DIYで作られるミュージックビデオやアートワークにも、このバンドが持つベーシックなムードがしっかり貫かれている。
Apesの鳴らしている音楽が、たとえば今のトレンドに対してドンピシャかというとそういうものでもないと思うし、たとえばSNSでいきなりバズったりとか、そういうわかりやすい評価を得るタイプのバンドでもないと思う。だが、Apesの音楽、とりわけLeoの描き出す歌詞の世界は間違いなくとてもリアルに時代を映していると思うし、今巷で鳴っている音楽になぜか満足できない、共感できないというあなたにとって、拠り所になりうる可能性を持っていると思う。まさに文字通りの「オルタナティヴ」な最高にかっこいいロック。メンバー4人にバンドの成り立ちから曲作りの方法までを語ってもらった。(小川智宏)
バンド存続の危機を救った4人の巡り合わせ
――初めてのインタビューなのでバンドのプロフィール的なところからお聞きしたいんですが、最初のきっかけはLeoさんが軽音楽部でバンドを組んだところから?
Leo Sakai(以下、レオ):そうですね。僕が通っている高校の軽音部で最初スリーピースバンドを組んでいたんです。でも高校卒業してしばらくしてドラムとベースが抜けて。それでどうしようかなって思ったんですけど、続けるもやめるも自由だからもうちょっと続けてみようかなと思ってたら、そのぐらいのタイミングで、スリーピース時代に対バンして知り合ってたアラユ(Yusuke Arai)から連絡が来たんです。彼のバンドが解散することになったから「ギター弾かせてくれない?」っていう。
――逆オファーですね。
レオ:そうです。で、サポート含め4人でやるようになって。それが「Imaginary Flight」のMVを作ったときぐらい。そこからアラユに正式メンバーとして入ってもらって。
――そこから今の4人はどうやって集まっていったんですか?
Yusuke Arai(以下、アラユ):その前のベースのサポートの人がちょうどやめたいって言ってきて――。
レオ:そう、そろそろサポートを終わりにしたいっていう。それで、どうしようかなと思いながら、下北沢のライブハウスに出たんですけど、その時、全然悪いライブはしてなかったんですけど、反応がなさすぎたんですよね(笑)。拍手ゼロみたいな感じで。それで終わった後にもうヤケ酒みたいな感じで飲んでたら、たまたま別のバンドを観に来ていたドラムのモリカズくんが声をかけてくれたんです。結構趣味が合ったんですよ。家もたまたま近かったし。それで、そのままの流れでその深夜にスタジオに入って。今思うと恐ろしい時間だったんですけど(笑)。
モリカズ:酔っ払って「スタジオ入ろっか!」って(笑)。
レオ:それでやりたいって言ってくれたんで、メンバーになりました(笑)。
――ベースのKetoさんは?
アラユ:新宿の街を歩いていたら、僕の友達と一緒にKetoくんが歩いてきたところに遭遇したんです。それで一緒に飲むことになって。話をしているとベースを弾いてるらしいぞと。それで、じゃあ今ベースが抜けようとしてるから弾いてよって言ったら、「弾くよ」って。
レオ:それで今のこのメンバーになりました。
――よくわからない話ですね(笑)。
Keto Murao(以下、ケイト):僕はもともとバンドを掛け持ちしてたんですけど、じつはApesと対バンしたことがあって。その時は全然会話とかはしなかったんですけど。個人的に、同い年でこんなかっこいいバンドがいたんだって衝撃を受けていたんです。そこから半年くらい経って、たまたまアラユと会ってそういう話になったんですよね。だから個人的に一方的に知ってたんです。
――ああ、下地があったんですね。なんか今の話を聞いていると、もう誰でもいいからっていう感じで誘ってるのかと思ったんですけど(笑)。
アラユ:最初はもう「弾けるんだ!」っていう。どういうベースを弾くかもわかってなかったけど、Apesのこと知ってるらしいし……(笑)。
