Nulbarich JQが語る、刺激を求めて歩み続けるマインドの核 原点に立ち返って生まれた新しいグルーヴとは?
「ジャンルレスというよりも、時代レスな音楽が耳に残る」
ーーJQさんの音楽的なインスピレーションは、この1年で変わってきた感覚はありますか?
JQ:『NEW GRAVITY』を作っていた頃は僕のなかで80年代ブームでしたけど、それも制作でLAに行ったりしていたので、現地で吸収してきたものが強かったんですね。今はそこからさらに深まった感覚かな。リバイバルで80年代の音楽が注目されたとき、アメリカのポップスを思い浮かべる人もいれば、ロックやファンクの印象が強いっていう人もいるじゃないですか。そこから掘り下げて、70年代、60年代、50年代あたりまでみんな掘っているタイミングだと思うので、世の中的にもそういう古いジャンルをうまくミックスしながら、面白いことをやっている人が増えてきたなと。ジャンルレスというよりも、時代レスな音楽が流行っていて、自分の耳に残るのもそういう曲が多い印象です。
ーー少し横道に逸れるかもしれませんが、Nulbarichが登場した2010年代後半って、ジャンルの壁が溶けていって、アーティストの活動スタイルもより広がっていった時代だったと思うんですね。ルーツも活動歴も幅広いメンバーが揃っていて、もともと素顔も明かさず楽曲ファーストで活動していたNulbarichの存在は、今のシーンに繋がる架け橋だったとも言えるんじゃないかと思いますけど、JQさんにはそういう感覚ってありますか。
JQ:いや、特に何も(笑)。
ーーそう言われるかなと思いつつ聞いてしまったんですけど(笑)。
JQ:そういう役割を果たせていたとしたら、もっと体感しておきたかったなとは思いましたけどね。僕たちよりもキャッチーな音楽をやっている人はたくさんいるし、もっとスキルが高くてディープな音楽をやっている人もたくさんいるなかで、Nulbarichの立ち位置がどういうものかは別として、もっとキャッチーにもなってみたいし、逆にもっとコアなこともやってみたい。でも、僕らが一生懸命やると、不思議と今みたいなスタイルになるんですよね。Nulbarichの音楽が注目されたのも、タイミングの運だったと思っていて、いつも通り「いいな」と思うものを出したら、感じたことのないスピードで広がって驚いたというか。音楽の作り方も、楽曲への満足度も、以前プロデューサー業をやっていた頃と変わらないので、たまたま誰かが見つけて、広げてくれたことが大きかったんだなと。自分の楽曲が世の中に影響を与えて、売れたみたいな感覚はいまだにゼロなんですよね。
ーーとはいえ原点回帰できるくらいバンドが続いてきたことは事実ですし、ライブでの観客の反応がわかったからこそ「次はこういう曲に挑戦しよう」という感覚も養われてきたんじゃないでしょうか。
JQ:どうなんだろう……。それで言うと「It’s All For Us」はストレートですけど、「STEP IT」はサビがブラスセクションで、〈Step it〉を繰り返すパートになっているんですよね。「Lipstick」とか「Rock Me Now」と構成は似ていて、一番盛り上がるところで歌が入らない形になっていて。そういう曲をシングルの推し曲として、MVも作って出せるのは初めてかもしれないです。やり続けてきて、スタッフを説得できた部分もあったのかなと(笑)。
「ネガティブなときでも自分を磨き続ける人は美しい」
ーー「DRIP DRY」もそうですけど、Nulbarichらしさを抽出してグッとシンプルに聴かせる力が光っていますよね。
JQ:「DRIP DRY」はリミックスを除いた3曲の中では最後にできたんですけど、対比を見せるために、他の曲にはないシンセ系のアレンジを入れようと決めて。もともとLAでセッションしたときに気に入ったメロディをベースにしているので、小細工なしで行けるなと思っていました。歌詞に関しては、ドリップドライという言葉がコロナ禍のムードに合うなと思って。脱水せずに干す洗濯のやり方のことなんですけど、ガンガン乾燥機にかけるよりも、カラッとしたところならすぐに乾くし、シャツとかのシワも伸びやすくなるらしくて。今はコロナ禍だから、何かを一生懸命やってもダメなときはダメだし、僕たちが動いたところで変えられないことのほうが多い。その「焦るなよ」っていう気持ちと、速乾させずにゆっくり綺麗にやっていこうということがサビで重なっていて。
ーーなるほど。
JQ:思い出って、いつか記憶の中で絵巻物になる瞬間が来るじゃないですか。そう思うとどんな状況であれ、今に対してポジティブでいたほうが絶対に得な気がするんです。もちろん日々ネガティブなことだらけだし、一概に「みんなハッピーでいろ」と言うのは難しいけど、「じゃあどうしたらもう少し良くなるかな?」とか、ポジティブなほうに頭を働かせることってすごく大事で、それが唯一、ネガティブから抜け出す方法だと思っているんです。曲が書けなくなると、放り投げちゃうこともあるんですけど、例えばメロディが浮かんでこないときは、ピアノを必死に練習したり、他のレベルアップに時間を使ってみることで視野が広がったりするので。
