木下百花は常識や正論の外側で歌う 「悪い友達」ヒットが物語る、“元アイドル”を覆したシンガーソングライターとしての手腕
そうしたインディロック的な音楽性から一転して、「悪い友達」では細部のバランスにもこだわり、構築美の光るポップスを響かせてみせた木下。その音楽的レンジの広さに私は驚かされたのだが、「悪い友達」リリース時の取材現場で木下が語ったのは、『また明日』と「悪い友達」の間に配信リリースされたシングル曲「えっちなこと」の存在の大きさだった。奥田健介(NONA REEVES)をアレンジャーに迎えて制作された「えっちなこと」は、シンガーソングライターとしてのソロデビュー以降、どこか木下自身が表面的に使うことを「禁じ手」としてきたフシのある「アイドル」という出自を、批評的、あるいは皮肉的な意味合いにおいても自身の音楽の中に飲み込んでみせた1曲で、MVやジャケットにおける木下のビジュアルイメージも含めて、ソロミュージシャン「木下百花」のイメージをまたさらに刷新するものだった。
「えっちなこと」という、フリルと刺青が混ざり合うような歪なアイドルポップの制作現場において、木下は奥田から多くのことを学んだとインタビューで語っていた。そして、恐らく、この「えっちなこと」の誕生によって、木下百花に「禁じ手」はなくなったのだろう。アイドルポップのアンチテーゼがインディロックなわけではない。音楽は音楽でしかありえず、人は「その人」にしかなり得ない。アイドルとして歩んだ歴史も、生まれたパブリックイメージも、そこに反撥するようにして生まれる感性も、全てが「木下百花」であること。人には人の王道があり、木下百花には木下百花にしか表現し得ない時空があるということーーそんな凛然と自立した場所に、今の木下の音楽はある。そして、その実感の果てに生まれたのが、「悪い友達」という名曲だったのではないか。
もちろん、『家出』や『また明日』で見せた方向性も、この先より深化して私たちの目の前に現れるのではないかと、私は期待している。これらの作品が持つ自然光に照らされたような純真な光と、素直でシュールな詩情には、この時期の木下にしか捉えられない輝きが確かに閉じ込められているから。
最後に突飛なことを書くようだが、私は木下の音楽の根底にあるものは、この世界の既成概念や常識、正論ーーひと言で言うなれば「支配」ーーから離脱しようとする意志だと思っている。木下百花の音楽はあなたの手を引き、あなたを「支配」の外側に連れ出そうとするだろう。その逃避行の先、行きついた果てで、「あなた」は「あなた」でしかいられなくなるだろう。その「孤独」に耐えられるかどうか。音楽というのは本来的に自由なものだが、もし木下百花の音楽が聴き手に求めるものがあるとすれば、ポイントはそこなんじゃないかと思っている。
■リリース情報
新曲「天使になったら」
2月14日(月)デジタルリリース
■ライブ情報
『木下百花生誕祭 -生きるとは-』
東京・恵比寿LIQUIDROOM
日程:2022年2月13日(日)
開場 / 開演:OPEN 16:15 / START 17:00
チケット代:スタンディング ¥4,000 (税込/整理番号付)D別
<プレイガイド>
ぴあ:https://bit.ly/3pYhoqM
e+:https://bit.ly/3yzqEWp
ローチケ:https://bit.ly/3yBSD7V
木下百花オフィシャルサイト
https://kinoshita-official.jp/
木下百花ファンクラブサイト
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