運命的なドラマから“特別ではない日常”へ 瑛人、優里、マカロニえんぴつ……令和のラブソングが象徴する恋愛観の多様化
令和に開花した、現実的な恋愛を歌うバンドとして触れておきたいのがマカロニえんぴつだ。代表曲の一つとなった「ブルーベリー・ナイツ」のサビで歌い上げる〈冷めないで 消えないで そう願ったって遅いのに〉という歌詞は、恋愛感情がいずれ冷めゆくものであることを逆説的に示している。さらに〈愛の 歌やけに嘘くせぇな/友だちでいよう〉(「レモンパイ」)での、純粋すぎるものや美しすぎるものに対する懐疑的な姿勢や、〈遊びたいけどねまだね/愛が見つかったので/妬まないでマイフレンド/中目デザイナーズマンション〉(「眺めがいいね」)で歌われる打算の上での結婚とぬぐい切れない虚しさなど、恋の渦中にあってなお頭の片隅に冷静さが居座っているような、クールな恋愛観がにじみ出る。
ストリーミング累計再生回数が2億回を突破したAwesome City Club「勿忘」は、2021年のヒット映画『花束みたいな恋をした』にインスパイアされて書き下ろした楽曲だ。この映画はありふれた男女の出会いと別れを描いた作品であり、主人公2人の「生っぽさ」「特別でなさ」が多くの観客の共感を呼んだ。
ここで思い返してみると、2004年に日本を席巻したラブストーリー『世界の中心で、愛を叫ぶ』は、不治の病に侵された恋人との死別を描いた、エモーショナルで壮絶な物語だった。どこにでもある、自分だったかもしれない恋を描いた『花束みたいな恋をした』と、2人の恋が世界の中心である『世界の中心で、愛を叫ぶ』。時代を経て、恋愛に求められるものが真逆と言えるほど大きく移り変わっていることが見て取れる。
現実の人生は、フィクションのように運命的だったりドラマチックではないこと。両想いや結婚は決してゴールではないこと。多様化が進み、それぞれが違った価値観を持っていること。そんな考え方が広まっていくとともに、音楽も「みんなのもの」から「一人ひとりのもの」へと変わっていった。ラブソングもまた「世界を巻き込む運命的な物語」から、「特別でない私の物語」へとシフトしていっているのかもしれない。