ケイト:でもスタジオ入る前にグルーヴ合うねみたいな話にはなったよね。前の体制のラストライブに誘ってもらったんですよ。そこで初めて4人で顔合わせして、下北沢の居酒屋に行って。まだスタジオ入ってもいないのに新体制の乾杯があった(笑)。
レオ:うん、なんかハマった感じはありましたね。
――なるほど。今さらっと話してくれましたけど、バンドのメンバーがいなくなってしまったとか、サポートメンバーもやめるとか、ピンチじゃないですか。
レオ:そうっすね。当時、ずっと一緒にやってたベースが抜けることになったときは、ショックでしたよ。
アラユ:バンドをやめようとしてたよね。
レオ:うん、やめようと思ってた。でも、新宿Marbleの店長の鈴木さんに「続けるか迷ってます」って言ったら、絶対続けた方がいいからとりあえずやってみなって言ってもらえて。あと、アラユがサポートで入るときも、諸事情でやれないかもしれないってなったんですよ、1回。その時はもう完全にやめようと思ってましたね。もういいかなって。でも2020年の3月ごろ、コロナが本当にちょっとやばいぞってなったあたりで、御茶ノ水のスタジオで練習したあと、駅前に安くハンバーグが食べれる店があるんですけど、そこに行ってハンバーグ食べてたら、アラユがいきなり「俺入るわ」って言い出して(笑)。そのときから自分の中で完結するものじゃなくなってる感じがしていたんで、もうちょっとバンド頑張ってみようって思うようになりました。
――3人はApesのどういうところに魅力を感じて、今このバンドの一員としているんですか?
レオ:あ、それめっちゃ気になるな。
アラユ:僕は元々入るぞって決めたとき、他のバンドにもサポートで誘われてる時期だったんです。でもやるなら1個がいいなって思って悩んでいたときに、これ新しい曲のデモだよって深夜にレオくんが弾き語りの曲を送ってきて。それが今回リリースするEPの「やさしくなれない」っていう曲の原型だったんです。それが送られてきたときに、僕1人で泣いちゃって……。歌詞と声がもう、この人しかいないぞって。だからレオくんの声と歌詞は誰にも出せないし書けないものだなっていう、そこにすごく魅力を感じていますね。
モリカズ:僕はそれこそ最初は名前を知らなくて、たまたま友達のバンドを見に行ったらApesがライブをしていて。そのときにすごく華があるなと思ったんですよね。僕、元々大阪でバンドをやっていて、辞めて東京に越してきて、どうしようかなって考えてるときに、Apesはすごく響くものがあったんです。「なんでこんなに良いのに盛り上がってないんだろう」って素直に思って、それで話しかけたんです。そこでどういう音楽が好きなのかという話をしたときに、それこそNOT WONKとか、アメリカのHippo Campusっていうバンドとか、DYGLとかの話で盛り上がって、自分がやりたかったことと結構焦点があった気がしたというか。
ケイト:僕はApesと対バンしたときは自分に精一杯で、全然対バン相手のことを観たりはできなかったんですけど、2020年1月かな、Apesを観たときに、完全に食らっちゃって。この雰囲気で僕と同い年なんだって、特にこの2人(レオとアラユ)に感じたんですね。アラユとレオちゃんのステージングとパフォーマンスに圧倒されちゃって。ものすごくいいバンドだな、こういうバンドをやれたら幸せなんだろうなって思いました。
――やっぱりレオさんの書く歌詞、曲、そしてパフォーマンスというところはすごく大きいんだと思いますが、そこは自分でも自信があります?
レオ:いや、自信ないですよ。常に自分にも、作る曲にも自信はない。でもそこって難しくて、自信があるから続けているのかっていうと、それよりも単純に生理現象みたいな感じなんですよね。曲を作るのもそうですし、ギター弾くのもそう。歯を磨くとか、トイレするみたいな感じだから。
――つまりレオさんにとっての音楽っていうのは、ある種の排泄物みたいなものなわけですよね。食べて消化したものが如実に影響するというか。
レオ:そうです。その形がいいとか悪いとかではなく……全然ダメだなみたいなときもあるけど、いい感じで出てくるとやっぱり気持ちいいし。そんな感じ。