AA=、爆音の中に上田剛士が残した確かなメッセージ 『story of Suite #19』を経た2年ぶりの有観客ライブ

 2月、ついにAA=がライブステージに戻ってきた。『AA= LIVE from story of Suite #19』と銘打たれたこのショートツアーは、そのタイトルからも明白であるように昨年12月にリリースされた最新アルバム『story of Suite #19』に伴うものであり、彼らにとっては実に2年3カ月ぶりの有観客ライブに当たる。同作の完成に際して行われたインタビューの中で、上田剛士は、これまでの彼自身の音楽人生を通じてすべての創作活動はそれをライブでやることを前提としたものだったのに対し、同作は唯一の例外であることを認めていた。だからこそAA=としての本来あるべき流れとは異なったところに位置するコンセプチュアルな作品だということも(※1)。

 ライブ活動というごく当たり前の自由に制限が課された日常においても、もちろん彼はそれができる可能性を求めてきた。ただ、コロナ禍において計画通りに物事が運ぶか否かは、日々刻々と変わる状況次第と言わざるを得ず、どこか運任せにするしかないところがあった。それは誰もが感じてきたことだろう。せっかく良い条件で何かを実行に移せることになった場合でも、その当日に新たな条例が出るケースだってある。ただ、ライブをやりたいというのは上田自身のみならずバンドメンバー全員の一致した総意であり、結果的にはそれが実を結ぶまでに2年以上を要してしまうことになったというわけである。

 名古屋、大阪での公演を経て、2月26日に彼らが到達した今回の終着点は東京・恵比寿LIQUIDROOM。本来ならば自由な空間であるはずのフロアには升目が描かれ、立ち位置指定でのスタンディングというこのご時世ならではの観覧形式がとられている。当然ながらマスクは常時着用が求められているし、公演中に声をあげることも許されていない。そうした現実についてはすでに慣れてしまったという人も少なくないだろうが、やはり依然としてどこか息苦しい窮屈さがあることは否めない。サウンドチェックの一部なのかSEなのか判別がつかないメカニカルなノイズがそうした空気感に拍車をかける。

 ライブが実際に始まったのは開演時刻の18時を10分ほど過ぎた頃のことだった。場内が暗くなり、背景のスクリーンには最新作誕生の発端となった「Suite #19」に伴うショートフィルムが流れ始める。その瞬間から『story of Suite #19』の完全再現がスタートした。物語の幕開けを告げるのは「Chapter 1_冬の到来」。凍てつくような空気感を映像と照明効果、音が醸し出す。〈冬が訪れる前に、この国の扉を閉めてしまうんだ〉という言葉がさまざまな現在進行形の現実を思わせる。ステージ上には上田の姿しかない。しかし物語が進んで行くにつれ、各曲が内包する混沌を描くために、不可欠なメンバーたちが次々と登場してくる。YOUTH-K(Dr)が加わり、児島実(Gt)が交わり、そしてさらに白川貴善(Vo)が登場してきたところで、ようやく見慣れたAA=の図が目の前に完成していく。そうした流れはどこか、上田が唱えた主張にメンバーたちが賛同の意を示しながら合流していくプロセス、すなわちAA=とその音楽の成り立ちを体現しているかのようにも感じられた。そして、説明的なMCも一切ないまま『story of Suite #19』の物語を丁寧かつ大胆に描き切ると、4人は閉ざされた世界から抜け出したかのように躍動していく。

 上田によるごく簡単な挨拶を経て炸裂したのは「PICK UP THE PIECES」。そこから始まったのは、『story of Suite #19』という地点に至る以前の彼らの物語を総括してみせるかのような、新旧織り交ぜながらのキラーチューンの連発だった。オーディエンスは、決まった立ち位置から動くことも、声を上げることもできないままだが、その場で手を叩くこと、拳を突き上げることは可能だ。そして実際、それだけでもライブならではの一体感というものを堪能できることを僕は実感させられた。ステージとフロアとの間に、エネルギーの交感が成立していたことの証だろう。演奏プログラムが進んで行くほどにステージ上からの攻撃は勢いを増し、フロアからの反応も高まり続けていく。本来あるはずの自由が制限された状態にあるからこその、爆発しそうな興奮と、それを鎮めようとする理性とのせめぎあい。自分の体内でそんな闘いが起きているのを体感していた観客も少なくなかったことだろう。

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