木下百花は常識や正論の外側で歌う 「悪い友達」ヒットが物語る、“元アイドル”を覆したシンガーソングライターとしての手腕

 昨年12月に配信リリースされた楽曲「悪い友達」のMV再生回数が140万回を超えるなど(2022年2月現在)、話題になっている。2017年にそれまで所属していたアイドルグループ「NMB48」を脱退して以降、幾度かの名義変更もありながら、自身の音楽活動の在り方を模索してきた木下だが、自身で作詞作曲、さらに編曲までも手掛けた「悪い友達」が大きな注目を集めたことは、木下百花という音楽家の歩みの中で、とても大きな1歩としてこの先も記憶されることだろう。

木下百花 "悪い友達"(Official Music Video)

 去年の暮れ、この「悪い友達」リリース時に私は木下に取材する機会を得た。「温かな冷たさ」とでも形容したくなるような独特な質感を持ったメロディアスなトラックと、「悪い友達」という曲タイトルにも象徴される、甘やかで、しかし、どこか不穏さも漂う人間関係を描いた、独特な言語感覚による歌詞世界(この歌詞は、柴田聡子との会話から着想を得たという)。途中で差し込まれるラップとそこから始まるトリップ的な展開には、生々しい現実感と「ここではないどこか」へと聴き手を誘うような没入観が、不思議と同時に閉じ込められているようだった。

 甘美かつ獰猛。コミュニケーションとディスコミュニケーションの狭間で、「虚」と「実」の狭間で、揺れる音楽。この、聴き手に寄り添うようで突き放すような魅惑的な楽曲のレファレンスとして、本人はFINAL SPANK HAPPYや坂本慎太郎などの名前が挙げたが、そうした影響源に留まらない独特な雑食性と親密さ、そして不可思議さを抱くこの楽曲は、木下百花という存在の非凡さを改めて証明するものだった。木下自身が出演するMVもまた、曲の世界観を見事に映像化している。

 振り返れば去年、取材前に初めて「悪い友達」を聴いたとき、その洗練された響きに驚かされたが、驚いたのはこの曲が素晴らしくいい曲だったということ以外にも、それまで木下が発表してきた楽曲に比べると、「悪い友達」が、どこか質感を異にする楽曲だったから、という理由もある。

 私が木下百花のライブ演奏を初めて観たのは1stフルアルバム『家出』のリリース後、去年4月に恵比寿リキッドルームでゲストに柴田聡子を迎えて開催された自主企画ライブ『わたしのはなし 第3話~夜明けのピクニック編~』でのことだった。伊東真一(Gt/HINTO)、岡部晴彦(Ba)、吉澤響(Dr/セカイイチ)という、音源制作にも参加しているバンドメンバーに加え、りょーめー(爆弾ジョニー)をはじめ、さらに3人のサポートメンバーを加えた計7人の大所帯で、その日、ステージに立った木下。奏でられていたのはユーフォリックなサイケデリックロックで、その音楽の姿を、私は「BO GUMBOSや後期ZELDAのよう」とレポート記事で形容している。当時、木下自身が踊ってばかりの国との出会いを自分自身の大きな音楽体験としてインタビューで語っているのも読んでいた私にとって、そのサイケデリックロック/フォークに通じていく方向性は、とても納得できるものだったのだ。実際、そのライブから数か月後にリリースされたEP『また明日』においても、その音楽的方向性は踏襲されていたといえる。

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