『東京』インタビュー

SUPER BEAVER、音楽を通して肯定するそれぞれの人生 再びステージに立つ中で感じた、かけがえのない人間冥利

 コロナ禍で主戦場であるライブがままならない中、メジャー再契約という自分たちの物語と、バンドのメッセージのエッセンシャルな部分を全力でぶつけた前作『アイラヴユー』から1年。この状況下で、2021年に83本のライブをやり切ったSUPER BEAVERが今歌うべきテーマを昇華しきった、最高のニューアルバムが完成した。

 収録曲のひとつから『東京』と名付けられたこのアルバムは、その名前に象徴される通り、複雑に重なり合い入り組んだ、人間の心と心の網目模様を描き出す。再び観客と向き合い、音と感情のキャッチボールを繰り返してきたからこそ歌える人間の姿と、そこに向けられた力強い肯定性は、2022年を生きる我々にとって1つの道標になるだろう。昨年感じたことを糧に生み出したこのアルバムを提げて「今年は昨年以上にライブをしまくる」と意気込むメンバー4人に話を聞いた。(小川智宏)

「ライブはステージとフロアで一緒に作り上げるもの」

ーーまたしても素晴らしいアルバムができました。

渋谷龍太

渋谷龍太(以下、渋谷):作り始めたときにはわりと手探りの状態だったんですけど、作っていくうちにどんどん全貌が見えてきて、でき上がってみると、聴いてくれる方の感情とか、その人の背景とかを、ものすごく投影しやすいアルバムになったと思います。聴いた人によって、聴こえ方とか染まり方が違うアルバムができたんじゃないのかな。

柳沢亮太(以下、柳沢):前作に閉じ込めたエネルギーも相当なテンションではあったし、しかも『アイラヴユー』まで言ってしまって、次に何があるんだろうって考えてたんですけど、曲ができてレコーディングが少しずつ進んでいく1個1個の段階を経ていくごとに、自分たち自身でもこのアルバムの顔が見えてきたような気がします。これまで以上に、アルバムが届いていろんな反応を自分たちで味わわせてもらうことで、思うことがすごくたくさんあるんだろうなって思います。

上杉研太(以下、上杉): 2021年は83本ライブをやったんですけど、僕らにしてみたらライブが全然できない2020年を経て生み出した『アイラヴユー』から、またライブがちょっとずつできるようになってきてからの歩みとか、そこで感じたことも余すことなく今回の作品に入れることができたので。そういう意味では紛れもなく今のSUPER BEAVERの姿勢であったり、何を大事にして今生きているのかということが入っているアルバムだと思います。

藤原“33才”広明(以下、藤原):今までがそうじゃなかったわけではないんですけど、今回は特に聴いてくれる方の気持ちに近くなれたかなっていう感じはしていて。今どういう音が必要で、どういう歌詞、どういうメロディ、どういう肌触りのサウンドが欲しいのかということを、今までで一番強く想像しながら作った気がしますね。ステージからどういう音楽を投げるかっていうよりは、そのフロアに自分たちも行って、そこでどんな音楽がスピーカーから流れてきたらいいかなってみんなで考えていって。

ーーそれはやっぱり、2021年にお客さんの前でたくさんライブをやれたことが大きかった?

藤原:お客さんの前でやれない状況があったから、またやれるようになって気づくこともたくさんあったと思います。例えば無観客で生配信をやったから、ライブを初めてちゃんと観ることができましたっていう言葉とかもいただいたりして、そういうパターンもあるんだなと知ったし、配信だと聴く環境が違うから音楽の感じ方も違うんだろうなとも思ったし。どこでどういう気持ちで聴いても、ちゃんといい音楽を届けるにはどうしたらいいかなっていうことは考えましたね。音作りも、楽器の鳴らし方もグルーヴも、シビアに詰めました。

ーー『アイラヴユー』とはやっぱり違う感覚がある?

柳沢:そうですね。『アイラヴユー』は、メジャー再契約っていう自分たち自身のストーリーにプラスアルファで、コロナ禍という、みんなが一緒に味わった未曾有の出来事に対する想いが相まって、SUPER BEAVERの歌とか歩み、SUPER BEAVER自体が発しているエネルギーやメッセージを最高潮まで磨き上げられた1枚だった。それを経たからこそ今回、「自分たちの話だけじゃない」っていうところに結果として行けたのかなって。聴いてくださる方の中で変わっていく余白もこれまで以上にあるなと思います。

藤原“33才”広明

ーー今言ってくれた通り、『アイラヴユー』はメッセージをSUPER BEAVERからいかに届けるか、伝えるかっていう矢印が強い作品だったし、あのタイミングではそうすることが必要だったと思うんですけど、今回のアルバムはもっと矢印が入り組んでいますよね。一方通行でもなければ、双方向というだけでもない。立体交差になった感じがするというか。

渋谷:そう言われてみれば、そうだなと思います。すごく多方面から感情や状況を切り取っている曲が多いので。シチュエーションも1つじゃないし、自分たちが何かに挑む姿勢だけじゃなくて、聴いてくださる方が何かに挑む姿勢とか、それぞれの立場、それぞれの角度から見られるような曲がすごく多いなと感じますね。

ーーそういう感覚はステージに立って歌っているときも感じますか?