ーー自己研鑽によって自ら出口を見つけに行くと。
JQ:そう。僕はそういう積み重ねで、どん底から這い上がってきたタイプでした。今だって目標達成できているわけじゃないし、デビュー当時は「マディソン・スクエア・ガーデンでやってやる!」と言っていたけど、それもまだまだなので。「DRIP DRY」で歌われている「飛ぶために作ったのに、まだ飛べてない翼を背負ったまま歩いている」ということが、焦るなと言いつつ、現状には満足はするなっていう僕自身のマインドの核でもあるのかなと。
ーーNulbarichの音楽は“ありのまま”を肯定していますけど、何もしなくていいと言っているわけではなくて。少しずつでいいから自分らしく進むことこそ肯定しているわけで、それがコロナ禍のムードと相まって結実した曲ですよね。
JQ:そうですね。夢を追えとかそういう話じゃなくて、やっぱり自分磨きをしている人は、マインドが整っているなと思うので。ネイルが好きで常に爪を綺麗にしている人とか、何でもいいんですけど、自分で自分をケアしてあげられる人ってやっぱり美しいなと。
ーーマディソン・スクエア・ガーデンの話も出ましたけど、武道館やさいたまスーパーアリーナがそうだったように、進んでいくための明確な目標ってJQさんにとって必須なんでしょうか。
JQ:あまり計画性を持っているわけではないですけど、言うのはタダなので、「マディソン・スクエア・ガーデンに立ちたい」と言い続けていれば、何かの拍子に叶うことがあるかもしれないじゃないですか。デビューした勢いでバーンと行くのは無理だったけど、「Boys, be ambitious.」というか、いつかもし立てるとしたら、今どんな準備をしておけばいいかがわかるので。武道館もさいたまスーパーアリーナも通過点にしていかなくちゃいけないんだなとか、日本でこのくらい大きな存在にならなくちゃいけないんだなとか、そういうシミュレーションは好きです。
でも本当のことを言うと、夢が叶うかどうかは別として、日々そこに向かうことで、成長できていることが大事だと思っています。世間からどう言われようが、音楽のスキルを磨き続けて、勘違いでも「成長してこれたな」と思って終わることができたら、それはそれで幸せだなと。やることがなくなったときが、たぶん一番しんどいですからね。
※1:https://realsound.jp/2021/11/post-907313.html
■リリース情報
Nulbarich『HANGOUT』
2022年3月23日(水)発売
・Blu-ray+CD:¥8,800(税込)
・2DVD+CD:¥7,700(税込)
<EP(4曲)>
配信はこちら
1. It’s All For Us
2. STEP IT
3. DRIP DRY
4. A New Day feat. Phum Viphurit(天蚕糸風呂 Remix)
<Blu-ray/DVD>
『Nulbarich ONE MAN LIVE -IN THE NEW GRAVITY-』
[2021.6.13 at TOKYO GARDEN THEATER]
1. IN THE NEW GRAVITY
2. TOKYO
3. Twilight
4. VOICE
5. Super Sonic
6. CHAIN
7.Mumble Cast #000~Kiss Me~Handcuffed~Mumble Cast #000
8. Lonely
9. A New Day
10. ASH feat. Vaundy
11. It’s Who We Are feat. 唾奇
12. Sweet and Sour feat. AKLO
13. Be Alright feat. Mummy-D
14. Kiss You Back
15. Break Free
16.LUCK
17.Almost There
18.In My Hand
『The Fifth Dimension TOUR 2021』
[2021.11.15 at Zepp Tokyo]
1. Intro
2. Spread Butter On My Bread
3. Supernova
4. In Your Pocket
5. NEW ERA
6. It’s Who Are
7. Silent Wonderland
8. Almost There
9. Kiss You Back
10. Sweet and Sour
11. It’s All For Us
12. VOICE
13. A New Day
14. SESSION
15. Lipstick
16. Super Sonic
17. Lonely
18. Break Free
19. Stop Us Dreaming
20. TOKYO