渋谷:そうですね。2021年、83本ライブをやってみて……俺、ライブの良し悪しを絶対フロアのせいにしちゃいけないと思っていたんですよ。でも、それって逆にどうなんだろうって最近ちょっと思うようになってきて。“フロアのせいに”とか“フロアのおかげに”できないんだったら、俺たち4人だけでやってるのと同じことだなと。そうじゃなくて、すごく純粋にフロアとステージで気持ちの交換をし合っているわけだから、いいライブはフロアと一緒に作り上げたものだし、うまくいかなかった日っていうのは気持ちの往来がうまくいかなかったんだなと。それで、勝手に全部の責任を背負うのはやめようと思ったんです。自分たちが思っているよりも、音楽ってもっと多角的なのかなと思うようになりました。

ーーアリーナツアー『都会のラクダSP ~愛の大砲、二夜連続~』ファイナルのさいたまスーパーアリーナでも「これからもお世話になります。そしてお世話します」っていうMCをしていましたよね。

渋谷:俺だったら言って欲しいなと思ったんですよね。お互い責任を持っていた方が楽しいし、ライブって一方的に俺たちが何かをやるだけの場じゃないんだよっていうことを今一度認識してほしくて、お互いの責任感を強調したかったんです。「なんであなたがそこにいるのか?」に対する理由を作らないと、ライブって、音楽って、面白くないんだよっていうことをどうにか言語化できないものだろうかと思って。

シンボリックなタイトル『東京』に込めたもの

ーーその言葉と、このアルバムに込められている感覚はすごく近いものがあると思いますね。それにしても、83本ライブをやった2021年があって、たぶん「このご時世にそんなにライブをやってすごいね」とみんな言うと思うんです。でも、それってSUPER BEAVERにとっては日常でもあるわけですよね。

渋谷:むしろ、いつもより少ないくらいですね(笑)。

上杉:でも、こんな状況下においても、自分たちが思ったことの上で活動していくっていうスタンスを変えずに去年もできたことが、やっぱり一番良かったなと思います。「ちゃんとバンドできたな」っていう感じですね。

柳沢:今言っていただいて思い出したんですけど、そういう感情をちゃんと訴えたかったのが「スペシャル」の最初の部分だったんですよ。

ーー〈「普通」が普通であるために 努力している人がいる〉っていうところですね。

柳沢:はい。俺らにとってライブをするっていうことは確かに日常で、でも特別なものであると改めて自覚できたんですけど、それはやっぱりライブを作ってくれる人たちがいるからこそで。「普通にやったよね」の「やったよね」を作ってくれる人がいないと成り立たないし、裏を返すとSUPER BEAVERがライブをしない限りその人たちが動くことはないから。それは別に音楽に限った話じゃないと思うんですけど、改めてやっぱりそうだよなって思ったというか。そういうことの上に「普通」が成り立っているんだよなって、改めて強く思えたので、それを丁寧に歌にしていきたくて書いたのが「スペシャル」の冒頭だったんです。

SUPER BEAVER「スペシャル」MV

ーーこのフレーズは、わかってはいるけど言えない言葉だと思うんですよ。言われてみればそうだよなっていう。それをわざわざ言ったっていう意思は感じるし、もっと言えばこの意思がこのアルバムを貫いている気がするんですよね。人の弱い部分とか、人と比べて別に特別じゃないと思ってしまうもの、すべてをちゃんと肯定していくというか。

柳沢:ありがとうございます。

ーーそれを総括するタイトルとして『東京』という言葉が選ばれたわけですが、これはどうしてでしょう?

柳沢:このタイトルになったのはレコーディングのほぼ後半、終盤も終盤くらいのときだったんです。さいたまスーパーアリーナ公演でアルバムリリースを発表したいねっていう気持ちがあったので、そのときにタイトルまであったほうがいいよねと思っていたんですけど、そのときにぶーやん(渋谷)が「『東京』かなと思ってたけど」って言って。

ーー渋谷さんはなぜ『東京』という言葉を思い浮かべたんですか?

渋谷:このアルバムにとって最もシンボリックで、かつ自分が手に取りたい名前は何だろうって思ったときに、やっぱり『東京』っていうのはキラーワードだし、アルバムのタイトル然としているなと思ったんです。「東京」っていう楽曲名は、自分たち4人が東京出身だからつけたんですけど、別にどの地名をつけていただいても大丈夫かなって思うんです。その人の軌跡、その人の歩み、その人の思うことを、一番投影しやすい地名がここにボンと入ったらすごく素敵なアルバムになるかもしれないなって。ずっと「東京」を自分たちも口にしてきたから、2回目のセルフタイトルみたいな意味合いもあるし、このタイミングで、必殺をここで出すっていうのは清々しいなと思いました。

ーー要するに、この『東京』というのは東京のことじゃないんですよね。みんなの心の中にある東京、「東京たるもの」というか、いろんな人がいて、その中で生活を営んでいて人生を送っている、その営みのことを指しているんだなと。

渋谷:うん、生活とか人生とか、そういうことだと思うんですよね。

SUPER BEAVER「東京」MV

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